朔間凛月
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花吐き病、とはーーー
正式名称は「
片思いをこじらせると口から花を吐き出すようになる病。
治療法は現在のところ1つしかない。発症するときの条件でもある片思いが成就すること、感染者は白銀の百合を口から吐き出し完治する。
つまり、唯一の治療方法は両思いになること。
奇病なんてものに自分がかかるなんて誰が思うものだろうか。私ももちろんその1人だった。
この春、私の生活は大きな変貌を遂げた。
普通の高校から、私は隣のクラスのあんずちゃんと一緒にこの夢ノ咲学院のプロデュース科へと転校してきた。2人とも素人だったが、あんずちゃんは春に夢ノ咲学院をおかしくしているという生徒会に『Trickstar』というユニットと一緒に勝利した。その後、彼女は”勝利の女神”と言われてプロデュースにおわれている。
私は、というとあんずちゃんと比較され"落ちこぼれ"のレッテルを貼られてしまいプロデュースというより副会長の蓮巳先輩に言われ、生徒会の仕事や生徒会主催のイベントの企画書や資料作成におわれていた…。
そんなある日『事件』は起こってしまう。
いつも通りの学校生活を送っていたはずだったのに、その日は珍しく『彼』が教室にいて、授業を受けていた。…受けていた。と言うよりはそこにいるだけで寝ているんだと思うけど…
『彼』ーーー…朔間凛月くんは、同じクラスだけど1つ年上の男性で『Knights』という人気ユニットのメンバーの一人だ。いつも教室で居眠りか不在で学院のどこかで眠っていることが多い。
黒い漆黒の髪の毛に深紅の瞳が、私を見つめると心が締め付けられる思いだった。しかし、その容姿とは裏腹に甘えたな部分があり、偶然出会うと膝枕や教室への運搬を強請ってくることもあった。そんな浮世離れした猫のような彼は、気づいた時には私の心を掴んで離さない人物だった…
それはアイドルとしてなのか人としてなのか…はたまたそれが友情なのか愛情なのか、私にはわからなかった。まぁ友情というほど仲良くはないのだが…
しかし、『事件』はその感情をいとも容易く私に教えてくれた…お昼を前にした授業終わりに、今まで味わったことの無い吐き気に襲われる…
ガタンっと音を立てて、席から立ち上がる…
クラスのみんなが一斉にこちらをむくのを気にせず早足で教室を出ていく…
『…すみません…!!』
教師の声を無視して私は足早に空き教室を目指す。
少し走った先にあった化学室は誰もいなかったのでそこへと逃げ込む。
実験で使う水道のシンクへ。出そうになっていたものを全て出す。しかし、そこに落ちたのは、液体ではなく、到底人間の口からこぼれ落ちるとは思えないものだった…。
『……は…花…?なにこれ……』
口から出てきたもの…それは花だった。自分の口から出たものではあるが、美しい花々がシンクを彩っていた。そのあとも花々は数度にわたって私を襲った。
ネットで調べて見るとこの症状は『花吐き病』と言って片思いをこじらせると発症する病だそうだ。
私がそんなこじらせたような思いを寄せているのは、『朔間凛月』ーーー。その人しか思い当たる人物がいなかった…。気づいてしまった…頭より先に体が…しかもそれが病として現れるなんて…誰も、私自身も予想はしていなかった…。気づいてしまうと、恋という感情は急速に成長してしまうようだ…頭が追いつかず、私はその場に座り込むことしかできなかった…。
あれから2ヶ月…
病院へ通い、先生に相談し…病気と向き合ってきた。治し方はわかっているものの、凛月くんに「あなたが好きすぎて奇病にかかりました。付き合ってください」なんて言えるわけもなく、吐きそうになっては教室から走り去るの繰り返しだった。
最初はクラスメイトの何人かは心配してくれたけど、2ヶ月も経てば見慣れたものだろう。
しかし、それをずっと心配してくれる人もいた…
衣更「おっ今日は顔色いいじゃん♪無理すんなよーあんずも心配してたぞ」
