最原ちゃんには秘密がある
サンシャインシティ内、西口広場からアミューズメント施設に向けて伸びている1F通路の周囲にはコスメ・雑貨・服飾・カフェ等々…様々な店舗がぎゅうぎゅうにひしめき合って日々集客を競っている。
あっちを見てもこっちを見ても色とりどりに魅力的な商品がこれでもかというほど飾り立てられている。
更に今日は土曜日。休日で目が回るほど人通りが多いこともあり、
「ふあぁ…何だか立っているだけで、転子、目が回ってしまいそうです…」
茶柱が早々に目を回すのも仕方のない話。
「すごい人だもんね。私も迷子になっちゃいそうで、ちょっと怖いかな」
「なら二人とも、ウチと手を繋いでおれば良い。手を繋いでおれば迷子の心配はあるまい」
「ゆ、夢野さん…っ!嬉しいですっ!喜んで!!手を!!!繋がせていただきますね!!!!」
「んあ…そこまで過剰に喜ぶでない。きしょいわ」
「あはは。でも私も嬉しいよ。三人で固まっていれば迷子になっても怖くなさそうだよね!」
「いや、地味に迷子になる前提で話をしないで欲しいかな」
赤松も夢野もこういった場に慣れていないこともあり、池袋には詳しい白銀(何と言っても現在秋葉原に並ぶオタクの聖地である)と、本日この場所を指定した最原の先導でショッピングに興じることになったのだった。
最初に入ったのは入り口近くにある総合雑貨店。ここには文房具などの日用雑貨からオタク心をくすぐるちょっとした玩具、そしてコスメと様々なジャンルの品物がズラリと取り揃えられている場所である。
コスメ選びを手伝ってほしいという赤松のために入った店であったが…
「あぁ~~このフィギュアイイ、可愛い、素敵!最近はこういう中華フィギュアが地味にキてるんだよね。中国イコール海賊版しか作れないって時代はもう終わってるんだよ。オリジナリティのあるこのデザインは唯一無二だよ。でもブラインドかぁ。箱買い…いやいや今日はまだ始まったばかりなのにいきなり箱買いは…あ、でも地味にポップアップ。う~~~~~~~ん」
といった具合に相談相手の第一有力候補・白銀が早々に脱落。
最原が赤松、茶柱、夢野と共にコスメコーナーに向かうことになったのだった。
「あ、この色、赤松さんに似合いそう」
コスメコーナーをゆったり眺めながら歩いていた最原が、ひとつのアイシャドウパレットを手に取った。4色1セットのアイシャドウパレットだ。色数が少なく初心者でも使いやすそうな商品。明るいオレンジ系中心で、明るくキュートな赤松にきっと似合うだろうと誰もが思うような色味だ。
「本当ですね!まさに赤松さんって感じの色合いです!」
しかし赤松は困ったように苦笑。
「うーん…可愛い色だなって思うけど私に使いこなせるかなぁ。それにこういうのってベースメイク?も必要なんだよね。私、そこから分かんなくてさ」
「あ!ごめん。じゃあまずベースメイク系のコスメを一緒に見ようか」
「うん、お願いできるかな。私も雑誌とか見て勉強してはみたんだけど、いまいちピンと来なくて。それにこういうのってお値段も、ね。だから独学で手を出すのは怖くってさ」
「そうだよね。でも赤松さんは肌がきれいだから…今は日焼け止めとスキンケアパウダーだけに留めた方がいいんじゃないかな」
「それってファンデーションとどう違うの?」
「スキンケアパウダーは主に肌荒れやニキビを防止するためのパウダーだよ。最近のものは肌の質感もキレイに補正してくれるから、学生がファンデーション代わりに使うのにピッタリなんだ」
僕も今日は日焼け止めにスキンケアパウダーだけだよ。
照れたように言う最原に、赤松はもちろん、傍でそれを聞いていた茶柱、夢野の視線までもが集中する。
「えっと…あんまり見ないでもらえるかな。恥ずかしいから」
「あっ、ごめんね。でも、そっか。確かに今日の最原くん、塗ってる!って感じじゃないもんね」
「しかし白銀は何やら塗っているような感じじゃったぞ?」
「そうだね。でも白銀さんもそこまでしっかりベースを作ってるわけじゃないと思うよ。あの感じだと…カラー下地で肌色調整してフェイスパウダーで押さえてるくらいじゃないかな。アイシャドウにラメ入りのヌーディベージュを使って普段より大人っぽくまとめてるから、普段と印象が違うせいで”塗ってる”ように感じるだけだよ」
今日の白銀の姿を思い起こしながら、最原が分析する。
と、背後からおどろおどろしい空気を纏って白銀が躍り出た。
「こ~~~ら~~~~~」
「うわっ!?」
「全く。何、人のメイクについて分析してくれちゃってるのかな。まぁ地味に当たりだけど!」
「あはは…ごめん」
