レイニーブルー・コンチェルト
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#3 雷雨のラプソディ
低いエンジン音だけが、狭い車内に淡々と響いていた。
仕事先からの帰り道、事務所の移動車のシートに深く腰掛けた聖川真斗は、手元にあるスマートフォンの画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。
バックライトの消えた黒い画面には、何も映っていない。ただ、自分の冴えない表情がぼんやりと反射しているだけだった。
連絡先を聞けなかった。
あの雨の日から、およそ一ヶ月。その事実が、思った以上に彼の心に重い尾を引いている。
いつもなら仕事に没頭することで雑念を振り払うはずが、ふとした隙間に、あの柔らかい笑顔と、去り際の切ない残像が脳裏をかすめていく。
自分は一体、何をモタモタしていたんだ――と、心の中で何度目になるか分からない自責を繰り返していた、その時だった。
隣のシートから、遮るもののない純粋な声が不意に飛び込んでくる。
「マサト、最近ため息が多いですね」
ハッとして顔を上げると、隣に座る愛島セシルが、大きな瞳を丸くしてこちらを覗き込んでいた。
「……」
咄嗟に言葉が詰まる。
いつもなら「別に、なんでもない」と一蹴するところだったが、セシルの真っ直ぐすぎる視線が、真斗の頑なな輪郭をじわじわと解いていくようだった。
嘘や誤魔化しが一切通じない、無垢な輝きがそこにはある。
真斗は観念したように、小さく肩の力を抜いた。
「何か悩み事ですか?」
いつも通り穏やかな、しかし核心を突くようなセシルの問いかけ。
真斗は視線を再びスマートフォンへと落とし、画面の縁を親指でそっとなぞりながら、ぽつりと胸の内を零した。誰にも言えず、ずっと澱のように溜まっていた言葉だった。
「……会いたい人がいるのだが、連絡先が分からなくてな。会う方法が無い」
普段の真斗からは想像もつかないほど、弱音に近いその呟き。
自嘲気味にわずかに眉を下げた彼に対して、セシルは少しも驚く風でなく、むしろ嬉そうに目を細めてにこりと笑った。
「想いが強ければ、きっとまた会えますよ」
あまりにも迷いのない、確信に満ちた響きだった。
真斗は思わず顔を上げ、ほんの少しだけ眉を寄せる。
「そう、だろうか……」
「YES! 縁がある人とはまた繋がるものです」
セシルは晴れやかに言い切り、そのまま窓の外へと視線を移した。
占いか、あるいは御伽話のような言葉だ。
理屈を重んじるいつもの真斗なら、根拠のない慰めだと聞き流していただろう。
だが、セシルの声には不思議な説得力があった。
まるで、目に見えない運命の糸の先を、その目だけが捉えているかのような。
――想いが、強ければ。
真斗はそれを胸の内で静かになぞるように反芻した。
胸の奥に灯った微かな熱が、冷え固まっていた焦燥感をじんわりと溶かしていくのを感じる。
「あ、雨が降りそうですね」
セシルの呟きと同時に、真斗が窓の外へ視線を向けると、どんよりと垂れ込めてきた六月の重い雲が、今にも泣き出しそうに街を見下ろしていた。
*
「――では、本日の修正案を持ち帰り、来週までにトップページのラフデザインを数パターンご用意いたします」
「ええ、よろしくお願いします。我が社の『伝統と信頼』というイメージを損なわぬよう、よろしくお願いしますね」
創業九十年の歴史を持つ老舗文房具メーカー。その重厚な会議室で、景奈は背筋を伸ばしたまま深く頭を下げた。
ずらりと並んだお堅い役員たちからの細かな要望をすべて手帳に書き留め、ようやくビルを出た時には、安堵から大きなため息が溢れた。
「はぁ……緊張した。でも、これで今日は直帰できる!」
時計を見れば夕方の五時前。
よく頑張った自分へのご褒美に、帰りにどこかで美味しいケーキでも買って帰ろうか。
そんなことを考えながら、景奈は駅へと続く道を歩き出した。
六月の梅雨の晴れ間。
朝の天気予報では、キャスターが「今日は一日、傘の心配はありません」と爽やかな笑顔で言い切っていた。
だからこそ、今日はお気に入りの、薄手で仕立てのいい白いブラウスを選んで出掛けたのだ。緊張する打ち合わせでも、お気に入りの服を着ていれば乗り切れる気がしたから。
しかし、駅まであと半分というところで、急に辺りの空気が不気味なほどひんやりと冷たくなった。
「あれ……?」
