轗軻の恋と、親友との約束
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泉と海辺にきてそこそこの時間がたった。
私は霊感(インスピレーション)が湧くままに歌詞を書いてると、泉は「あのさぁ…」と声をこぼす。
『なに?』
瀬名「好きなやつでもできた?」
『…えっ⁉︎は…はい⁉︎急に何⁉︎』
瀬名「…あぁ、言わなくていいわ。わかったから」
『なんで⁉︎何も言ってない!』
瀬名「あんたはそういうのわかりやすすぎ…」
『そういう泉は…どうなの…恋、してるんじゃなかったの…?』
まさか泉に恋の話…。所詮『恋バナ』をふられると思わず、動揺を隠せずに話を続ける。泉はまた立ち上がって「少しだけ海入ろう」と綺麗好きな泉には予想外の行動が多く流されるまま泉の指示に従う。
靴と靴下を脱いで、ジーンズの裾を数回巻き上げる。
ちゃぷちゃぷ、と数歩足を進めれば水の冷たさを感じた。
泉も同じように足をつけて「つめた…」と呟く。振り返って泉を見れば泉はまっすぐ私の方を見ていた。
瀬名「紡、俺が負け戦嫌いって知ってるよね?」
『うん…、だから負けないように努力を怠らないのも知ってる。』
瀬名「でも、努力でどうにもできない時もあるの」
『…えっ…ん〜?プロとアマチュアの試合とか?…ジャンル違いの戦いとか?』
瀬名「違うよ、他人の感情の話」
『他人の感情の話…?』
瀬名「俺がいくら好きでも、相手がそうじゃないと意味がない。
だから、俺も結構長い間頑張ったんだけどさぁ〜?そいつはずっと違うものを追いかけてた…。鈍いやつだから、気づいてもらえるようにちょっとほのめかしたりしたんだよぉ?
けど全然ダメ。それに、違うヤツのために一生懸命自分変えようとしてさぁ?」
『それは…その違うヤツのことが好きなんじゃないの…?』
瀬名「そうだろうねぇ…だから、最終手段だって思って告白めいたことも言ってみた。
けどダメだった。元からわかってた負け戦だったの…だから…この恋はずっと俺の中に置いておくことにした。」
『そんな…泉が辛いじゃん…』
瀬名「そうでもない。結局、俺は恋してるソイツが好きってわかったから…
ソイツの恋を応援したいし、ソイツが幸せならどうでもいいの。」
『泉が…いい男すぎる…』
瀬名「今頃気づいたのぉ?残念でした〜恋してる女には興味ないのぉ〜」
『ぎゃあっ!ちょっと!しょっぱ…しょっぱい!』
泉は片手に水をすくい、あろうことか私に投げつけた。私の顔は海水まみれになってしまう。泉の声は少しだけ悲しさが混じった声だった…。顔はきっとみてほしくないんだ…。そう思って、顔はあげずにいた
『泉…泉は本当に本当にいい男だから…絶対あなたを大切にしてくれるお姫様が現れるよ。そしたら、その時精一杯愛してあげてほしい…。きっと同等の愛をくれる人がいる。きっと、今の恋はそれを知るきっかけの一つなんだよ…。
その人の恋を泉が応援するように私はあなたの本当の恋を応援するから…』
瀬名「…うん、ありがと
俺もあんたの恋を応援してるから、ほしいもの全部手に入れるんでしょ?恋は例外なの…?」
泉は知ってるんだ…。私が好きな相手を、そしてこの恋を諦めようとしてることをわかってる。
『うん、例外だよ…。この恋は叶わないから』
瀬名「何もしてないでしょ?」
『泉…あなたの恋はどうだった?幸せな未来は想像できた?失恋で悲しむ自分しか想像できなかった?』
瀬名「なに…?急に」
『私の恋は叶うとみんなが幸せになれない。私だけの幸せとみんなの幸せ、それは天秤にかける必要もない。
その答えはわかりきってるから、私は……この恋をしまっておく。』
覚悟を決めて顔を上げると、泉は苦しそうな顔でこちらをみていた。予想外の顔に驚いていると、急に手を引っ張っていつかのように抱きしめられる。まさか続きに息を飲む。
瀬名「あんたはバカだ!大人になったのかと思ったらなりすぎだよ!もっとワガママでいいんだよ!他人の幸せとか考えず、自分の幸せだけを考えなよ!
俺の恋は確かにダメだったかもしれない。でも幸せな未来を見てた!けど結局はソイツとソイツが好きな奴が付き合ってくれれば俺は見てた未来よりも幸せなの!だから俺自身の幸せはもう後回しでいいの!そう思えたから諦めるの!
なのに紡は何もせずに諦めようとしてる!強くなるんじゃないのかよ…!弱虫!嘘つき!アホ!」
『あの…泉…さん…?言い過ぎ…流石に傷つく』
瀬名「勝手に傷ついとけよ!このくらい言わないとバカなあんたには伝わらないでしょ!やっとバカなあんたが気づいたのにそれを諦めてるなんて…もっと一生懸命になれよ!」
『…だって…だってぇ…私は私はバカだからぁ…』
瀬名「…それに、あんたが勝手に周りの幸せや不幸は推し量ったらダメだろ。それぞれの感じ方があるんだから、あんたがそれを決めたらダメでしょ…」
『うっ…うう…もうどうすればいいのかわかんないよ…もう…うああああっ』
瀬名「ああもう!バカだな、紡はぁ…」
泉は私を抱きしめて頭を撫でた。もう呆れて何も言えない、そんな感じがした…。それでも頭を撫でる手の暖かさはいもしないお兄ちゃんって感じがして安心した。私の涙はその暖かさに止め方を忘れたように流れくる。泣かないと言ったはずだったのに…なんでなんで『Knights』のみんなはこんなにあったかいんだろう…、だから私は彼らの幸せのために恋を諦めるしかできないんだ…。誰になんと言われても『Knights』が私の世界の基準だから…
私たちは、自分たちの恋への未熟さを呪うように抱きしめあっていた。
……少しして、私が落ち着いたのを確認して泉はまた手を引いて二人分の靴をとって浜辺を歩いていく。
私はその後ろ姿をジッと見つめたまま、ぼんやり考え事をしていた。それは恋のこともだが、『Knights』のこと、将来の夢のこと、学校のこと…、そしてそして…
『泉…、卒業したらどうするの?』
瀬名「え?…あぁ、モデルとして海外に出ようと思う。」
『じゃあ、『Knights』は?』
瀬名「…やめないよ。その都度戻ってくる…、まだ明確には決めてないけど…やめないと思う。あんたは?」
『さっきも言ったけど脚本家に…』
瀬名「違う、『Knights』は」
胸がズキリと痛んだ。私は卒業したら『Knights』をやめようと思ってる。それを今ここで泉に伝えるべきか…?絶対怒る。また何を言われるかわからない、でも…これ以降でいつ伝える…?どうやって…
瀬名「…なんでもいいけど、王さまにはちゃんと言ってあげなよ?」
『あ…うん…』
泉はそれ以上は聞かずに、足洗い場へと向かいお互い足を洗ってバイクに乗って来た道へと帰っていく。来た時とは違い、泉の背中はどこか小さくて悲しさを背負っていた。それを隠すように私は泉の背中に抱きついた。
ああ、どうか神様が本当にいるのであれば…
私の大切な友達であり、騎士である彼に素晴らしい未来と幸せが訪れますように…
瀬名泉の場合
瀬名「(俺は後悔なんてしない、だから最後まで傍で見届けさせてよ)」
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