最原ちゃんには秘密がある
「へぇ、そんなことがあったんすね」
次の週の月曜日の昼休み。
最原から話を聞いた天海はニコニコとそう答えた。
天海は最原の隣の席だ。
当然、先週赤松が鬼気迫る様子で最原を誘ったことも、それに応じて他の女子数人と遊びに出かけたことも、何となく耳に入って知っていた。
だからいい機会だとばかりに土曜日の話題を出したのだ。それまではほとんど会話らしい会話が出来なかったが、今ならきっと互いに気軽に話すことができるだろう、と。
今まで会話が続かなかったのは何だったんだというくらいに、最原は楽しそうに土曜日のことを話した。
「それで茶柱さんに色んな服を試着してもらったんだ。茶柱さんって才能のこともあってボーイッシュなイメージだったけど、結構可愛らしいワンピースなんかも似合ってて素敵だったよ」
「そうなんすか。最原くんは服とか買わなかったんすか?」
「服は買わなかったかな。でも、コレ」
今までずっと硬い表情だったのは、やはりかなり緊張していたんだな。
本当はこんなにも表情豊かな人だったのか。
そんな風に微笑ましい気分で彼の話を聞いていた天海だったが。
不意に最原が重ためのサイドヘアを上げて白い耳を露わにした、その時。
見てはいけないものを見てしまったような感覚に陥り、ドキリとしてしまった。
「本当は学校にこういうのは良くないかなって思ったんだけど、しまっちゃうのがもったいなくて。今日だけ、つけてきちゃった」
耳元に鎮座する小さなクローバー型のピアス。単純に先日買った『お気に入り』を見せたいだけなのだろうとは分かってはいるのだが。
(う…わ。なんすかこれ)
そのままサイドヘアを耳にかけてお喋りを続行する最原。その無防備な姿に、目が釘付けになって離せない。
(最原くん、何つーか…滅茶苦茶えっちじゃないっすか…?)
いやいや。仮にも同性として接しているクラスメイトに対する感想じゃないだろう。
天海は心の中で自分自身を殴りつけ、とりあえず真面目な話題に切り換えてこの浮ついた気分を鎮めようとしたのだが…
「最原くん、今度の休み、良かったら俺とどっか行きません?」
次の瞬間にはこのポンコツになってしまった口が勝手に、煩悩のままにこんなことを口走っていた。
きょとん、と最原の目が天海を見る。
(何を言ってるんだ俺は!?)
一拍置いて、天海は心の中で盛大に頭を壁に打ち付けた。
その動揺を一切表に出さないところが流石イケメンである。
「あ、いや、すみません。買い物で思い出したんすけど、今度妹の誕生日でして。せっかくなら喜ぶものを贈ってあげたくて。だから良かったら一緒に選んでくれないかな、と」
更に水が流れるようにサラサラと出てくる言い訳。この日初めて、天海は12人もの異母妹を作った奔放な父に心からの感謝をした。
最原は、あぁ、と納得したように目を細め…しかし申し訳なさそうに謝った。
「ごめん。実は今週からしばらく予定が詰まってて都合がつかないんだ。本当にごめんね」
「あ、あー…そうなんすね。全然大丈夫っす。でも大変っすね。探偵ってそんなに忙しいものなんすね…?」
「あ、違うんだ。探偵の仕事は関係なくて。今週の半ばからしばらく両親の元で少しの間過ごすことになってるんだ」
「え、そうなんすか」
「うん。だから…そうだな。今回は来月の終わりくらいまでかな。学校にもあんまり来れなくなると思う」
「そう、なんすか」
両親の元で過ごすから学校にあまり来れなくなる?