ふと見上げると、さっきまでビルの隙間から覗いていた青空は完全に消え去り、頭上には墨を流したような真っ黒な雨雲が、ものすごい速さで広がっていく。
ゴロゴロ、と腹に響くような低い雷鳴が遠くで轟いた。
「うそ! 雷なんて聞いてないよ……っ!?」
叫ぶ間もなかった。
次の瞬間、まるでバケツをひっくり返したかのような、凄まじい豪雨が頭上から叩きつけられた。
「きゃっ!?」
一瞬で視界が白く煙るほどの暴風雨。
景奈は悲鳴を上げながら、必死の思いで近くにあったビルの軒下へと滑り込んだ。ほんの数十秒激しい雨に晒されただけなのに、事態はすでに最悪だった。
「……どうしよう……」
なんとか雨を凌げる場所に避難したものの、すでに頭から足先までずぶ濡れになってしまっている。
髪の毛からはポタポタと冷たい雫が垂れて鎖骨を濡らし、何より、お気に入りだった薄手の白いブラウスが完全に水分を吸って、容赦なく肌にぴったりと張りついていた。
寒さで小さな鳥肌が立つのを感じながら、景奈はふと自分の胸元に目を落とし――血の気が引いた。
肌に張りついた白い布地の向こう側が、完全に浮き彫りになっている。
恥ずかしさと情けなさで泣きそうになりながら、バッグから取り出した小さなハンカチで必死に水分を吸い取ろうとするが、そんなものはまさに焼け石に水だった。
駅まではまだ距離がある。
この暴風雨の中を走れば、さらに酷いことになるのは目に見えている。
かと言って、こんな恥ずかしい姿でビルの軒下に立ち尽くしているのも限界だった。
冷たい雨に体温を奪われ、肩が小さく震え出す。
激しい雨音と雷鳴が鳴り響く街の中で、完全に孤立してしまったような絶望感に襲われ、景奈はぎゅっと目を閉じて俯いた。
その時だった。
「――朝倉……さん……?」
激しい雨のカーテンの向こうから、低く、けれど驚くほど耳に心地よく響く、聞き覚えのある声が届いた。
ハッとして顔を上げる。
水滴のついた視界の向こう、目の前に立っていたのは、黒縁のメガネをかけ、帽子を目深に被った一人の男性だった。
人混みに紛れてしまえば、周囲の誰もが気に留めないようなごく自然な佇まい。
けれど、景奈が見間違えるはずがなかった。一ヶ月間、あの日からずっと胸の奥で反芻し続けていた、あの真っ直ぐな瞳。
「な、な……聖川、さん……?」
驚きのあまり、彼の名前を呼びそうになって慌てて口を覆う。
「な、なんでこんなところに……っ!?」
混乱する景奈の前に、真斗は一歩、歩み寄った。帽子の隙間から覗く彼の瞳が、景奈の姿を捉えた瞬間にわずかに見開かれる。
「スタジオの移動だったのだが……」
真斗の声は、いつになく微かに焦りを孕んでいた。
彼は景奈の問いに短く答えるや否や、一切の躊躇なく、自らが身に纏っていた上品なベージュのジャケットを脱ぎ、そして、濡れて小さく震える景奈の身体を包み込むように、ふわりとそのジャケットを羽織らせる。
「まずはこれを」
「えっ、あ、でも……っ!」
ふいに肩を包み込んだのは、心地よい重みと、そこに残る彼の確かな体温。
そして――気品のある落ち着いたフレグランスの香りだった。
彼にはジャストサイズなはずのジャケットは、景奈の身体をすっぽりと覆い隠し、肌に張りついていた白いブラウスも、下着の透けも、すべてを優しく世界の視線から遮断してくれた。
恥ずかしさで真っ赤になる景奈を急かすこともなく、真斗は手にしていた一本の大きな傘を広げ、景奈の頭上へ差し掛けた。
「近くに知り合いの店がある。そこでタオルを借りよう」
「えっ、でも、この後お仕事じゃないんですか?」
申し訳なさから見上げる景奈に、真斗は変装のメガネの奥の瞳を和らげ、静かに首を振った。
「案ずるな。まだ時間はある。……さあ、こちらだ」
そう言って歩き出した真斗の半歩後ろを、景奈は付いていく。
暴風雨が吹き荒れる中、真斗の持つ大きな傘は、常に景奈の側へと深く傾けられていた。
彼の右肩が雨に濡れていくのも構わずに、肩が触れそうなほどの至近距離で、真斗は大きな背中で風雨から景奈を護るように歩いてくれる。
辿り着いたのは、大通りから少し入ったところにある、いかにも隠れ家といった佇まいの高級レストランだった。
重厚な扉を開けて中に入ると、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。
奥から、仕立ての良いスーツを着た支配人らしき男性が慌てて駆け寄り、真斗の前で深く、恭しく頭を下げた。
