レクイエム*誓いの剣と返礼祭
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天祥院「あくまでも、僕の推測だけれど…たぶん今、司くんは真っ二つに引き裂かれようとしているんだろうね」
月永「えっと、物理的に……じゃないよな?グロい絵面を想像しちゃったんだけどっ、そういうの苦手!」
『単なる比喩表現でしょ…』
天祥院「もちろんだよ、あの子は今、『名門、朱桜一族の唯一の跡取り息子』としての自分と『夢ノ咲学院における強豪、人気アイドル『Knights』の一員』としての自分の狭間で揺れているんだと思う」
天祥院くんの言う通りだ。ここ最近の司くんは公私においてどちらを優先するのか、選ぶのかで揺れている。
家族か、仕事か……いや生まれた時から持っている宝物と自分で見つけた新しい宝物との間で揺れている。相談された時に私はうまい返事ができずにいたが選ぶに選べない状況にいた私からするとその気持ちを共感することしかできなかった。
真面目な司くんらしい、大事な問題なのだ。
『大事なものがたくさんあると、場合によっては自分が苦しんじゃうよね』
天祥院「ほんとだよ、場合によっては不幸だよ」
月永「………?」
天祥院「ふふ。紡ちゃんと共感できるのは嬉しいけど、謎めかすのは止めて、具体的に言おうか。曖昧な話をしても君が理解してくれるのが嬉しくて、つい回り道をしてしまったけれど
もう、僕たちにはあまり時間が残されてないしね
端的に言おう。……先日、現在の朱桜一族の当主、つまり司くんの父親が病に倒れた」
司くんのお父さんは子供の頃のやんちゃしていた時にもらった業病が長い苦境と最近の環境の変化が、それを再発させたらしい…。原因不明の奇病で、死亡例も多数あると聞いた。それを知ってか、お父さんから「後の事は頼む」と伝えられた。
一般人からは想像できない話だ、それでもお父さんは「アイドルを辞めろ」とは言われなかったらしいが…。だからこそ司くんは迷っているんだ。
天祥院くんの話をレオは黙って聞いている。そして、その顔は何かを考えているようにも思える。
天祥院「けれど。そんな尊敬できる親だからこそ、その言葉は重たく響く。その気持ちを尊重してあげたい、と思ってしまっても仕方がないね
そして、これも推測だけど……。真面目な司くんは、思い悩んでしまったんじゃないかな。ねぇ、紡ちゃん?」
『…え。ここで話を振られるの…。まぁ、あながち間違えてないけど…真面目がゆえに一族のために尽くすべき、そう思っているのは確かだと思う。もちろん、ご両親がそう言ったわけじゃない。けど、レオも知ってる通りあの性格だから、葛藤してると思うよ。
きっと彼にとって今現在が、目の前の景色がキラキラ輝いていて、あまりにも楽しくて幸せで……
ずっと視界から外れていた問題が浮き彫りになった…』
天祥院「おや、当たってるみたいだね。
まぁ、僕は司くんじゃないから、想像しかできないけれど
さぁ彼は、どっちを選ぶんだろう?どんな自分に成りたいんだろう?この問題に正解はない。僕もずっと、同じような疑問を抱えている」
人間いつも悩んでいるのは当然だ。ひとつの決心をしても、本当にこれが正解なのかどうかはきっと、死ぬ時にわかるんだから。
『後悔するか、どうかは決心したあとの自分にかかってるんだよ』
天祥院「ふふ。紡ちゃんもこの気持ちをわかる?」
『正直、わからない。御曹司の話はね?