どういう事情だ、と天海がそっと眉を寄せる。
天海の懸念に気づく様子もなく、最原は「今回は残念だけど、良かったらまた誘ってね」などと呑気なことを口にするのだった。
「やっほー、最原ちゃんにフラれて傷心中のカワイソーな天海ちゃーん♪」
放課後。席の近い真宮寺と軽い言葉を交わしながらのんびりと帰り支度を整えていた天海に、背後からドスッとそれなりの体重がのしかかる。
振り向くまでもなく声で分かる。王馬だ。おそらくは昼休みの会話を聞いていた彼が自分をからかいに来たのだろうと眉を寄せて答える。
「何すか、王馬くん」
予想以上に声が低くなったのは決して……決して!図星だからじゃない。
最原が最後に残した言葉が心に引っかかっているだけだ。
「うわ、声こわぁ…。そんなに最原ちゃんフラれたのが堪えちゃった?」
「俺も最原くんもそんな他意のあるやりとりはしてないっすから。堪えるも何もないっすよ」
「えーウッソだぁ。オレは他人の嘘が分かるんだよ。少なくとも天海ちゃんは最原ちゃんを意識して誘ってたよね?」
「だから…違うって」
「それにしても気になるよねー」
ウンザリと否定を重ねようとしたところにコロッとトーンを変えた王馬の言葉が重なる。
まるでこちらの思うように会話の舵取りをさせてくれない。だから彼と話すのは疲れるのだ、と天海はため息をついて次の彼の言葉を待った。
「気になるって、何がっすか?」
「最原ちゃんの言葉だよ。これから…えっと、来月末までだから1か月強か。忙しいんだってね?」
「そうっすね。ご両親と一緒に過ごすそうで」
「うんうん。そのせいで学校にもあまり来れなくなるかもしれないんだよね。それってちょっと」
そこで王馬は一旦言葉を切る。そして低く潜めるような声で言った。
「普通じゃないよね」
ゾッとこちらの不安を逆なでするような声色。
思わず息を詰まらせてしまう。
王馬は変わらず天海におぶさるような格好で言葉を続けた。その声は珍しく低く平坦だ。
「最原ちゃんってさ、秘密が多いよね。性別のこともそうだけど、私生活のこと、家族のこと。皆と打ち解けたあの日から色々話してくれてるように見えて、大事なことは何一つ口にしないよね」
「まだ俺たち出会って1か月くらいっすよ。最原くんが俺たちと打ち解けてからはもっと短い。これからっすよ。最原くんだってこれからもっと俺たち皆と仲良くなれば、知らなかった彼の一面だって見せてくれるはずっす。まだ話題に上らないから話す機会がないだけで、きっと」
「それはどうかなぁ」
王馬が低く嗤うように言った。
「もし天海ちゃんの推測通りなら…何で最原ちゃんは『両親の元で過ごすから』なんて曖昧な理由で予定が詰まってるなんて言ったんだろ。単に休みが空いてないってんなら遠回しな天海ちゃんへのお断りって解釈できたけど、学校にも来れなくなるかもしれないってことになると話は変わってくるよね?」
天海ちゃんもおかしいって思ったんじゃない?
言われて、天海は口を閉ざす。
そうだ。確かに自分はおかしいと思った。どういう事情だ、と不審に思った。
「確かにそれは気になるネ」
今まで口を噤んでいた真宮寺までもが会話に加わる。
「確か彼のご両親は海外で仕事をされているんだったネ。海外のご両親の元で過ごすなら長期の不在も頷けるけど…普通はそういうのは長期休みの時にするものじゃないかナ。少なくともまともな親であれば在学中に自分たちの都合で学校を休ませたりはしないと思うけれどネ」
「ってことは最原ちゃんの両親はマトモじゃないってことだね!」
「心配だネ…。世間では児童虐待はよくある話だヨ。高校生ともなれば純粋な虐待に加えて性的・金銭的搾取の対象になるケースも多い。虐待を受けている子供は周囲に助けを求めることすらできないほど精神的に追いこまれていることが多いとも聞くヨ。彼は見た目も魅力的だし、探偵としての才能も認められている。悪い人間からすれば搾取のし甲斐がある相手だと言えるんじゃないかナ」
「真宮寺くんまで…そんな、でも」
「天海ちゃんは純粋培養のお坊ちゃんだからピンと来ないかもしれないけどさー。案外そういう話ってそこらへんにゴロゴロ転がってるもんだよ?ま、最原ちゃんが虐待されてるってのはまるで見当違いな憶測だけどねー!」
