鏗鏘のStar Light Festival
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面接会場のようになっている『稽古場』に入り、指示された椅子に座る。目の前には、監督、演出家、そしてこの劇団の座長が並んで座っており、その周りには劇団員が立ち見している…。
なんだか、面接というよりはサーカスのピエロになった気分になるが…気にしないように努めた。
監督「緊張しないで、別にとって食うわけでもないし。お堅い面接というわけではない。
ただ君の話を聞きたいと思ったんだ。それを聞きたくてみんな集まってしまってね。気になるようなら、みんな外に出てもらうよ」
『いえ、大丈夫です。このままでも』
監督「ありがとう、じゃあ話そう。脚本家志望とのことだけどウチ以外はどのくらいの劇団を受けているんだい?」
『えっと、劇団名は控えますが10個ほど脚本は出しました。』
監督「どういう基準でその10個の劇団を選んだんだい?」
『自分の作風にあう劇団かどうかですかね…。それから失礼ですが自分の力試しにとテーマの決まったところに提出しました。』
監督「返事はもうもらった?」
『3つはもうお返事をいただきました。あと6つは年明けの予定です。』
様々な劇団の募集を見た。演劇科の子から劇団の噂や作風など様々な情報を集めそこから自分の作風や世界観にあう劇団を選んだ。それとプロの意見を聞けることなんて滅多にないとテーマが決まっていたところには力試しに提出してみた。
だいたいのところが、メールでの返信だったのだが、その回答は悪いものではなかった。
監督「返事はどうだったのかな?」
『3つともいいお返事をいただきました。しかし、断りました。』
監督「へぇ…なんでかな?」
『私は、この劇団で脚本を書きたいと思っています。』
監督は「どうして?」と問うので、私はゆっくり昔話をする。昔から、両親の趣味でコンサート、ライブ、オペラ、演劇、様々な舞台を見てきた。中学一年生の夏、父に連れられて初めてこの劇団の舞台を見た際に感動した。演目は王道中の王道「ロミオとジュリエット」。他の劇団のものも何度か見たことがあったが、他のものがかすむほどに印象残るステージだった。それから、年に二回か三回は見に行くようにしている…
『今年も夏の舞台を見に行きました。『ヴェニスの商人』でした…。役者ひとりひとりの表情が、セリフがなくとも感情や言いたいことを伝えてくれました。…ずっとファンだったんです…。だから、脚本家になりたいと思った時からいつか…この劇団の世界の一部になりたいと思うようになりました。』
監督「まさか、こんなにウチのことを愛してくれる人がいたなんてね。ウチのことをわかっているからこそあんなに素晴らしい脚本ができたんだね?」
それを聞いた瞬間、心が浮かび上がる感覚がした。これは褒められた…?素晴らしい、と言ってもらえた「つまりつまりだ!これは専属でとってもらえる!」そう思った瞬間、その浮かんだ心は一瞬で突き落とされる。
監督「だが、残念だけど今回はご縁がなかったということで…」
『え…』
監督「君はまだ若い。専属で1つの劇団に縛られるのはもったいない。」
『ま…待ってください!えっと、いい本だったんですよね⁉︎なら…なんで…』
監督「最後まで聞きなさい。君は18だ。まだまだこれから先に素晴らしい将来がある。様々な経験ができる、海外に行った事あるかい?恋をしたことがあるかい?とんでもないと思ったことに挑戦したことはあるかい?