「――坊ちゃん、いかがされましたか」
その言葉に、景奈は思わず息を呑んだ。
聞いたことはあっても、どこか遠いおとぎ話のようだった『聖川財閥の御曹司』という彼の現実が、今、目の前の光景となって容赦なく突きつけられている。
彼が背負う世界の大きさと、自分との圧倒的な住む世界の違い。
場違いな場所に足を踏み入れてしまったような恐怖に襲われ、景奈は助けを求めるように真斗のジャケットの袖をぎゅっと握りしめ、小さく身を縮こまらせた。
しかし、真斗はそんな景奈の緊張を察したように、支配人へ手短に指示を出す。
「急ですまないが、一番奥の部屋を。それと、乾いたタオルを用意してくれ」
案内されたのは、洗練された調度品が並ぶ静かな個室だった。
「朝倉さん、こちらへ」
真斗に促され、すぐに用意されたふかふかのタオルで、景奈は濡れた髪や首筋をそっと拭った。
そこへ、真斗が自らトレーを手に、湯気の立つ温かい湯呑みを運んできてくれた。
「緑茶だ。これで温まるといい」
「聖川さん、ありがとうございます。本当に助かりました……」
温かい湯呑みを受け取り、両手で包み込む。
じんわりと熱が指先から伝わり、張り詰めていた緊張が少しだけ解けていく。
温かな湯気の向こうにある彼女の顔を見つめながら、真斗の胸には、ただひとつの想いだけが静かに浮かんでいた。
――ずっと、お前に会いたかった。
真斗は込み上げる想いを静かに胸の奥へ沈める。
不意に脳裏へ蘇ったのは、車内で愛島が零した言葉だった。
『縁がある人とはまた繋がるものです』
「本当に、会えたのだな……」
真斗は視線を少し落とし、奇跡を噛み締めるように、消え入りそうな小声でぽつりと呟いた。
「え?……何か言いましたか?」
雨音の残響もあり、よく聞き取れなかった景奈が小首をかしげて尋ねる。
真斗は「いや……なんでもない」と、わずかに耳を赤くして誤魔化すように緑茶を口に含んだ。
個室に流れる静寂の中、湯呑みから立ち上る湯気を眺めながら、景奈はふと我に返った。自分が今、とんでもなく貴重な彼の時間を奪ってしまっているのではないか、という焦りが急に頭をもたげる。
「あ、そうだ……聖川さん、この後もお仕事があるんですよね。私、そろそろお暇します。このジャケットは、クリーニングしてからお返ししますね。……事務所宛にお送りすればよろしいですか?」
さっきまで感じていた彼の体温や香りの余韻を振り払うように、景奈はあえて一歩引いた、丁寧すぎるビジネススマイルを浮かべた。これ以上、彼の特別な世界に踏み込んではいけないと言い聞かせるような、精一杯の遠慮だった。
その言葉を聞いた瞬間、真斗の端正な眉がわずかに動いた。
事務所宛てに、だと――。
それではまた、あの絶望的な一ヶ月に逆戻りだ。この手をすり抜けて、また彼女が遠くへ行ってしまう。あの時、連絡先すら聞けずにただ背中を見送った苦い後悔が、真斗の胸を激しく突き動かした。
もう二度と、みすみす彼女を逃がすわけにはいかない。
真斗はすっと姿勢を正し、まっすぐに景奈の瞳を見つめて告げた。いつもより少し低く、けれど有無を言わせない響きがそこにはあった。
「いや、事務所を通す必要はない。……俺の連絡先を渡そう。その方が、色々と都合がいい」
「え……?」
驚きに目を見開く景奈を他所に、真斗はスマートフォンを取り出した。彼の真剣すぎる眼差しと、どこか必死さすら滲む態度に圧倒されながら、景奈も震える手で自分のスマートフォンを取り出す。
まずは電話番号を交換し、そのまま画面を操作して、お互いのメッセージアプリのアカウントも登録し合う。短い通知音が鳴り、二人の画面に、お互いの名前がしっかりと刻まれた。
ついに直接繋がった。その事実に、真斗は胸の奥で深く、静かに安堵の息を吐いた。
「外の様子を見てこよう」
真斗が立ち上がり、個室の重厚なカーテンを引く。
すると、さっきまでの激しい雷雨が嘘のように、雲の切れ間から鮮やかな夕暮れの光が差し込んできた。雨上がりの街を黄金色に染め上げる、眩しいほどの梅雨の晴れ間だ。
「あ……雨、上がったみたいですね」
ほっと息をつく景奈に、真斗は窓辺から振り返った。
「ああ。だが、路面はまだ濡れている。車を用意させよう」
「いえっ! 流石にそこまで甘えるわけにはいきません! ここからなら駅も近いですし、一人で帰れますので、本当に大丈夫ですから!」