ケロッと真宮寺の推測を翻した王馬。違うなら違うとさっさと言えばいいものを、と、思わずじっとりと恨みがましい目で見てしまう。
だが意外にも推測を否定された当の真宮寺自身は何も感じていないようだ。無感情な目で、ただ王馬に言葉の先を促している。
「それで?そろそろ本題に入ってもらえないかナ。まさか僕たち相手に延々と下らない戯言を垂れ流して時間を潰したいわけじゃないだろう?」
「はいはい、じゃあそろそろ本題ね。それにしてもまさか真宮寺ちゃんがノッてくれるとは思わなかったよー。お陰で天海ちゃんがかわいそうなくらい真っ青になっちゃって…正直メチャクチャ笑えたよね!」
「ノッてって…え!?まさかさっきの冗談だったんすか!?」
「キミ、最原くんのご両親のことを本当に何も知らなかったんだネ…。彼のお父上は俳優だそうだヨ。有名人なんだから、自らスキャンダルになるような後ろ暗いことはするわけないよネ。まして最原くんを預かっているご親類…伯父と言っていたからご兄弟に当たるのかナ。彼は探偵業を営んでいるんだから、もしそんなことをしていたらとっくにバレているはずだヨ」
「それは…確かに。はぁ、でもビックリしたっすよ。そういう笑えない冗談は今後やめて欲しいっす」
「クク…すまなかったネ。キミはいつも泰然自若としているから、慌てる姿が新鮮で、つい、ネ」
「で。結局、王馬くんは何が言いたいんすか。こんな人の不安を煽るようなことばかり言って」
「ここまで話を引きのばしたのってオレじゃなくて真宮寺ちゃんじゃない?」
唇を尖らせ、ようやく王馬が天海から離れる。そして天海と真宮寺の前に陣取るように椅子を引っ張って座ると、口元に指を当てて周囲に聞こえないくらいの声音で言ったのだった。
「オレが言いたいのは最原ちゃんの秘密についてだよ。最原ちゃんには性別の他にもまだまだ秘密がある」
「断定するってことは…キミはその秘密とやらについて何か掴んでいるということかナ」
「まーね。これは金曜の放課後にたまたま最原ちゃんと雪染先生の会話をちょこっとだけ聞いちゃって、それで知ったことなんだけどさ」
ニシシ、と特徴的な笑い声を立てた後、王馬は声を潜めて、こう言った。
「最原ちゃんは才能を偽ってこの学校に通ってる」
「最原ちゃんの才能は『探偵』じゃないよ」
次の週の月曜日の昼休み。
最原から話を聞いた天海はニコニコとそう答えた。
天海は最原の隣の席だ。
当然、先週赤松が鬼気迫る様子で最原を誘ったことも、それに応じて他の女子数人と遊びに出かけたことも、何となく耳に入って知っていた。
だからいい機会だとばかりに土曜日の話題を出したのだ。それまではほとんど会話らしい会話が出来なかったが、今ならきっと互いに気軽に話すことができるだろう、と。
今まで会話が続かなかったのは何だったんだというくらいに、最原は楽しそうに土曜日のことを話した。
「それで茶柱さんに色んな服を試着してもらったんだ。茶柱さんって才能のこともあってボーイッシュなイメージだったけど、結構可愛らしいワンピースなんかも似合ってて素敵だったよ」
「そうなんすか。最原くんは服とか買わなかったんすか?」
「服は買わなかったかな。でも、コレ」
今までずっと硬い表情だったのは、やはりかなり緊張していたんだな。
本当はこんなにも表情豊かな人だったのか。
そんな風に微笑ましい気分で彼の話を聞いていた天海だったが。
不意に最原が重ためのサイドヘアを上げて白い耳を露わにした、その時。
見てはいけないものを見てしまったような感覚に陥り、ドキリとしてしまった。
「本当は学校にこういうのは良くないかなって思ったんだけど、しまっちゃうのがもったいなくて。今日だけ、つけてきちゃった」
耳元に鎮座する小さなクローバー型のピアス。単純に先日買った『お気に入り』を見せたいだけなのだろうとは分かってはいるのだが。
(う…わ。なんすかこれ)
そのままサイドヘアを耳にかけてお喋りを続行する最原。その無防備な姿に、目が釘付けになって離せない。
(最原くん、何つーか…滅茶苦茶えっちじゃないっすか…?)
