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卓の子SS



夢を見た。この夢は昔から何度か見たことがある。
澄んだ森の大きな樹の根元で動物っぽいのに囲まれてのほほんとしてるだけの平和すぎる夢。毎回そのまま夢の中で寝落ちして目が覚める。だから、今回も同じようにぼーっとして終わるだけの夢だと思ってた。
途中で人が出てくるまでは──

森の奥から歩いてくる緑のマントの男。フードを被っていて顔が見えない。
この夢に自分以外の人が出てきたことにも驚いたが、それよりも現れた相手に喜んでいる自分に驚いた。
「──!」
俺はそいつに声をかけた。俺の意思じゃなくて、夢の中の俺の意思なんだろう、知らないのに名前を呼んだ。でも発したはずの声は聞こえなかった。まるでノイズでもかかったかのようにかき消された。

それでも相手には届いたらしく、マント男は唯一見える口元を少し緩ませて近づいてくる。そいつからは敵意なんて全く感じなくて、寧ろその逆、優しい気持ち。相手の感情が自分に伝わってくるような、そんな気もする。

お前は、俺の、大切な、ヒト。
俺というか夢の中のこの白っぽいヒトの姿をした俺の大切なヒト。それだけはわかる。

目の前まで来たマント男はゆっくりとフードを取ってその顔を現す。俺に優しく微笑みかけてくるその顔は、知ってるハズなのに知らない顔。よく知る人物の知らない表情。大切な人に向けるような、優しい、笑顔。

「皐月──!?」

ハッと目が覚める。目の前に見えるのは見慣れた天井。ここは間違いなく俺の部屋で、俺のベッドだ。あの森の中じゃない。
枕元にあるスマホを開き時間を確認する。今は五時四十三分。起きるにはまだ早い。スマホを元に戻し、うだうだしながら先程の夢について考える。
あの夢は昔から何度も見る気分のいい夢だ。出てくるのは俺と動物だけ。動物と言ってもゲームとかに出てくるモンスターに近い見た目をしているが、襲ってくるどころか俺のそばに寄り添って寝る可愛いヤツらだ。
弟ほど動物好きって訳でもないが、俺の事を王様と呼んで慕ってくるモンスター?魔物?が可愛くないわけがない。

違う、そうじゃない。俺が今考えなきゃいけないのは、俺の夢に勝手に出てきた不届き者についてだ。
今まで俺と魔物以外出てきたことのなかった夢に突然現れた人。そいつがまさか自分の部下である皐月だとは思わない。予想外すぎた。でもなんかあいつのあの姿、しっくり来たような?あーもう、あいつの表情、あの見たことの無い笑顔が頭から離れない。意味がわからない。

今 日もいつも通り仕事はある。もちろん皐月も出勤の日だ。──絶対気まずくなる。そりゃもうひたすらに。やってらんねぇ。帰りてぇ。家はここだ。
うだうだしてたらもう起きる時間だ。依頼が来るかもしれないから休む訳にもいかない。身支度を始める。弟に少し顔が赤いと言われたが、別に熱は無い。意味がわからない。

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