そこまでしてもらうなど恐れ多すぎる、と景奈は全力で固辞した。真斗はしばらく食い下がろうとしたが、彼女の頑なな恐縮ぶりに、ついに根負けしたように小さく息を吐いた。
「……分かった。ならば、駅までは見送らせてくれ」
「はい、ありがとうございます。クリーニングが終わったらご連絡します!」
そう言って、景奈はソファの横に置いておいた彼のジャケットを手に取り、丁寧に畳もうとした。
「――待て」
真斗が短く制したのは、その瞬間だった。
彼はパッと視線を不自然なほど右斜め下へと逸らした。よく見れば、彼の端正な耳の裏が、じわじわと朱に染まっていくのが分かる。
「……そのジャケットは、今は返さなくていい。……羽織って帰った方がいい」
「え? でも、雨も上がりましたし、汚しちゃうと申し訳ないですし……」
「……その」
真斗は拳を軽く口元に当て、咳払いをするように視線を彷徨わせた。
「まだ、風が冷たい。朝倉さんの服も……まだ、完全に乾いてはいないだろう」
ブラウスが濡れて、下着がうっすらと透けてしまっているとは、口が裂けても言えなかった。
ただ、彼女の身を案じる精一杯の、不器用で、ひどく紳士的な気遣い。
景奈は自分の胸元を見て、真斗の赤くなった耳の意味をようやく察し、一気に顔から火が出るほど赤くなった。
「あ……あ、ありがとう、ございます……! じゃあ、お言葉に、甘えて……っ」
夕暮れの光が差し込む中、真斗の大きなジャケットをもう一度しっかりと羽織り、すっぽりと包まれたまま、景奈は胸をバクバクさせてレストランを後にした。すぐ横を歩く真斗もまた、口数を少なくしたまま、けれど手に入れたばかりの彼女の連絡先をポケットの中でそっと感じていた。
*
なんとか自宅に帰り着いた景奈は、部屋の鍵を閉めた瞬間、その場にへなへなと座り込んでしまいそうだった。
急いでお風呂へと駆け込み、激しい雷雨で冷え切った身体を熱いシャワーと湯船で温める。けれど、お湯に浸かってどれだけ深呼吸をしても、頭の中はあの個室での出来事で完全に支配されたままだった。
――俺の連絡先を渡そう。その方が、都合がいい。
耳の奥に残る、真斗のあの真剣な声。
お風呂から上がり、髪を乾かしてリビングに戻った時――壁のハンガーに掛けられた、一枚のジャケットが目に留まった。
自分の狭いワンルームにはあまりにも不釣り合いな、見慣れない男性のジャケット。
それは、夕方の光を優しく反射するような、上品なベージュ色をしていた。
それを見つめているうちに、お風呂で一度は冷ませたはずの熱が、再び胸の奥からじわじわと込み上げてくる。
時計を見れば、彼と別れてからまだ数時間しか経っていない。なのに、もうあの真っ直ぐな瞳が恋しくてたまらなくなっている。
「……ちょっとだけ」
誰に言い訳するでもなく、ぽつりと小さく呟く。
景奈は吸い寄せられるようにジャケットへと歩み寄り、ハンガーからそっとそれを外した。
両腕で、彼の大きなジャケットをぎゅっと抱きしめる。
そして、愛おしさに身を任せるように、その襟元へ深く顔をうずめ――思い切り、その空気を吸い込んだ。
「――っ」
途端に、鮮烈な香りが五感のすべてを突き抜けた。
真っ先に鼻腔をくすぐったのは、さっきまで二人を閉じ込めていた、あの激しい雨のしっとりとした残り香。
そのすぐ後に、彼が身に纏っていた気品溢れるフレグランスの香調が、一気に押し寄せてくる。
まるで由緒ある静かな古刹に足を踏み込んだときのような、凛としていて、どこか心を落ち着かせる深く瑞々しいウッディな香り。
けれど、それだけじゃない。
深く息を吸い込むたびに、そのフレグランスの奥の奥から、彼自身の確かな体温がじわりと浮かび上がってくる。
それは紛れもない、聖川さんの匂いだった。
まるで、彼の広い胸の中に強く抱きしめられているかのような、圧倒的な存在感。
ダイレクトに脳の一番敏感なところを揺さぶってくる彼の匂いに、景奈は抗うこともできず、ただ深く、深く酔いしれていく。
もう一度、深く息を吸う。
彼の香りが、頭から足の先まで、まるで全身の細胞ひとつひとつを満たしていくかのように広がっていく。
胸の奥がギューッと締め付けられて、なんだか泣き出したいような、どうしようもない切なさが溢れて止まらなくなった。
トクン、トクンと、静かな部屋に自分の激しい心臓の音だけが響く。
「……どうしよう。本当に、好きになっちゃったかもしれない」
彼の残した、「聖川真斗の香り」に全身を包まれながら、景奈はベッドに倒れ込んだ。
