崖っぷち!続かない五線譜
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*凛月side
紡が倒れて丸一日が経とうとしていた。
紡の病室からは5月らしい新緑が見られて、起きていれば即座に窓を開けて「霊感(インスピレーション)が湧いてくる!涼しい!いいね!」と失われた語彙力を歌詞へと書き起こしていくはずなのに、紡は丸一日目も開けずスヤスヤ寝ている。
あのあと、紡の両親や転校生…ま〜くんたちや兄者たち、様々な人が顔を見にきたが、一向に起きる気配はなかった。
紡のお母さんによると、倒れたのは栄養失調が原因で耳が聞こえないのはおそらくストレスからくる突発性難聴なのではないかと医師から言われたそうだ。いつ起きるかはわからないが、起きたら検査をする…。
それを昨日聞いて『Knights』は解散していった。
凛月「寝るのは俺の仕事でしょ?早く起きてよ、女王様…」
瀬名「くまくんは学校に行くのが仕事だと思うけどねぇ…」
凛月「セッちゃん…」
呟いた俺に、今来たのか病室に入ってきたセッちゃんがツッコミを入れる。俺は朝から紡の病室に入り浸り、セッちゃんたちは真面目に学校へ行って今帰りというところだろう…、時刻は夕方ごろになっていた。他の2人は?と聞くと校内アルバイトに行ったと返される。
セッちゃんは紡に近づいて顔を見てから少し離れたイスに座る。
凛月「全然起きないんだよねぇ…難聴?だっけ…俺らの呼びかけも聞こえないのかなぁ…」
瀬名「ストレスからくるものなら、休んだりすると徐々に治るって聞いたけど寝てればわかんないよねぇ…」
凛月「…なんでもっと早く話してくれなかったのかなぁ…」
瀬名「さぁね…」
後悔しても遅い、とはよく言ったもので俺らの知らない間に紡は無理をして俺より断然細いその体を病が蝕んでいった…
もっと早く気づいていれば…もっと早く…紡の異変に気づいてあげられれば…そう思っているのは、俺だけじゃないみたいで、セッちゃんは外を見ながら寂しそうな顔をしていた…。
瀬名「くまくん…俺、紡の近くでアイツの代わりに紡を守ってるつもりでいた…でも何も守れていなかった…結局、アイツも紡も俺が壊したんだ…」
凛月「セッちゃん…その辺は俺はよくわかんない…けどさ、まだ紡は壊れてないよ…きっと大丈夫紡が起きたらまた笑ってくれるよ」
瀬名「…だといいけどね…」
セッちゃんはこちらを見て悲しそうに笑う。
そんな顔をするのはセッちゃんには似合わない…って紡ならきっとそう言うに決まっている。
セッちゃんと王さまの間に何があったか詳しくは知らないけど、今のセッちゃんは王さまと紡を重ねて申し訳なく思ってるに違いない。居た堪れなくて、後悔して「全部俺のせい」って顔をして…とんでもなく加害者であり被害者でもある…そんな顔…
凛月「反省してるならさ、早く『Knights』が活動できるようになるのが一番手っ取り早い謝罪なんじゃない?」
瀬名「謝罪ってなに…」
凛月「反省…してるんでしょ?顔見ればわかるよ♪
紡は『Knights』が元気に活動してるのを見るのが一番嬉しいと思うよ。俺は…♪」
瀬名「…そう…じゃあくまくんももっと頑張りなよぉ…」
いつも通りの笑顔に近づいた気がする…、セッちゃんがこっちを見るので、俺も笑顔で返す。
紡…セッちゃんの元気がないんだ、早く起きないと『Knights』も本調子にならないよ…早く起きて…?
*瀬名side
くまくんに『謝罪』なんて言われてしまい、居た堪れない気持ちになってしまう。
くまくんは人に興味のないフリをしてしっかり人の感情とかを考えたりする人だと思う…。特に紡関連のことになると結構顕著に見て取れる。
しかし、紡がこうなってしまったのは俺が『DDD』でやらかして、その罰としていつもはやらない量の作曲をしたことが原因の1つでもあるに違いない…。また俺は俺のせいで大切なものを壊してしまった…。そのせいでくまくんも…なるくんもかさくんも…不安な時間を過ごしている。
俺たち『Knights』は個人主義ではあるものの紡のことはそれぞれが大切に思っているのもまた事実だ…。
もしも、紡が起きて…いつも通りのままでいられるのか…、よくわからないでいた。
俺の頭は丸一日たった今でも整理できてはいなかった。
俺はどうすればいい?アンタならどうする?教えて、レオくん…。
凛月「セッちゃん…?まだいる?俺はそろそろ帰っちゃうけど…」
瀬名「あぁ…じゃあ俺も…」
『…んん…』
凛月「紡⁉︎」
帰ろうと思った矢先、寝ていた紡が小さく唸る…俺も、離れようとしてたくまくんも紡のそばに駆け寄る…
紡は瞼を重そうにしながらゆっくりと開けていく…
『りつ…?いずみ…?ここは…?』
凛月「ここは病院…女王様、あのあと倒れて心臓止まるかと思った…」
瀬名「丸一日寝てたんだよぉ…心配かけないでよね…」
『…もうちょっと大きな声で喋って…』
そういうと、くまくんがすかさず耳元によりさっき喋った内容をもう一度言うと紡は聞こえているようでウンウンと頷いていく。聞こえてる…よかった…。一安心して肩の力が抜けていくのを感じる…。
『えっと…心配かけてごめんね?大丈夫だよ…』
紡が力ない笑顔でこちらに笑いかけてくる…何が大丈夫なのか、そんな笑顔で笑われても安心できない…
瀬名「もう…そんな顔で安心できるわけないでしょぉ?」
凛月「セッちゃんが大好きな女王様が倒れて心配したよぉ、だって」
『えぇ…大好きだなんてそんな…照れるなぁ…』
瀬名「ちょっとくまくん!言ってないこと吹き込まないでくれる⁉︎」
『あぁ…今のは聞こえた。言ってないのね…凛月、嘘はつかないで』
くまくんが俺の言った言葉を勝手に変換すると紡は照れたように笑う。ツッコミを入れると大きな声だとある程度聞こえるのか、紡から返答が返ってくる…。
いつも通りのやりとりにさらに安心感を覚えた。よかった…。いつも通りにやれてる、通訳は必要なものの会話もできる…これで元通り…
そう思っていたのは俺だけだったみたいで、紡はその違和感をまた俺たちに隠していたのだった。
いつも通りが恋しい
「…君ならどうしてた、じゃなくて今の俺にできることを考えないとねぇ…」
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