貝の大空と大樹の精霊のお話
「おい、なにボーッと突っ立ってんだ」
気がつくと俺は不思議な空間にいた。
白く、ほんのり赤く、ほんのり青く。
青いモヤがこの空間をぐるぐる流れてる。
俺と目の前にいる2人を中心に回る赤と緑と橙のモヤ。
地面はなく、ふわふわと浮かんでる感覚。
でも歩こうと思えば床っぽいものを足が感じて歩くことが出来る。
目の前にいる2人はさっき契約?した男の子。
片方が片方を膝枕している。
……なんで!?
「えぇ!?ここどこ!?なんで君2人居るの!?分身!?」
「ここは俺らとお前の精神が混ざった空間だ」
淡々と説明する起きてる方の男の子。
「俺と……えっと、らたとくす……さん……たち?」
「俺は ラ タ ト ス ク だ。あと、さんはいらねぇ。コイツ叩き起すの手伝え」
ラタトスクが寝ているらしいもう1人のラタトスク?の頭をペちペちと叩く。
「手伝えって言われても……」
「お前にしなきゃいけねぇ話はコイツも聞かなきゃいけねぇのに……」
「揺すったり大声で呼びかけてみたら?」
「既にやってるんだけどな…………おいエミル!!いい加減起きろ!!お前が起きなきゃ始められねぇんだよ!!」
ラタトスクはエミルさん?を起き上がらせて思いっきり揺さぶる。首もげそう。
「お、落ち着いて……!首もげちゃう!」
俺がラタトスクを止めようとエミルさんを掴んだ瞬間、エミルさんの身体が燃え上がった。
「んなっ!?燃え……!?早く消さないと!」
「この炎は大丈夫だ。起きなかったのはこれが理由か……」
「あ……そう言えばこの火……死ぬ気の炎みたいだ……」
自分の炎は見たことないけど、京子ちゃんやハル、お兄さんが死ぬ気になった時に見た炎に似てる気がする。
「死ぬ気の炎……?そうか、これはそう呼ぶのか…………あったけぇな」
ラタトスクの吊り上がったままだった眉が下がった気がした。
徐々に炎は弱くなり、消えていく。
「……ぅ…………ふぇ……?らたとすく……?」
「やっと起きたな寝坊助」
目を覚ましたエミルさんは辺りを見渡して、俺と目が合った。
「あ、どうも……」
「うわっ!?ヒト!?……ここって意識の中だよね?」
「おー、厳密に言えばコイツと契約したからここは俺らとコイツの意識の中だな」
「契約?!……あのラタトスクが!?」
「どういう意味だそれ……まぁ、理由も全部まとめてコイツらに教えっから、お前も聞いてろ」
「う、うん……」
エミルさんが立ち上がり、俺の方を向いてお辞儀をする。
「えと、僕はエミル・キャスタニエです」
「あ、沢田綱吉……です」
俺もつられてお辞儀をする。
「……ファミリーネーム?あるんだ」
精霊なのにファミリーネームまでちゃんと教えてくれるなんて、普通の外国人みたいだと思って問いかけるとエミルさんは少し困ったような顔で笑う。
「あはは……僕はちょっと特殊で……」
「エミルは俺、精霊ラタトスクがヒトの世界でヒトとして生活した時に生み出された人格で、名前はその時に使ってたヒトの名前だ。この容姿もその時にとったものだ」
「僕らは二重人格なんだ、ラタトスクが精霊としての、僕がヒトとしての……って区別してるよ」
「えっと、精霊ラタトスクの中には……精霊のラタトスクと人のエミルさんがいる……ってこと?」
ゲームとして考えたらすんなりと頭に入ってきた。ゲーム脳なんて言わないで、精霊なんてゲームとかマンガでしか知らない。
「そうそう、あ、でも僕にもさんは付けなくていいよ」
ラタトスクが許してるみたいだしと呟く。
「あ、うん、エミル……だね」
「ありがとう」
呼び捨てで呼ばれて嬉しいのかエミルがニッコリと笑う。なんかすごい癒される笑顔だなぁ……
「んじゃ綱吉、お前の体借りるな」
「えっ」
「えっ」
ラタトスクの言葉に対してのリアクションがエミルと被った。
いや、そんなことよりも今なんて?借りる?
「なんでそんなに驚く」
「ラタトスクの言葉が足りないからだよ?」
「……お前言うようになったよな」
「誰の影響だと思って」
「俺」
「いやいやいや……え、なんで!?」
ラタトスクとエミルの会話がぽんぽん進むところに疑問を投げる。
「……ここは精神世界で、この場にいるのは俺と、エミルと、お前。俺とエミルは同一人物でそれぞれ人格だ。後はわかるな?」
わかる。馬鹿な俺でも足し算くらいできる。
「三重人格?!」
「まぁ俺らがお前の精神世界に居座ってるだけなんだけどな」
「これって居候……になるのかな?」
「一気にリアルになった」
「そういうこともひっくるめて外でお前のこと心配してるヤツらと一緒に説明してやるから、大人しく座ってろ」
ラタトスクが俺の頭をわしゃわしゃと撫でてから下に押し付けてくる。俺はそのままバランスを崩して座り込む。
ラタトスクは俺が座るのを見届けてからふっと消える。
「心配してる…………そうだ!リボーン!獄寺くん!山本!」
戻らなきゃと思って立ち上がろうとすると、いつの間にか横にちょこんと正座していたエミルが俺の腕を掴んで止めてくる。
「大丈夫。僕らは敵意なんてないから、ラタトスクがちゃんと説明してくれるよ」
「エミル……」
「…………喧嘩しなければ」
「えっ」
エミルの言葉で連想されたのは獄寺くんだった。
「喧嘩する未来しか見えない……」
「えっ」