窓の外では、さっきまでの雷雨が嘘のように、綺麗な三日月が夜空に静かに腰掛けていた。
低いエンジン音だけが、狭い車内に淡々と響いていた。
仕事先からの帰り道、事務所の移動車のシートに深く腰掛けた聖川真斗は、手元にあるスマートフォンの画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。
バックライトの消えた黒い画面には、何も映っていない。ただ、自分の冴えない表情がぼんやりと反射しているだけだった。
連絡先を聞けなかった。
あの雨の日から、およそ一ヶ月。その事実が、思った以上に彼の心に重い尾を引いている。
いつもなら仕事に没頭することで雑念を振り払うはずが、ふとした隙間に、あの柔らかい笑顔と、去り際の切ない残像が脳裏をかすめていく。
自分は一体、何をモタモタしていたんだ――と、心の中で何度目になるか分からない自責を繰り返していた、その時だった。
隣のシートから、遮るもののない純粋な声が不意に飛び込んでくる。
「マサト、最近ため息が多いですね」
ハッとして顔を上げると、隣に座る愛島セシルが、大きな瞳を丸くしてこちらを覗き込んでいた。
「……」
咄嗟に言葉が詰まる。
いつもなら「別に、なんでもない」と一蹴するところだったが、セシルの真っ直ぐすぎる視線が、真斗の頑なな輪郭をじわじわと解いていくようだった。
嘘や誤魔化しが一切通じない、無垢な輝きがそこにはある。
真斗は観念したように、小さく肩の力を抜いた。
「何か悩み事ですか?」
いつも通り穏やかな、しかし核心を突くようなセシルの問いかけ。
真斗は視線を再びスマートフォンへと落とし、画面の縁を親指でそっとなぞりながら、ぽつりと胸の内を零した。誰にも言えず、ずっと澱のように溜まっていた言葉だった。
「……会いたい人がいるのだが、連絡先が分からなくてな。会う方法が無い」
普段の真斗からは想像もつかないほど、弱音に近いその呟き。
自嘲気味にわずかに眉を下げた彼に対して、セシルは少しも驚く風でなく、むしろ嬉そうに目を細めてにこりと笑った。
「想いが強ければ、きっとまた会えますよ」
あまりにも迷いのない、確信に満ちた響きだった。
真斗は思わず顔を上げ、ほんの少しだけ眉を寄せる。
「そう、だろうか……」
「YES! 縁がある人とはまた繋がるものです」
セシルは晴れやかに言い切り、そのまま窓の外へと視線を移した。
占いか、あるいは御伽話のような言葉だ。
理屈を重んじるいつもの真斗なら、根拠のない慰めだと聞き流していただろう。
だが、セシルの声には不思議な説得力があった。
まるで、目に見えない運命の糸の先を、その目だけが捉えているかのような。
――想いが、強ければ。
真斗はそれを胸の内で静かになぞるように反芻した。
胸の奥に灯った微かな熱が、冷え固まっていた焦燥感をじんわりと溶かしていくのを感じる。
「あ、雨が降りそうですね」
セシルの呟きと同時に、真斗が窓の外へ視線を向けると、どんよりと垂れ込めてきた六月の重い雲が、今にも泣き出しそうに街を見下ろしていた。
*
「――では、本日の修正案を持ち帰り、来週までにトップページのラフデザインを数パターンご用意いたします」
「ええ、よろしくお願いします。我が社の『伝統と信頼』というイメージを損なわぬよう、よろしくお願いしますね」
創業九十年の歴史を持つ老舗文房具メーカー。その重厚な会議室で、景奈は背筋を伸ばしたまま深く頭を下げた。
ずらりと並んだお堅い役員たちからの細かな要望をすべて手帳に書き留め、ようやくビルを出た時には、安堵から大きなため息が溢れた。
「はぁ……緊張した。でも、これで今日は直帰できる!」
時計を見れば夕方の五時前。
よく頑張った自分へのご褒美に、帰りにどこかで美味しいケーキでも買って帰ろうか。
そんなことを考えながら、景奈は駅へと続く道を歩き出した。
六月の梅雨の晴れ間。
朝の天気予報では、キャスターが「今日は一日、傘の心配はありません」と爽やかな笑顔で言い切っていた。
だからこそ、今日はお気に入りの、薄手で仕立てのいい白いブラウスを選んで出掛けたのだ。緊張する打ち合わせでも、お気に入りの服を着ていれば乗り切れる気がしたから。
しかし、駅まであと半分というところで、急に辺りの空気が不気味なほどひんやりと冷たくなった。
「あれ……?」
ふと見上げると、さっきまでビルの隙間から覗いていた青空は完全に消え去り、頭上には墨を流したような真っ黒な雨雲が、ものすごい速さで広がっていく。
