轗軻の恋と、親友との約束
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14:50ーー。
私は焦っていた。なぜかってまだ私は電車の中にいるからだ…。指定された駅まで15分はかかる…数駅進んでいるから10分くらいか…、時間通りになるかどうか…まさかPCを見ていて、店員さんに話しかけられて捕まり続けるなんて押しに弱いのも考えものだ…待ち合わせに遅れたとしても相手が誰かわからないから連絡のしようがない…
どうすることもできず、ただドアの上にある電子板を凝視する。心の中で「はやくはやく」と祈る。
目的の駅に着けば15時少し過ぎた頃、だった。
周りを見渡し見知った顔がいないかと見るが、見知った顔はなかった…。どうしよう、帰ってしまっただろう…。時間に厳しい人間なら呆れてしまうかもしれない…
『あぁ…どうしよう。たった5分されど5分…遅刻は遅刻だ…』
氷鷹「すまない。夜永先輩、遅れてしまった」
『ほ…北斗くん…』
氷鷹「どうした?流石に待たせすぎて帰るところだっただろうか…?」
『いやいや!私も今来たところで、むしろ私も遅刻してしまったから焦ってて…!』
私の後ろから肩を叩いて現れたのは北斗くんで、どうやら北斗くんも電車が遅れていたらしく待ち合わせ時間に遅れてしまったそうだ。少し申し訳なさそうにしていたが、自分も遅れたことを伝えれば「そうだったのか…よかった」と微笑む。
『お互い様ってことで、ごめんね?北斗くん』
氷鷹「こちらこそ、すまない夜永先輩」
『じゃあ…行こっか?』
氷鷹「あぁ…あっ、こういう時恋人は手を繋ぐものだろうか?」
『そこは…彼氏さんの自由じゃないかな…?』
北斗くんは「そうか…」と手を顎にあてる。急いでいてうっかりしていたがあの氷鷹北斗くんが恋人か…すごいな…と思いながらボーッと見ていると、北斗くんが私の手をすくう。
氷鷹「歩幅を合わせるのが難しい。あんずもいつも大変そうだしな…、夜永先輩が問題ないなら手を繋がせてもらおう。」
『…うん。えっと…どこに行くの?』
氷鷹「映画館だ。鳴上がチケットをくれてな、間に合いそうでよかった。少し早歩きするが夜永先輩は大丈夫か?」
『うん、頑張ってついて行くね?』
氷鷹「大丈夫だ、手を繋いでいる。苦しくなったら俺が引っ張るから」
『頼もしい、彼氏さんだなぁ…』
そういうと、北斗くんは少しスピードを速めた。私もそれについて行く、そのペースは私でも追いつけるスピードだったのだが、遅くなったら掴んだ手を持ちかえて空いた手で背中を支えてくれた。それはまるでとある動く城のワンシーンのようで、この後彼が魔法でも使えればこのまま宙に浮くのではないかと錯覚してしまうほどだ。
『北斗くん、ジ*リって好き?』
氷鷹「急…だな…まぁ嫌いではない。小さい頃は父に連れられて見に行ったこともある。」
『いや、ワンシーンに似てるなって』
氷鷹「あぁ…、残念だが俺は飛べないぞ?」
『わかってるよっ!ほら急いで!』
北斗くんは「そうだな」と言ってそのまま走った。映画館に着けば、もう入場が開始しているようで急いで発券して会場内へと入って行く。
氷鷹「先輩すまない、飲み物とかを買えばよかった…、気が利かず…」
『大丈夫!お姉さんに任せなさい!さっき北斗くんが発券してる間に飲み物買っておいたの!』
氷鷹「おぉ!流石だ夜永先輩!」
『お茶でよかった?癖でもう片方はコーヒー買っちゃったんだけど…』
氷鷹「あぁ。お茶で大丈夫だ、ありがとう」
お茶を北斗くんに渡すと、2人してスクリーンに目を向ける。北斗くんがきてわかった気がする。今回の問題は演劇部の脚本だ…。演じる人間が恋愛の世界を知らないというのもおかしな話だ。その勉強っていうのも含まれていたんだろう。そのために一緒に過ごして、一緒に恋愛映画なんて見せて…ナルちゃんの計画的な犯行だ。
ただ遊んでいるだけと思えば、ちゃんと考えてこんな計画をしてほんとナルちゃんは憎めない子だなぁ…。と思っていると映画も気づけば終盤へと差し掛かっていた。
ベタベタな恋愛映画よりも、この限られた時間で味わった不思議な時間の方が私にとってはいい勉強になっているかもしれない。特定の誰かと過ごすその時間がどれだけ愛おしく、人の心を満たすのか…。
手が触れた自らの体が熱を持ちそれが心に広がっていく。そうすれば、不思議と自分の体も心も満たされる…。これは愛でも恋でもなるのか。友情でも愛情でもなしえるのか…。
人を待つことの楽しさ、人を笑顔にしたことの喜び…アイドルの時とは違う。一人の人としての彼ら…。
いつもとは違う空間に、私は新しいことを知る。
氷鷹「夜永先輩?映画、終わったが…」
『えっ…うそ!……見れなかった…』
氷鷹「とても、集中していたので見ていたのかと…」
『ごめん…考え事を…』
氷鷹「大丈夫だ…あ、そうだ。俺は時間がある。よかったら一度休憩して他の映画を見ないか?」
『え…いいの?』
氷鷹「こうやって、夜永先輩と過ごすこともあまりないしな。よければ…だが」
『全然いいよ!見よう!私がチケット代奢るから!』
そういうと北斗くんは、最初は断っていたがゴリ押しすれば「ではお言葉に甘えよう」と言って私の手を引いた。映画館に出て違う映画のチケットを取り、カフェに入って軽くご飯を食べる。その間に、先ほど見た映画の内容を北斗くんから聞く。映画までの時間を話で繋げば、いい時間になる。
『じゃあそろそろ行こうか。ごめんね?2回も映画見させて…』
氷鷹「いや、夜永先輩と過ごせるのは苦ではないし、次にするのが恋愛ものなら勉強にもなる。」
『向上心高くて大変よろしい!じゃあ2回目行きますかっ!』
私たちは再び、映画館へと向かった。今度はちゃんと映画に集中しよう、前は感情移入できなかったヒロインの気持ちも今なら少しは共感できる。でも、やっぱり注目するのはその物語の進み方で、どうも私は職業病を患ったらしい…。
今回の映画は、恋愛よりも普通の物語として、面白いなと思った…
こういう自然な生活の中にある恋愛も悪くないな…
たまに横を見ると、北斗くんが真剣な目で映画を見ていた。触れることなく、私も映画に視線を戻した…。
氷鷹北斗の場合
『もう少しで答えがわかる気がする』
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