若いうちにできることをして、引き出しを増やせば増やすほど脚本に色が何重にも重ねられる。そう思わないかな?」
『…わかる気がします。』
監督「そうだろ?だから、もっと引き出しを増やしてさらにいい本を書けるようになって、それでもウチで専属で書きたいっていうなら是非ともうちにおいで」
『…え…』
監督「それに、フリーになるなら定期的にうちに本を出してくれてもいい。成長を見れるっていうのも悪くない。」
『…そんな、高く評価されるほどのものでは…』
監督「そんなことはない、文字からでもどんな舞台でどのようにって本の中でステージが出来上がっていたよ。」
『ありがとうございます…』
監督「じゃあ、話は以上だ。よければこの後稽古なんだけど見て行くかい?」
『いいんですか…?』
監督「もちろんだよ。プロの現場を見て行くのも経験だ。じゃあみんな準備して、紡ちゃんは僕が劇場の案内でもしてあげよう」
『…は、はい!ありがとうございます!』
監督が席を立ち、周りの人に指示を出してから私に「ついておいで」と手を招く。それに従って彼の後ろをついて行く、行き慣れた劇場の裏の世界には私の知らない世界が広がっていた。ライブハウスの裏側やステージの裏側は見たことあるものの、それとはまた違う世界が広がっていた。物珍しさのあまりキョロキョロしていると監督が笑い出す。
『あっ…すみません。子供っぽかったですよね…』
監督「いやいや、いいんだよ!僕よりは全然子供なわけだし、そうやって目を輝かせている子を見ると昔の自分を見ているようで…あはは!ごめんね?」
『監督も…最初はこうでしたか…?』
監督「もちろんだよ。新しいものには興味津々でよく先輩を困らせた。けど、そんな自分がいたからこそ今の自分がある。」
『今の自分…』
監督「それに、その時劇場のことを教えてくれた先輩っていうのが今の奥さんだったりね」
『えぇ⁉︎先輩を…すごい…です』
監督「いやぁ…付き合った時は周りから色々言われたりしてね?なんたって、奥さんはここの元トップ女優だから」
『…トップ女優…』
監督「そうそう、新入りがあの人を落とせるわけないとか遊ばれてるだけだ〜とか…色々言われたけど、気づけば誰も何も言わなくなった。」
『なんで…ですか…?』
監督「さぁね…でも奥さんが言ってたのは「堂々としてればいい、二人の愛を表現できるのは私たちだけだから」だってさぁ〜…かっこいいよねぇ」
『はい!かっこいいです…!』
監督は話しながら、案内をしてくれて一通り説明を終えれば誰も座っていない客席に腰を下ろす。私もその隣に座らせてもらって話の続きを聞く。その話はどこか自分の恋と重なる部分を感じて、先のことばかり考えて一歩も踏み出せない自分を少し恥ずかしく思った。
『監督は身分違いの恋だって…尻込みしなかったんですか…?』
監督「したよ!彼女はここのトップだからね…新入りに見向きもしないと思ってた。だから、気づかないフリしてたんだ…。でも、彼女から…なんて恥ずかしいな!この話はやめよう…!」
『えぇ!気になるじゃないですか!』
監督「君も年相応な女の子だね…おじさんのこんな話に興味を持つなんて」
『えっ…まぁ……恋バナは嫌いじゃない…です。』
まさか、自分の恋と重ねていましたなんて言えるはずもなく、曖昧に流しておいた。すると、役者の方が監督を呼びきて稽古へと戻ることになった。そして、学院に帰る時間になるまで私は劇団の稽古を眺めて過ごした。
帰る時間になる頃には役者の方、様々な方々が話しかけてくれた。仲良くなってしまっては別れも惜しく、しかしみんなが「またおいで」と声をかけてくれた。
そして、見送りに出てくれた監督がタクシーに乗った私に声をかける。
監督「紡ちゃん、君がどう思ってるかは知らないけどこれは人生の先輩からの助言だ」
『…?はい…なんでしょうか』
監督「周りよりも先に自分の大切な人だけを見てもバチは当たらないと思うよ。たまには、人より自分に素直になってもいい。奥さんに告白された時僕はそう思った…。」
『…へ?』
監督「じゃあ、また会おう。今度はもっと成長した本を持っておいで」
『あっ!はい!必ず!』
そういうと監督はタクシーから離れ、タクシーはそれを合図に前に進み始める。監督が何を伝えたかったのか、わかるようでわからない…。けど、きっとナルちゃんとの約束はこういうことを伝えたかったんだと思う。
自分に素直に……。なれるだろうか。いや、いつかきっとなれるといいな
新しい答え
『周りよりも自分の大切な人を…』
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