『衣更くん…ありがと、今日はなんとか授業中に席立たなくていいように頑張る…』
衣更「その調子だ!頑張れ!」
衣更真緒くん、同じクラスで生徒会メンバーでもある彼は世話焼きさんで、いろんな人の面倒を見る。特に幼馴染の凛月くんの面倒をみている…病気になってからは私にもよく声をかけてくれるし、心配もしてくれる。
教室だけではなく、生徒会室でもそうだった…、助かる反面、彼が私のもとにくると…
凛月「ま~くんひどいよ。道端に俺を置いて行っちゃうなんてさ~」
衣更「しょうがないだろ~凛月が揺すっても動かないから」
凛月「なまえだ、おはよ♪」
『おはよう…凛月くん…』
片思いの相手である。凛月くんも必然的についてくる。真緒くんと凛月くんは一緒にいる確率が高いが、私のところにいると必ずと言っていいほど凛月くんはやってくる…。嬉しい半面病気のことがバレて欲しくないので、出来れば彼には近くにいて欲しくないというのが本音である。
彼が近くにくると…
衣更「おい、なまえ大丈夫か?顔色が…」
『ウグッ……ごめんっ…御手洗にっ…』
衣更「あ!おいっ…!」
何かが出てきそうな感覚に急いで教室から出ていく。凛月くんがニヤリと笑っていることも知らずに…
何度目になるだろうか、初めて吐き出した時から化学室には随分お世話になるようになってしまった。
シンクにたまる花を見てその気持ち悪さからか、それとも吐き出す労力もあってか…目眩が襲ってくる…朝から、よりによって衣更くんや凛月くんのいる前で席を立つことになってしまうなんて…なんてことだろう。
まだ朝礼も始まっていない。朝日が化学室を照らし、机の影に座り込む。少し落ち着くまでこのままでいよう…。誰もいない化学室で一人座り込んでいると、アイドル科の生徒たちの話し声や走る音などが聞こえてくる…誰もここに私がいることを知らない。そう思うと幾分か気持ちも楽になる。
花を吐き出す様を誰にも見られたくないし見て欲しくない。最初こそ、花は綺麗だと思ったが…、見慣れていくうちにその恐ろしさを実感する。
普通の人は花なんて吐き出したりしない、それも頻繁に。いくら片思いをこじらせている、とはいえ叶わない恋だとわかってなぜこんなに苦しまなければならないことか…
『アイドルとプロデューサー…それも落ちこぼれの方なんて…誰が好きになるのかな…』
凛月「俺は嫌いじゃないよ…?」
『…ぇあ…り…りつくん…?』
凛月「おい~っす♪しんどそうだけど大丈夫?」
音もなく現れたのは、意中の人物凛月くんだった…、まさか見られた…?いつから居たのか、気づけば目の前の机に肘をつきこちらを見下ろしていた。
私はしゃがんだまま口元を押える。
凛月「花吐き病…、だっけ?片思い、してるんだね。」
『あ…ぅん…』
凛月「誰に?なんて聞かないから安心して」
『聞かないの?』
意外だった。病気を知っていることも、その症状を知っていることも、その相手を聞かないことも…、彼が何を考えて今話しているのか、はわからないけど…でも凛月くんが目の前にいるのはいろいろな意味で良くない。
背中に冷たい汗が一筋流れるのを感じる。わずかだが、口を押える手が震える。
凛月「だって…、今すごい吐きそうなんじゃない…?」
『…!?な…なんで…』
凛月「わかってるよ。俺が"原因"なんでしょう?」
疑惑が確信へと変わる。凛月くんは気づいていたんだ。私が彼を好きな事、好きをこじらせて病にかかったこと、そのせいで彼を避けていることも…おそらく全て察している。
『ご…ごめんなさい…好きになっちゃって…付き合ってなんていわないかr』
凛月「ねぇなまえ…この花の花言葉、知ってる?」
『へ…?』
凛月くんは私の言葉を遮り、シンクに落ちた花を1つ手に取る。私の口から吐き出された花を凛月くんは気にもとめず手に取るものだから、驚きを隠せなかった。
凛月くんが手に取った花はパステルカラーの小さい金魚の形をした花ーーー
『確か、リナリア…』
凛月「名前は知ってるんだ…」
