レクイエム*誓いの剣と返礼祭
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お茶を入れてから数分後ーー
三人で一息ついているわけだが、やっぱりどうあがいてもまずいもんはまずい。レオが話している間も私の意識はどっちかっていうと紅茶に持ってかれつつあった。
天祥院「ふむふむ
相変わらず説明が下手だね、月永くん。とっちらかった話を僕なりに要約してみるから、不備があったら指摘してほしいな」
月永「ふ〜っ、ふ〜っ!」
天祥院「……?どうしたの、子猫みたいに威嚇して?」
『威嚇じゃなくて冷ましてるだけだよ』
天祥院「…え?あれが?」
月永「あれってなんだよ!お茶が熱かったから『ふうふう』してるだけ!」
『ほらね?』
天祥院「緊張感がないなぁ……。聞いた感じけっこう厄介そうな事態の渦中にいるようなんだから、もっと真面目にやりなさい
まぁ、パニックになられても困るけどね
ともあれ。要するに、朱桜さんちの司くんが行方不明なんだって?『Knights』のリーダーに選ばれそうになって、それを拒絶してから一週間ずっと……?」
月永「いや行方不明ってほどじゃないんだけどな、いちおう欠席の連絡はくるし。ただ理由を聞いても説明してくんないから、かなり心配になってる」
先週の王冠授与を司くんが拒否してから一週間、司くんは学校を休んでいた。司くんが一週間も学校を休むというのはこの一年で初めての出来事だった。私もレオも泉も…みんな心配だし不安に思っていた。本人に何もないからいいが、事情が事情だからこそレオは特に不安に感じているのだと思う。
月永「顔も見られないんじゃ不安だ〜、今までこんなことなかったし」
『お前がいうなよって感じだよね〜』
天祥院「ふふふ、そうだね。自分が不登校の間、どれだけ周囲の人間に心痛を与えていたか思い知ったかな?なんて言うのは意地悪か……君を追い詰めた僕には、その点を責める権利はないしね
ともあれ。何か最近、そういう話をよく聞くね」
『蓮巳くんのところも神崎くんが失踪してるって聞いたし、他のユニットもおかしな行動が目立つよね〜』
天祥院「紡ちゃんがそんなのんびりになるのもおかしいと思っちゃうけど…『返礼祭』からは下級生が主体となる、と決めたのは僕だけど早計だったかな。ううん……いつまでも上におんぶに抱っこでは、いつまで経っても成長できないしね
ユニット制度の恩恵あるいは弊害として、僕たち夢ノ咲学院のアイドルは仲間意識が強まりすぎている感がある……けれど絆は、容易に依存へと変わる」
天祥院くんのいう通りだ、いつまでも上に言われるがままに動くアイドルは恐らく天祥院くんの望むアイドルではないのだ。そんなものは、彼にとって奴隷と似ている存在、自分で考えることをやめたものはそれ以上の成長は見込めない。それを乗り越える一つの壁が『返礼祭』なのだ。上級生がいなくてもアイドルでいられるように…上級生に依存せずにいられるように…
天祥院「だから月永くん紡ちゃん、僕の『計画』についてもしばらくは誰にも話さないでくれるかな。下級生に対しては当然にしても、卒業生にもね
絶対に死のような哀しいお別れが訪れない、という慢心は腐敗を生む
今のアイドルたちは成長痛を、いいや臍の緒をちぎる痛みを必要としているんだ」
『うん、わかった。内緒にしてる……あまり怖いことしないでくれると嬉しいんだけど…』
月永「ん〜……っと、あぁうん?そうだな?納得した!おまえ小難しい喋りかたするよなぁ、絶対に誤読が許されない六法全書か?わはは☆」
天祥院「君と紡ちゃんなら理解してくれる、と信じているからこういう物言いをしているんだよ
舞台を訪れてくれるファンなどに対しては、もうすこし噛み砕いて喋るさ」
