恋を諦めた時
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特別何があったわけじゃない。
僕の誕生日だったわけでも、死ぬ前の走馬灯が走ったわけでもない。
ーーそれは突然訪れた。
いつも通り部屋のベッドから起き上がると執事が挨拶をして今日の日付と天気と…まぁ色々なことを話す。しかし、朝一のそんな儀式に頭が疑問を覚えた。
天祥院「……何を言っているんだい?今日は20XX年…だろ…?」
そう言った僕に顔を真っ青にする執事、熱を測られたりどこかに外傷がないかを確認される。それをしたいのは僕なのにね、全く病人は一苦労だ…。
天祥院「どこも悪くないよ。寝ぼけていたみたいだ、大丈夫だから続けて…」
一度訂正したい気持ちを抑えて執事の話を続けてもらう。どうやら僕は一年前の『彼』に出会う前に戻ってきた。この頃の僕は家と病院を行き来していて学校にはまともに行けていなかった。
学校は革命を起こす前の廃れた環境に変わりなく、僕は自然と今の…過去に来てしまった状況を理解し受け入れることにした。
それが一回目の『過去』だ。
それから、過去を辿るように『彼』と出会い、友達になって…僕は学校に戻って五奇人を創り壊した。そしたら『彼』も壊れて…『君』は僕を『天祥院くん』と呼んだ。そして『君』をアイドル科から遠ざけた…そんな夜、少し苦しい胸を沈めるようにベッドで眠ると…
また『過去』に戻っていた。
それもまた『彼』と出会う前のあの日に…まるで神様が「そうじゃない」と言っているかのように僕の『過去』を否定した。
でも、僕には何がどう違うのかは理解できない。理解できずにまた同じ道を辿れば、また同じ『過去』に戻ってしまった。それを何度も何度も繰り返した。
同じ地点に戻る…つまり、その地点以降の何かを変えなくてはいけないと言うことだろう。『彼』と出会う前に戻ると言うことは、学院に入ったことが違うわけではないようだけど…『彼』に出会わなければいいのか、それとも革命を起こさなければいいのか…それとも『fine』を結成しなければいいのか…何を変えれば僕は元の世界に戻れるんだろうか…。
頭を抱えて悩ますたびにこの不思議な体験への疑問は深まるばかりだった。
『英智くん…?風邪ひくよ?』
天祥院「…なまえちゃん」
もう何度目の出会いだろうか。いくら病院や病棟…病室を変えても『彼』は僕のところにやって来て、一緒に遊ぶようなったところで『君』は僕の病室に迷い込んでくる。
ーーそしてまた『英智くん』と僕のことを呼ぶんだ
天祥院「このくらいで風邪はひかないよ。少し考えごとしていたんだ」
『考え事?英智くんも悩むことあるんだ』
天祥院「僕だって悩むさ…」
『私でよければ話聞くけど…』
天祥院「いいのかい?月永くんのことを探していたんじゃないのか?」
『レオ?確かにさっきまで一緒だったけど今日は英智くんに会いに来たんだけど…』
それは何度か繰り返した過去の中で初めての出来事だった。『君』と会うのはいつも月永くんが遊びに来たときや月永くんが先生のところに行っている間に顔を出してくれる程度の逢瀬しかなかった僕らにわずかな……いや大きな変化だった。
『意外だったかな?友達のお見舞いくらいはするよ』
天祥院「僕をそんな風に思ってくれているなんて…驚いたよ…」
『あははっ、英智くんが驚いた顔めずらしっ♪』
なまえちゃんは嬉しそうな顔をして笑った。あぁ…君が僕に笑いかけてくれることがあったなんてもう思い出せないほど『過去』のことに感じる…。僕が思い出せる『君』の顔は僕の名前を呼び変えた『あの日』の悲しい顔だけだったのに、思わぬ贈り物をもらってしまったようだね。
天祥院「なまえちゃんは、同じ時間を繰り返しているとしたら…どうする?」
『なにそれ…難しい悩みだね…』
天祥院「そんな夢を見たらなんとなく風に当たりたくなったのさ…」
『それは…さぞ悩ましい夢だったんだね…』
天祥院「ふふ、そんなに難しく考えなくてもいいよ。そうだね、『ある地点』にある日をきっかけに戻ることを繰り返してる。きっと何かが悪いんだと思うんだけど、その理由が思い当たらなくてね…もしなまえちゃんだったらどうする?」
『どうするって…う〜ん、私がその立場なら色々やってみるかな…?理由がわからないならまず『ある地点』から現在までただ辿るんじゃなくて、パターンをつけることがいいかなって…えっとなんだっけ…世界は『もしも』でわかれてるっていう…』
天祥院「パラレルワールドのことだね?」
『そうそう!つまり、英智くんはたった一つのパラレルワールドを繰り返してるわけでしょ?そうじゃなくて他の世界…選択肢を選ぶってことが唯一答えを見つける方法だと思うなぁ…』
天祥院「なるほど……」
彼女の言葉は妙にしっくりきて、納得してしまった。この繰り返す時間はパラレルワールドを攻略することで終わるのだとすれば、一つだけ思い当たる節があった。
それは目の前にいる『君』だ。
天祥院「なまえちゃんのおかげでわかった気がするよ」
『えっ…わかったの?すごいな英智くん…』
天祥院「君は本当に素晴らしい物語の紡ぎ手だね…さて愛しい時間はここまでだね…病室に戻るとするよ。なまえちゃんはそこにいる騎士様に送ってもらいなさい」