ゴロゴロ、と腹に響くような低い雷鳴が遠くで轟いた。
「うそ! 雷なんて聞いてないよ……っ!?」
叫ぶ間もなかった。
次の瞬間、まるでバケツをひっくり返したかのような、凄まじい豪雨が頭上から叩きつけられた。
「きゃっ!?」
一瞬で視界が白く煙るほどの暴風雨。
景奈は悲鳴を上げながら、必死の思いで近くにあったビルの軒下へと滑り込んだ。ほんの数十秒激しい雨に晒されただけなのに、事態はすでに最悪だった。
「……どうしよう……」
なんとか雨を凌げる場所に避難したものの、すでに頭から足先までずぶ濡れになってしまっている。
髪の毛からはポタポタと冷たい雫が垂れて鎖骨を濡らし、何より、お気に入りだった薄手の白いブラウスが完全に水分を吸って、容赦なく肌にぴったりと張りついていた。
寒さで小さな鳥肌が立つのを感じながら、景奈はふと自分の胸元に目を落とし――血の気が引いた。
肌に張りついた白い布地の向こう側が、完全に浮き彫りになっている。
恥ずかしさと情けなさで泣きそうになりながら、バッグから取り出した小さなハンカチで必死に水分を吸い取ろうとするが、そんなものはまさに焼け石に水だった。
駅まではまだ距離がある。
この暴風雨の中を走れば、さらに酷いことになるのは目に見えている。
かと言って、こんな恥ずかしい姿でビルの軒下に立ち尽くしているのも限界だった。
冷たい雨に体温を奪われ、肩が小さく震え出す。
激しい雨音と雷鳴が鳴り響く街の中で、完全に孤立してしまったような絶望感に襲われ、景奈はぎゅっと目を閉じて俯いた。
その時だった。
「――朝倉……さん……?」
激しい雨のカーテンの向こうから、低く、けれど驚くほど耳に心地よく響く、聞き覚えのある声が届いた。
ハッとして顔を上げる。
水滴のついた視界の向こう、目の前に立っていたのは、黒縁のメガネをかけ、帽子を目深に被った一人の男性だった。
人混みに紛れてしまえば、周囲の誰もが気に留めないようなごく自然な佇まい。
けれど、景奈が見間違えるはずがなかった。一ヶ月間、あの日からずっと胸の奥で反芻し続けていた、あの真っ直ぐな瞳。
「な、な……聖川、さん……?」
驚きのあまり、彼の名前を呼びそうになって慌てて口を覆う。
「な、なんでこんなところに……っ!?」
混乱する景奈の前に、真斗は一歩、歩み寄った。帽子の隙間から覗く彼の瞳が、景奈の姿を捉えた瞬間にわずかに見開かれる。
「スタジオの移動だったのだが……」
真斗の声は、いつになく微かに焦りを孕んでいた。
彼は景奈の問いに短く答えるや否や、一切の躊躇なく、自らが身に纏っていた上品なベージュのジャケットを脱ぎ、そして、濡れて小さく震える景奈の身体を包み込むように、ふわりとそのジャケットを羽織らせる。
「まずはこれを」
「えっ、あ、でも……っ!」
ふいに肩を包み込んだのは、心地よい重みと、そこに残る彼の確かな体温。
そして――気品のある落ち着いたフレグランスの香りだった。
彼にはジャストサイズなはずのジャケットは、景奈の身体をすっぽりと覆い隠し、肌に張りついていた白いブラウスも、下着の透けも、すべてを優しく世界の視線から遮断してくれた。
恥ずかしさで真っ赤になる景奈を急かすこともなく、真斗は手にしていた一本の大きな傘を広げ、景奈の頭上へ差し掛けた。
「近くに知り合いの店がある。そこでタオルを借りよう」
「えっ、でも、この後お仕事じゃないんですか?」
申し訳なさから見上げる景奈に、真斗は変装のメガネの奥の瞳を和らげ、静かに首を振った。
「案ずるな。まだ時間はある。……さあ、こちらだ」
そう言って歩き出した真斗の半歩後ろを、景奈は付いていく。
暴風雨が吹き荒れる中、真斗の持つ大きな傘は、常に景奈の側へと深く傾けられていた。
彼の右肩が雨に濡れていくのも構わずに、肩が触れそうなほどの至近距離で、真斗は大きな背中で風雨から景奈を護るように歩いてくれる。
辿り着いたのは、大通りから少し入ったところにある、いかにも隠れ家といった佇まいの高級レストランだった。
重厚な扉を開けて中に入ると、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。
奥から、仕立ての良いスーツを着た支配人らしき男性が慌てて駆け寄り、真斗の前で深く、恭しく頭を下げた。
「――坊ちゃん、いかがされましたか」
その言葉に、景奈は思わず息を呑んだ。