いやいや。仮にも同性として接しているクラスメイトに対する感想じゃないだろう。
天海は心の中で自分自身を殴りつけ、とりあえず真面目な話題に切り換えてこの浮ついた気分を鎮めようとしたのだが…
「最原くん、今度の休み、良かったら俺とどっか行きません?」
次の瞬間にはこのポンコツになってしまった口が勝手に、煩悩のままにこんなことを口走っていた。
きょとん、と最原の目が天海を見る。
(何を言ってるんだ俺は!?)
一拍置いて、天海は心の中で盛大に頭を壁に打ち付けた。
その動揺を一切表に出さないところが流石イケメンである。
「あ、いや、すみません。買い物で思い出したんすけど、今度妹の誕生日でして。せっかくなら喜ぶものを贈ってあげたくて。だから良かったら一緒に選んでくれないかな、と」
更に水が流れるようにサラサラと出てくる言い訳。この日初めて、天海は12人もの異母妹を作った奔放な父に心からの感謝をした。
最原は、あぁ、と納得したように目を細め…しかし申し訳なさそうに謝った。
「ごめん。実は今週からしばらく予定が詰まってて都合がつかないんだ。本当にごめんね」
「あ、あー…そうなんすね。全然大丈夫っす。でも大変っすね。探偵ってそんなに忙しいものなんすね…?」
「あ、違うんだ。探偵の仕事は関係なくて。今週の半ばからしばらく両親の元で少しの間過ごすことになってるんだ」
「え、そうなんすか」
「うん。だから…そうだな。今回は来月の終わりくらいまでかな。学校にもあんまり来れなくなると思う」
「そう、なんすか」
両親の元で過ごすから学校にあまり来れなくなる?
どういう事情だ、と天海がそっと眉を寄せる。
天海の懸念に気づく様子もなく、最原は「今回は残念だけど、良かったらまた誘ってね」などと呑気なことを口にするのだった。
「やっほー、最原ちゃんにフラれて傷心中のカワイソーな天海ちゃーん♪」
放課後。席の近い真宮寺と軽い言葉を交わしながらのんびりと帰り支度を整えていた天海に、背後からドスッとそれなりの体重がのしかかる。
振り向くまでもなく声で分かる。王馬だ。おそらくは昼休みの会話を聞いていた彼が自分をからかいに来たのだろうと眉を寄せて答える。
「何すか、王馬くん」
予想以上に声が低くなったのは決して……決して!図星だからじゃない。
最原が最後に残した言葉が心に引っかかっているだけだ。
「うわ、声こわぁ…。そんなに最原ちゃんフラれたのが堪えちゃった?」
「俺も最原くんもそんな他意のあるやりとりはしてないっすから。堪えるも何もないっすよ」
「えーウッソだぁ。オレは他人の嘘が分かるんだよ。少なくとも天海ちゃんは最原ちゃんを意識して誘ってたよね?」
「だから…違うって」
「それにしても気になるよねー」
ウンザリと否定を重ねようとしたところにコロッとトーンを変えた王馬の言葉が重なる。
まるでこちらの思うように会話の舵取りをさせてくれない。だから彼と話すのは疲れるのだ、と天海はため息をついて次の彼の言葉を待った。
「気になるって、何がっすか?」
「最原ちゃんの言葉だよ。これから…えっと、来月末までだから1か月強か。忙しいんだってね?」
「そうっすね。ご両親と一緒に過ごすそうで」
「うんうん。そのせいで学校にもあまり来れなくなるかもしれないんだよね。それってちょっと」
そこで王馬は一旦言葉を切る。そして低く潜めるような声で言った。
「普通じゃないよね」
ゾッとこちらの不安を逆なでするような声色。
思わず息を詰まらせてしまう。
王馬は変わらず天海におぶさるような格好で言葉を続けた。その声は珍しく低く平坦だ。
「最原ちゃんってさ、秘密が多いよね。性別のこともそうだけど、私生活のこと、家族のこと。皆と打ち解けたあの日から色々話してくれてるように見えて、大事なことは何一つ口にしないよね」
「まだ俺たち出会って1か月くらいっすよ。最原くんが俺たちと打ち解けてからはもっと短い。これからっすよ。最原くんだってこれからもっと俺たち皆と仲良くなれば、知らなかった彼の一面だって見せてくれるはずっす。まだ話題に上らないから話す機会がないだけで、きっと」
「それはどうかなぁ」
王馬が低く嗤うように言った。
「もし天海ちゃんの推測通りなら…何で最原ちゃんは『両親の元で過ごすから』なんて曖昧な理由で予定が詰まってるなんて言ったんだろ。単に休みが空いてないってんなら遠回しな天海ちゃんへのお断りって解釈できたけど、学校にも来れなくなるかもしれないってことになると話は変わってくるよね?」
天海ちゃんもおかしいって思ったんじゃない?
