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卓の子SS

貴方は利明で『黙って泣きやがれ』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/375517

♦♢♦♢

『および出しを申し上げます!リヒター!しきゅうボクのへやに来るように!!!』
脳内に響く子供の声。主であるアステルの声だ。
突然呼び出されることはよくあることなので問題は無い。
少し、呼び出し方に違和感を感じるが、直ぐにアステルの部屋に向かう。
申し訳程度のノックをして部屋に入る。
「来たぞアステル、今度は何をするつもり──」
ドンっと腹部に衝撃を感じる。そちらを見やると金と白の子供が自分に抱きついているのがわかる。
「珍しいな、どうし──「なでて!」……はぁ?」
「いいからなでて!これめいれい!」
抱きついたまま顔を上げ、こちらを見上げる。
呼び出し方がいつもより強気だったと思っていたが、今 日のアステルは機嫌が宜しくないらしい。
いつもなら、部屋にいるよーだのカモーンだの軽い言葉で呼び出される。
俺は主の命令に従い、その柔らかい金色の髪を撫でる。
こいつの髪は触り心地がいい。特に手入れをするような奴ではないから元々の性質なんだろうか。
「ヘタ」
「は?」
「リヒターなでるのヘタ、ヘタクソ」
「撫でろと言っておきながらお前は……!」
「ふへへ……でも、ボクはリヒターの手すきだよ」
「……ッ!?」
俺の手を掴んで頬ずりするこいつは……俺の気持ちをわかっていてそんなことを言うのか!?
「リヒター、首いたい!立ちひざするかベッドにすわるかどっちかして!」
頬を膨らませて怒る姿は、とても40には見えないだろう。
立ち膝ではアステルが立ちっぱなしになるだろうと配慮してベッドに腰掛けると、アステルは俺の膝にこちらを向いて座り抱きついてくる。待て、それは対面座──
「ちょっとこのままでいて」
やはり、今 日のアステルはいつもよりテンションが低い。
「何か気になることでもあるのか?」
「ある世かいせんでね、ボクがヨウシにとかってはなしになってね」
「40でか」
「今は見た目7才だもん!それでね、もしヨウシになるんだったらエミルくんの子どもとしてならいわかんないよねって!」
頬をぺしぺしと叩いてくる。わざとテンションを上げて無理しているとしか見えない。
「それで、お前は何を思ったんだ?」
「ふぇっ?」
「俺の前で無理する必要は無い。言いたいことがあれば言え、泣きたければ泣け。俺はお前の眷属である前に、お前の親友だろう?」
頭を撫でて伝えてやればアステルの眼に涙が溜まる。
「りひたぁ……」
「どうした、アステル」
「ボクがあかちゃんだったころから けんきゅうじょにいたのはしってるよね……」
「あぁ」
アステルは齢1にして意味のある言語、行動をすることができた特別な赤子だったらしい。それが原因で親元を離され、とある教団の研究所に軟禁されていた。
かくいう俺も、7歳の頃からだが軟禁されていた子どもの1人だ。
「ボクっておかあさんやおとうさんのことなーんにもしらない。だからね、おやからのアイとか、子どもらしいあそびとか、そういうのもしらない」
「そうだな」
俺達は研究所でアステルの今の存在であるニャルラトホテプについて研究をさせられていた。娯楽などは一切与えられず、研究に必要な知識だけを教えこまれていた。
まぁ、それももう20年も前の話だ。
「だからね、だからね……ヨウシになったら、もらえるのかなって、あそべるのかなって……ボクはもうヒトじゃないから、そんなケンリないことはわかってる……でも!ボクも、おやのアイ、もらって、そだちたかったなって!」
フォレストグリーンの大きな瞳から涙をボロボロと流すアステル。
「あぁ…………今 日はこのまま黙って泣きやがれ」
「……なにその口ちょう、らとくみたい」
「喜ぶと思ったんだが、嫌か?」
「イヤじゃないけど、リヒターはリヒターがいい」
「それは嬉しいな」
「…………ありがとう、利人」
アステルはおかあさん…おとうさん…おねえちゃん…と呟きながら暫く泣き続けた。
ヒトでないのなら、ヒトの子供になったらいけないなんてそんなことに縛られることもないと思うのだが、その思考こそがアステルがまだヒトでいるという証拠だ。
お前はまだヒトとしての気持ちを持っていてもいいんだ。
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