『えっ…ぁ』
なまえちゃんは僕の視線の先にいる人物を見つけて、目をキラリとさせる。まるで…『彼』を見るときの…と考えたときハッとする。
『泉っ…!』
瀬名「ちょっとぉ…こんなところにいたれおくん、もう先に帰っちゃったんだけど」
『違うよ、先生に診てもらったら先に帰ってって私が言ったの』
瀬名「そう…俺はそれも知らずにあんたを探し回ってたってわけね」
『ごめんね?レオが言ってると思ってて…』
瀬名「もういいから…ほら帰るよぉ」
『うん!じゃあね英智くん!またお見舞いくるから』
天祥院「うん、気をつけてね」
僕は2人に手を振って病室へと向かった。パラレルワールドでは様々な分岐から派生されるそれぞれのエンディングだけどその分岐は僕1人に限られたものではなくこの世界の全人口の数その分岐は存在する。つまり、この世界の『君』が月永くんを選ぶとは限らないわけだ…その可能性には瀬名くん然り…凛月くんや『Knights』のみんな…他にも彼女を想っている人はたくさんいてそのそれぞれに可能性があるわけだ。
天祥院「そしてそれは僕にも言えるわけだ」
彼女の言っていたパラレルワールドや今日見た彼女の視線でわかった。この悪夢はどうやら僕の欲望が見せたものだと自分の中で結論づけた
だったら、やることは一つだ。ずっと欲しかったものを手に入れることのできるチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。僕は『恋』と言うものには疎いけれど『君』へのこの特別な感情がそれに近い感情であることは理解しているつもりだ。
ーーそれからまた何度も繰り返した時、運命の悪戯は起こった。
初めて、君が何のきっかけもなく僕の前に現れた。いや…出会ったかな…?
『初めまして、私みょうじなまえって言います。青葉くんに誘われて来たんだけど…彼見なかった…?』
天祥院「…っ」
それはつむぎと『五奇人』を造る話をしていた時だった。彼女の名前があがったのは事実だったけど、まさか本人が来るなんて思いもしなかった。
『えっと…青葉くんにお願いされて新しいユニットの曲を…』
天祥院「いいのかい…?」
『えっ…まぁ依頼書を受け取ったし、真面目そうなユニットだから…』
天祥院「そうじゃなくて…君は『Knights』の一員だろ?その…月永くんが何か言ったり…」
『…レオ?別に関係ないよ。仕事だし』
天祥院「…そう」
僕の知らない彼女だった。彼女は1番に『Knights』…ひいては月永くんを気にするような人だった。
それが仕事とわりきっているのは繰り返し続けた中で初めての世界線だった。今回はいけるなんて浅ましい考えを持ってしまう僕のことを許してほしい。
天祥院「じゃあ…手伝ってくれるのかい?僕の『革命』を」
『革命には興味ないけど…でもやる気のある人が生きずらい学校は…変えるべき…だと思う。』
天祥院「じゃあよろしくなまえちゃん。」
『よろしく…『英智くん』』
微笑んだなまえちゃんは差し出した僕の手を取り少し強く握った。その後、病室につむぎがやってきて今後の話をした。なまえちゃんは朔間さんや渉とは親しいほど話したことないらしく『五奇人』の話をしたらどうしてか問われたことには驚いた。
この世界線では、『彼女』が全く違うのだ。僕の知る彼女とは程遠い何も知らない関わらないを貫いている、同じ道のようで全く違う出来事に思考を止めることしかできなかった。
青葉「なまえちゃんの曲があれば百人力ですね!凪砂くんも日和くんも喜びます!」
『…その2人は知ってる…』
天祥院「知ってる?」
『知ってるっていうか話したことある…かな…賑やかだよね、巴くん』
青葉「そうなんです!でも2人とも実力は確かなんですよ〜!」
『ふ〜ん…あ、じゃあ私そろそろ行かないと』
天祥院「うん、ありがとうね。なまえちゃん…あ、この事月永くんには…」
『言わないよ。何をそんなに気にしているの?英智くん、気にしいだね?』
天祥院「ごめんね?でも僕らにはなまえちゃんが必要だから…」
『必要…ね。うん、わかってる…大丈夫だよ。仕事はちゃんとするから…またお見舞いにくるね。今度は『友達』として』
そう言って彼女は、病室を後にした。
今まで出会った『彼女』とは違う『彼女』、混乱する僕と何を考えているかわからないつむぎ…その笑顔が無性に腹が立つので毒を吐いて笑う。すると、彼は「あはは」と笑ってお茶を濁す。
天祥院「とにかく面白くなってきたね…つむぎには感謝しないとだね」
青葉「俺と英智くんは友達ですから〜♪俺も頑張っちゃいますよ〜♪」
天祥院「じゃあまた頑張ってもらおうかな」
もう少しで僕も退院ができる。つまり本格的に『五奇人』を造り、それを僕ら『fine』が倒す。『革命』が目の前に迫っている、そんな中でなまえちゃんが僕ら側についたのは大きな変化だし、大変喜ばしいことだと思った。自分の繰り返した世界がやっと『正しい』ものになるのではないかと心のどこかで喜んでいる僕がいた。
あとは、君と同じ時間を共有して理解しよう。今回の『君』をーー
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