『花言葉は…わからない…花屋で一度見ただけだったから…』
凛月「そう…じゃあ俺が教えてあげる♪花言葉は『この恋に気づいて』」
『この恋に気づいて……』
凛月「そう、それでこの…赤に近いピンクの花はモモで花言葉は『私はあなたのトリコ』…
真っ赤で下向きに咲くこの花は…ペンステモン、花言葉は『貴方に見とれています』…どう?すごいでしょ」
『うん…うっ…オェっっ…うっ…』
流石に我慢の限界で再びシンクとご挨拶することになってしまった…。凛月くんに見られながら…最悪すぎる…しかし凛月くんは驚くことなく静かにその様子を眺めていた。
それはまるで前にも見たことある様子で…
『凛月くん、もしかして…だけど…』
凛月「うん、前に見たことあるよ」
『い…いつ…』
凛月「2週間前…?くらい?外がやたら暑くて、屋内で寝床探してたら、廊下走っていくなまえを見つけちゃってさぁ〜、追い掛けってたら今みたいな状況…?流石に驚いたけどさ…
そのあと病気のこととか調べたりしてさ…、その時吐き出した花の意味とか調べたり…」
『そんなことまで…なんで…』
凛月「気になってたんだ…、ずっと…
なまえのこと」
『…え』
凛月「結構前から、好きとかはよくわからなかったけど…でもあの日、花を吐いてるなまえを見て、病気のことを知って…相手が気になって仕方なかった…」
『…それって…』
凛月くんは私が片思いしている相手のことが気になっていた…?2週間もの間、そのことが気になって、調べて…私のために…?
凛月くんが苦手なはずの朝日が徐々に登ってきたのか凛月くんの顔を照らしていく
凛月「俺のことが好き…なんでしょ?」
『聞くの…?』
凛月「うん、できればなまえの言葉でちゃんと聞きたい。断る前提じゃなくて、普通に聞きたいな…♪」
『…う…あの…』
凛月「なに?」
『私、凛月くんが好き…かっこいいところも可愛いところも…話し方も性格も…私は…あなたのトリコだから…ずっと見てました…』
凛月「ふふ♪知ってた…俺もなまえが好きだよ。俺のこと好きすぎてこんなになっちゃうなんて…それがまた愛しいよね…」
凛月くんは…机を回り込み私の真正面にたつ…
そして、朝日に照らされた化学室で静かに私に唇を寄せた…
凛月「…ちゅっ…ってね…っふふ、真っ赤だね。可愛い」
『えっ…今…キスした…』
凛月「え?もう一回する?」
『いや…いい!…もう…ううっ』
顔が熱くなるのと同時にまた吐き気が…シンクにまた吐き出すと…
そこには白銀の百合がこぼれ落ちていた…
『百合…』
凛月「知ってる?白銀の百合が花吐き病の完治の印なんだよ?」
『ってことは、両思いなの…?』
凛月くんは静かに微笑み、頷いてくれた…。凛月くんには珍しい明るい陽の光に包まれた凛月くんは天使のように輝いて見えた。
『凛月くん…ありがとう…』
凛月「えぇ…好きになってお礼言われたの初めてなんだけど」
『それでも…どう表現していいかわからないから…』
凛月「ふふ…♪じゃあ俺もお礼の代わりにこれをあげるよ…」
『これは…?』
凛月くんが渡してくれたのは小さな向日葵のような配色の花だった…。小さなブーケのように数本が綺麗に包まれていてずっと後ろ手に隠していたのはこれだったのかと納得する…
凛月「これは『サンビタリア』、向日葵みたいで可愛いでしょ?」
『可愛いけど…なんでこれを…』
凛月「その花の花言葉…」
『花言葉…?』
また花言葉…、凛月くんはもしかして結構ロマンチストなのかな…?と失礼なことを考えていると凛月くんが急に正面から抱きしめたので「ふぎゅっ」と変な声が出てしまい、それを凛月くんがクスクスと笑う。
恥ずかしい、凛月くんはぎゅっと私を抱きしめて耳元で喋る…
凛月「その花の花言葉はねーーーーー、
サンビタリア
ーーー『私を見つめて』っていうんだよ、これからもずっと俺だけを見ててね?」
end.
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