聞いたことはあっても、どこか遠いおとぎ話のようだった『聖川財閥の御曹司』という彼の現実が、今、目の前の光景となって容赦なく突きつけられている。
彼が背負う世界の大きさと、自分との圧倒的な住む世界の違い。
場違いな場所に足を踏み入れてしまったような恐怖に襲われ、景奈は助けを求めるように真斗のジャケットの袖をぎゅっと握りしめ、小さく身を縮こまらせた。
しかし、真斗はそんな景奈の緊張を察したように、支配人へ手短に指示を出す。
「急ですまないが、一番奥の部屋を。それと、乾いたタオルを用意してくれ」
案内されたのは、洗練された調度品が並ぶ静かな個室だった。
「朝倉さん、こちらへ」
真斗に促され、すぐに用意されたふかふかのタオルで、景奈は濡れた髪や首筋をそっと拭った。
そこへ、真斗が自らトレーを手に、湯気の立つ温かい湯呑みを運んできてくれた。
「緑茶だ。これで温まるといい」
「聖川さん、ありがとうございます。本当に助かりました……」
温かい湯呑みを受け取り、両手で包み込む。
じんわりと熱が指先から伝わり、張り詰めていた緊張が少しだけ解けていく。
温かな湯気の向こうにある彼女の顔を見つめながら、真斗の胸には、ただひとつの想いだけが静かに浮かんでいた。
――ずっと、お前に会いたかった。
真斗は込み上げる想いを静かに胸の奥へ沈める。
不意に脳裏へ蘇ったのは、車内で愛島が零した言葉だった。
『縁がある人とはまた繋がるものです』
「本当に、会えたのだな……」
真斗は視線を少し落とし、奇跡を噛み締めるように、消え入りそうな小声でぽつりと呟いた。
「え?……何か言いましたか?」
雨音の残響もあり、よく聞き取れなかった景奈が小首をかしげて尋ねる。
真斗は「いや……なんでもない」と、わずかに耳を赤くして誤魔化すように緑茶を口に含んだ。
個室に流れる静寂の中、湯呑みから立ち上る湯気を眺めながら、景奈はふと我に返った。自分が今、とんでもなく貴重な彼の時間を奪ってしまっているのではないか、という焦りが急に頭をもたげる。
「あ、そうだ……聖川さん、この後もお仕事があるんですよね。私、そろそろお暇します。このジャケットは、クリーニングしてからお返ししますね。……事務所宛にお送りすればよろしいですか?」
さっきまで感じていた彼の体温や香りの余韻を振り払うように、景奈はあえて一歩引いた、丁寧すぎるビジネススマイルを浮かべた。これ以上、彼の特別な世界に踏み込んではいけないと言い聞かせるような、精一杯の遠慮だった。
その言葉を聞いた瞬間、真斗の端正な眉がわずかに動いた。
事務所宛てに、だと――。
それではまた、あの絶望的な一ヶ月に逆戻りだ。この手をすり抜けて、また彼女が遠くへ行ってしまう。あの時、連絡先すら聞けずにただ背中を見送った苦い後悔が、真斗の胸を激しく突き動かした。
もう二度と、みすみす彼女を逃がすわけにはいかない。
真斗はすっと姿勢を正し、まっすぐに景奈の瞳を見つめて告げた。いつもより少し低く、けれど有無を言わせない響きがそこにはあった。
「いや、事務所を通す必要はない。……俺の連絡先を渡そう。その方が、色々と都合がいい」
「え……?」
驚きに目を見開く景奈を他所に、真斗はスマートフォンを取り出した。彼の真剣すぎる眼差しと、どこか必死さすら滲む態度に圧倒されながら、景奈も震える手で自分のスマートフォンを取り出す。
まずは電話番号を交換し、そのまま画面を操作して、お互いのメッセージアプリのアカウントも登録し合う。短い通知音が鳴り、二人の画面に、お互いの名前がしっかりと刻まれた。
ついに直接繋がった。その事実に、真斗は胸の奥で深く、静かに安堵の息を吐いた。
「外の様子を見てこよう」
真斗が立ち上がり、個室の重厚なカーテンを引く。
すると、さっきまでの激しい雷雨が嘘のように、雲の切れ間から鮮やかな夕暮れの光が差し込んできた。雨上がりの街を黄金色に染め上げる、眩しいほどの梅雨の晴れ間だ。
「あ……雨、上がったみたいですね」
ほっと息をつく景奈に、真斗は窓辺から振り返った。
「ああ。だが、路面はまだ濡れている。車を用意させよう」
「いえっ! 流石にそこまで甘えるわけにはいきません! ここからなら駅も近いですし、一人で帰れますので、本当に大丈夫ですから!」
そこまでしてもらうなど恐れ多すぎる、と景奈は全力で固辞した。真斗はしばらく食い下がろうとしたが、彼女の頑なな恐縮ぶりに、ついに根負けしたように小さく息を吐いた。