けど、私も選択の日々だよ。きっと、みんな同じ。私もレオも天祥院くんも…。毎日が選択だ、けど私は決めるたびに後悔しないように生きてる…つもり』
天祥院「うん、いい心がけだ。けど、紡ちゃんは口下手だから人を介して話すんじゃなくてもっと直接話すべきだと思うけど」
『口を開けば遠まりな天祥院くんに言われたくないけど?』
月永「うん!理解した!テンシありがと〜!おまえへの用事は終わった!必要以上に紡と話さないで!」
天祥院「…嫉妬かい?」
月永「違わないけど違う!お前と紡が話すとなんか嫌!」
天祥院「…そう。じゃあ早く教室に戻りなさい」
そういうとレオは「わかってる!」と私の腕を引いて生徒会室を後にする。早朝ということもあり、学校全体に人が少なく感じたが…かなりの時間がたったのか人の気配がする気がする。
レオは何も言わずに腕を引っ張る。
『レオ…教室は逆なんだけど』
月永「教室に行く必要はない!話そう!」
『えぇ…卒業間近とはいえ、登校しないと』
月永「ダメだ!霊感(インスピレーション)がわいてる間に話をまとめる!」
『……?』
レオがいう霊感(インスピレーション)っていうのはいつもの音楽の話じゃないみたいだけど……
まだ寒い3月の外、あまり出たくないのだけどレオは屋上のベンチに腰を下ろした。私もそれに倣う
月永「さぁ!仕事の話だ『マネージャー』!」
『え…?あぁうん、了解しました』
レオは本当に仕事の話をし始めた。あくまでも先ほどまで話していた話は、司くんの話を元にした私の推測と天祥院くんの推測だ。あくまで、妄想の話だ。しかし、これが現実ならばいつ司くんが「やめる」と言ってもおかしくない話…。
レオはそれでも心のどこかで彼のことを信じているのだろう。
月永「…で、ここから雑談なんだけど。」
『えっ…うん?いいけどメモするから話してて』
月永「…卒業したらどうするの?」
『え…前も話したけど脚本とか書いてるよ?作曲も作詞も続けるし、機会があれば演出とかしてみたいと思ってる』
月永「『Knights』は…」
『……わかんない』
月永「…!?わからないってなんだよ!」
『…悩んでたんだけど、プロデューサーって立場は難しいし…でもこれからも『Knights』の音楽を作りたいなぁとは思ってる』
月永「それがいい!それしかない!どんな形であれ、お前が『Knights』にいるというのは大きい!
お前、最近卒業するから私に関係ないって顔するだろ?なんか達観しててムカついた!おれはこんなに悩んでるのに!」
『ムカついたってひどいなぁ〜…まぁ私はこれからも日本で『Knights』のサポートをするよ。そのくらいしかできないしね、今日の天祥院くんが言ってた例の計画についても手伝えることは手伝おうかなって』
月永「…え?」
『えっ、今変なこと言った?』
月永「……日本で?」
『うん?うん…まぁ経験として海外に行くと思うけど今のところは日本にいるつもりだけど』
レオはベンチから立ち上がり、あわあわと焦った顔で左右に動き回る。すると、途中何かを思いついたのか「ちょっと!おれ用事思い出した!アレよろしく!じゃあな!」と屋上から去っていった。
日本にいることをさりげなく伝えれば、まさかあんなに驚いた顔をするとは、きっと泉が海外に行くことを伝えたらもっと驚くんだろうなぁ…
泉は卒業後にモデルの仕事を本格的に再開する。過去のこともあってか、日本は難しいかもしれないと相談してきたのは数ヶ月前の話、11月に話した内容をより詳細に自分の思いも含めて話してくれた。海外を拠点にしてチャレンジするのもいいんじゃないのかと提案すればそれが採用されてしまった。彼の『希望』を捨てない心を私に聞かせてくれた。それだけで充分協力するには値する。
厳しい業界で生き抜く彼に私ができる手は何回でも差し伸べよう。
彼がその美しい顔で真っ直ぐ前を見るために大事な友達としては手を貸さないわけにもいかないだろう。使えるものは使え、なんてよくいったものだ。私も使われた側の人間だし、使った側の人間だ。泉とは持ちつ持たれるがちょうどいいのだ。
『私はいつから『Knights』の相談役なのかなぁ…はぁ……
教室帰ろうかな』
君たちの選択
『どうか後悔しない選択をして』
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