言われて、天海は口を閉ざす。
そうだ。確かに自分はおかしいと思った。どういう事情だ、と不審に思った。
「確かにそれは気になるネ」
今まで口を噤んでいた真宮寺までもが会話に加わる。
「確か彼のご両親は海外で仕事をされているんだったネ。海外のご両親の元で過ごすなら長期の不在も頷けるけど…普通はそういうのは長期休みの時にするものじゃないかナ。少なくともまともな親であれば在学中に自分たちの都合で学校を休ませたりはしないと思うけれどネ」
「ってことは最原ちゃんの両親はマトモじゃないってことだね!」
「心配だネ…。世間では児童虐待はよくある話だヨ。高校生ともなれば純粋な虐待に加えて性的・金銭的搾取の対象になるケースも多い。虐待を受けている子供は周囲に助けを求めることすらできないほど精神的に追いこまれていることが多いとも聞くヨ。彼は見た目も魅力的だし、探偵としての才能も認められている。悪い人間からすれば搾取のし甲斐がある相手だと言えるんじゃないかナ」
「真宮寺くんまで…そんな、でも」
「天海ちゃんは純粋培養のお坊ちゃんだからピンと来ないかもしれないけどさー。案外そういう話ってそこらへんにゴロゴロ転がってるもんだよ?ま、最原ちゃんが虐待されてるってのはまるで見当違いな憶測だけどねー!」
ケロッと真宮寺の推測を翻した王馬。違うなら違うとさっさと言えばいいものを、と、思わずじっとりと恨みがましい目で見てしまう。
だが意外にも推測を否定された当の真宮寺自身は何も感じていないようだ。無感情な目で、ただ王馬に言葉の先を促している。
「それで?そろそろ本題に入ってもらえないかナ。まさか僕たち相手に延々と下らない戯言を垂れ流して時間を潰したいわけじゃないだろう?」
「はいはい、じゃあそろそろ本題ね。それにしてもまさか真宮寺ちゃんがノッてくれるとは思わなかったよー。お陰で天海ちゃんがかわいそうなくらい真っ青になっちゃって…正直メチャクチャ笑えたよね!」
「ノッてって…え!?まさかさっきの冗談だったんすか!?」
「キミ、最原くんのご両親のことを本当に何も知らなかったんだネ…。彼のお父上は俳優だそうだヨ。有名人なんだから、自らスキャンダルになるような後ろ暗いことはするわけないよネ。まして最原くんを預かっているご親類…伯父と言っていたからご兄弟に当たるのかナ。彼は探偵業を営んでいるんだから、もしそんなことをしていたらとっくにバレているはずだヨ」
「それは…確かに。はぁ、でもビックリしたっすよ。そういう笑えない冗談は今後やめて欲しいっす」
「クク…すまなかったネ。キミはいつも泰然自若としているから、慌てる姿が新鮮で、つい、ネ」
「で。結局、王馬くんは何が言いたいんすか。こんな人の不安を煽るようなことばかり言って」
「ここまで話を引きのばしたのってオレじゃなくて真宮寺ちゃんじゃない?」
唇を尖らせ、ようやく王馬が天海から離れる。そして天海と真宮寺の前に陣取るように椅子を引っ張って座ると、口元に指を当てて周囲に聞こえないくらいの声音で言ったのだった。
「オレが言いたいのは最原ちゃんの秘密についてだよ。最原ちゃんには性別の他にもまだまだ秘密がある」
「断定するってことは…キミはその秘密とやらについて何か掴んでいるということかナ」
「まーね。これは金曜の放課後にたまたま最原ちゃんと雪染先生の会話をちょこっとだけ聞いちゃって、それで知ったことなんだけどさ」
ニシシ、と特徴的な笑い声を立てた後、王馬は声を潜めて、こう言った。
「最原ちゃんは才能を偽ってこの学校に通ってる」
「最原ちゃんの才能は『探偵』じゃないよ」
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