「……分かった。ならば、駅までは見送らせてくれ」
「はい、ありがとうございます。クリーニングが終わったらご連絡します!」
そう言って、景奈はソファの横に置いておいた彼のジャケットを手に取り、丁寧に畳もうとした。
「――待て」
真斗が短く制したのは、その瞬間だった。
彼はパッと視線を不自然なほど右斜め下へと逸らした。よく見れば、彼の端正な耳の裏が、じわじわと朱に染まっていくのが分かる。
「……そのジャケットは、今は返さなくていい。……羽織って帰った方がいい」
「え? でも、雨も上がりましたし、汚しちゃうと申し訳ないですし……」
「……その」
真斗は拳を軽く口元に当て、咳払いをするように視線を彷徨わせた。
「まだ、風が冷たい。朝倉さんの服も……まだ、完全に乾いてはいないだろう」
ブラウスが濡れて、下着がうっすらと透けてしまっているとは、口が裂けても言えなかった。
ただ、彼女の身を案じる精一杯の、不器用で、ひどく紳士的な気遣い。
景奈は自分の胸元を見て、真斗の赤くなった耳の意味をようやく察し、一気に顔から火が出るほど赤くなった。
「あ……あ、ありがとう、ございます……! じゃあ、お言葉に、甘えて……っ」
夕暮れの光が差し込む中、真斗の大きなジャケットをもう一度しっかりと羽織り、すっぽりと包まれたまま、景奈は胸をバクバクさせてレストランを後にした。すぐ横を歩く真斗もまた、口数を少なくしたまま、けれど手に入れたばかりの彼女の連絡先をポケットの中でそっと感じていた。
*
なんとか自宅に帰り着いた景奈は、部屋の鍵を閉めた瞬間、その場にへなへなと座り込んでしまいそうだった。
急いでお風呂へと駆け込み、激しい雷雨で冷え切った身体を熱いシャワーと湯船で温める。けれど、お湯に浸かってどれだけ深呼吸をしても、頭の中はあの個室での出来事で完全に支配されたままだった。
――俺の連絡先を渡そう。その方が、都合がいい。
耳の奥に残る、真斗のあの真剣な声。
お風呂から上がり、髪を乾かしてリビングに戻った時――壁のハンガーに掛けられた、一枚のジャケットが目に留まった。
自分の狭いワンルームにはあまりにも不釣り合いな、見慣れない男性のジャケット。
それは、夕方の光を優しく反射するような、上品なベージュ色をしていた。
それを見つめているうちに、お風呂で一度は冷ませたはずの熱が、再び胸の奥からじわじわと込み上げてくる。
時計を見れば、彼と別れてからまだ数時間しか経っていない。なのに、もうあの真っ直ぐな瞳が恋しくてたまらなくなっている。
「……ちょっとだけ」
誰に言い訳するでもなく、ぽつりと小さく呟く。
景奈は吸い寄せられるようにジャケットへと歩み寄り、ハンガーからそっとそれを外した。
両腕で、彼の大きなジャケットをぎゅっと抱きしめる。
そして、愛おしさに身を任せるように、その襟元へ深く顔をうずめ――思い切り、その空気を吸い込んだ。
「――っ」
途端に、鮮烈な香りが五感のすべてを突き抜けた。
真っ先に鼻腔をくすぐったのは、さっきまで二人を閉じ込めていた、あの激しい雨のしっとりとした残り香。
そのすぐ後に、彼が身に纏っていた気品溢れるフレグランスの香調が、一気に押し寄せてくる。
まるで由緒ある静かな古刹に足を踏み込んだときのような、凛としていて、どこか心を落ち着かせる深く瑞々しいウッディな香り。
けれど、それだけじゃない。
深く息を吸い込むたびに、そのフレグランスの奥の奥から、彼自身の確かな体温がじわりと浮かび上がってくる。
それは紛れもない、聖川さんの匂いだった。
まるで、彼の広い胸の中に強く抱きしめられているかのような、圧倒的な存在感。
ダイレクトに脳の一番敏感なところを揺さぶってくる彼の匂いに、景奈は抗うこともできず、ただ深く、深く酔いしれていく。
もう一度、深く息を吸う。
彼の香りが、頭から足の先まで、まるで全身の細胞ひとつひとつを満たしていくかのように広がっていく。
胸の奥がギューッと締め付けられて、なんだか泣き出したいような、どうしようもない切なさが溢れて止まらなくなった。
トクン、トクンと、静かな部屋に自分の激しい心臓の音だけが響く。
「……どうしよう。本当に、好きになっちゃったかもしれない」
彼の残した、「聖川真斗の香り」に全身を包まれながら、景奈はベッドに倒れ込んだ。
窓の外では、さっきまでの雷雨が嘘のように、綺麗な三日月が夜空に静かに腰掛けていた。