月永「良いんじゃないか〜、わかりやすいのが好まれる世の中だけど!小難しいのも必要だろ、どっちか片方しかない世の中なんか退屈だ!みんな違ってみんな愛しい……☆
……とにかく、要するにだ。『Knights』は、おれと紡に対しての人質ってことか。だから、おまえはおれらにだけ自分の計画を話したんだな?」
天祥院「話が飛んだように聞こえるよ、僕には理解できるから『そうだよ』と答えるけどね
古くさい騎士という概念を背負う君たちに対しては、古代の戦争では常套手段だった『人質を取る』という手法が相応しいだろう?もう二度と僕は、ううん世界は……。君と…それを支える紡ちゃんという素晴らしい二人の才能を失いたくないんだよ、月永くん」
月永「ん〜?べつに人質なんか取らなくてもいいのに〜、おれはもう逃げないし?紡もべつに逃げないよな〜?」
『え〜?ん〜、まぁ逃げる理由は私にはないから…』
天祥院「へ〜…」
『意味ありげな返事しないでよ。逃げません!』
月永「まぁいいや。今日の本題はそれじゃない、行方不明にのスオ〜が心配なんだよ。おれさぁ、あいつを困らせちゃったのかなって?だって変だろ、真面目なあいつが一週間も休むなんて!おれの願いを拒否しちゃったのを気に病んでるのか、また同じこと言われるのが嫌だからって逃げてるのかーーー
どっちにせよなんにせよ、タイミング的におれのせいな気がする!もしそうだったら申し訳ないし、普通にあいつが心配なんだよ〜!
紡は訳知り顔なのに、頑なに話してくれないし…なぁテンシ、何か知らないか?」
レオのいう通りだ、私はきっとレオの知りたい答えを知っている。けれど、私はその内容をホイホイ人に話していいのかわからない。司くんのお家事情はたまに聞いてはいたが、時期もあってかレオが不安がっている。助けてあげたい反面、それを話すのもどうかと思う…。
どうも、この時期はトラブルが絶えない…。どこも大変なようで、毎年こうなのかと問われても、私もこの頃はアイドル科に出入りしていないし、一年の時は返礼祭には関わっていなかったし…。わからない。
天祥院「僕たち『fine』が抱えたトラブルは必然的な、それこそ成長痛のようなものだから
ふふ。そんな喩えをしても、成長期が来なかったらしい君にはわかりづらいかな?」
月永「あっ、今のは腹立つし傷ついた!デカいのがそんなに偉いのか!ちゃんとおれも育ちます〜、男の子は二十歳を過ぎても成長するって説を信じてます〜!」
『天祥院くんもそんな意地悪しないでよ〜気にしてるんだから』
天祥院「そう?ちいさいほうが愛らしいのにね。な〜んて、斎宮くんみたいなことを言っちゃった」
『宗くんはちいさいものが好きだけど、なんでもいいってわけじゃないよ?』
月永「おれのことは嫌いみたいだし〜?」
天祥院「ふぅん。すごく仲良しに見えるけどね、まぁ『王さま』くんには、特別愛してくれる『女王様』がいるからいいよね。羨ましいぐらいだよ」
『…⁉︎急に話こっちに持って来ないでくれるかな!
ていうか、雑談が多すぎる。話を戻そう?
とにかく、司くんのことは私からは言えない…。けど天祥院くんが言った言葉は止めない…。だから、ごめんね『英智くん』。レオを助けて?』
天祥院「紡ちゃんにそんな風にお願いされたら、仕方ないね。簡単に、問い合わせにだけ答えようかな。僕を頼ってくれて正解だったよ月永くん、司くんの抱えた問題については把握している」
天祥院くんは、レオの問い合わせに答えるべく、口を開いた。私たちはただ、それを真剣に聞くことだけに全神経を注いでいく
貴族の茶会
『というにはあまりに質素』
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