「っていうかせっかくコスメ見に来たんだからさ。ベースメイク講座なんて地味なことばっかやってないで、もっと可愛いの見ない?」
「そうですね!その。白銀さんも無事合流したことですし、転子も…ちょっとお洒落してみたいです。ご迷惑じゃなければお化粧品を見繕っていただいていいでしょうか?」
「もちろんだよ!茶柱さんはどんな感じになりたい?可愛い系?カッコイイ系?普段のイメージならナチュラルにまとめちゃうのが良いのかなって思うけど、思い切って濃い目のポイントメイクで存在感を出すのも全然アリだよね!」
「えっえっ、えっと、えーと。さ、最原さん~…」
前のめりになった白銀の突然の早口マシンガントーク。たじたじになりながらこちらに助けを求める茶柱に最原は思わず苦笑する。
「白銀さん、茶柱さんが困ってるよ」
「えっ、あ!ご、ごめんね。私、熱くなると地味に周りが見えなくなっちゃって…」
「い、いえ、大丈夫です!それだけ白銀さんが本気で転子のことを思ってくださってるということですよね。えっと、転子はか、可愛い…感じのメ、メイク…がしてみたいです。でも持ち合わせが…その、心もとないので。色々買うことは出来なくて」
「うんうん大丈夫。私に任せて!コスプレイヤーの真髄を見せてあげるよ!」
モジモジと胸の前で指を弄ぶ茶柱に、ドンと頼もしく胸を叩く白銀。
そのコミカルなやり取りに思わずクスリと笑みをこぼしながら、最原は赤松と夢野に振り返った。
「二人はどうする?」
「あ、私はさっき最原くんがオススメしてくれたスキンケアパウダーとアイシャドウを買ってくるよ!」
「えっ…その。自分で勧めておいてなんだけど、もっと色んな商品があるんだからもうちょっと吟味してからでも遅くないんじゃ」
「ううん、これがいいの。最原くんが『似合う』って見せてくれた時に、こう…ビビッと来たんだよね。だから私はこれにするよ」
次遊ぶときはこれでメイクしてみるね!
あっけらかんとそんなことを言いながらレジに向かっていく赤松。
茫然とその背中を見送りながら、最原は赤松が残した言葉を脳内で反芻し……頬が急激に熱くなるのを感じた。
「最原よ…顔が真っ赤じゃぞ。やはりおぬしは男子じゃな」
「言わないでよ…ますます意識しちゃうじゃないか」
「カッカッカ。ならば気を紛らわせるのを手伝ってやろう。おぬしは今からウチに似合いの品を探すのじゃ!」
「はいはい。ちなみにリクエストはある?」
「む…ウチもこういったことには疎いからの。めんどいわ、おぬしのオススメで良い」
「分かったよ。じゃあ一緒に商品見て回ろうか」
そんなささやかだが気の置けないやり取りの後、最原は夢野と並んでゆっくりと歩き出す。
今まで縁のなかったコスメに目を白黒させながらも興味深げに眺める夢野を見守る最原の目は優しく、その姿はさながら仲の良い姉妹のようだった。
その後も楽しい時間は続いた。
総合雑貨店から出た後は服屋を見て回り、気になるものがあれば試着室で試してみる。
時には茶柱を、夢野を、赤松をモデルにフルコーデしてはきゃあきゃあはしゃぎ、小遣いの範囲内で気になるものがあれば購入し。
あっという間に時間はすぎ、時刻は午後13時半。この時間であれば飲食店も多少空いてきた頃だろうと、4人は遅い昼食を摂ることにしたのだった。
アルパ3F、本日最後の目玉である水族館が入っているビルを目前にエスカレータで上ったそのすぐ先にあるカジュアルな雰囲気の洋食店。ゆっくりと座れる席でいつもより少々贅沢な昼食を楽しめるその店は最原たちの買い物で溜まった疲労を癒してくれた。あれが美味しそう、これも美味しそうだとそれぞれに口にしながら全員分のメニューを注文する。
一息ついたところではぁ、と冗談交じりにため息をつきながら白銀が零した。
「あー…買っちゃった買っちゃった」
「買っちゃったね」
最原も笑いながらそれに続く。
「え、最原くんも白銀さんも、そんなに買ってたっけ?」
赤松が首を傾げる。
ちなみにこの中で最も買っていたのは最初にコスメを買い、昼食前に家族にとフレーバーティの茶葉を購入していた赤松である。
購入した数こそ少ないものの今日のファッションに合う帽子を購入した夢野、
白銀の勧めでリップバームとワンピースを買った茶柱もすでにそこそこの出費をしている。
「私はねー、最初の雑貨屋で地味にフィギュアを2個買っちゃってるのだよ。その後最原くんにおだてられてガーリー系のトップスも買っちゃったから、結構な買い物しちゃってるんだよね」
「おだてられてって…嫌な言い方するなぁ。僕だって君におだてられて新色のティント買っちゃったんだからお相子だよ」
「プチプラブランドじゃない。そんなに大きな買い物じゃないでしょ」
「それはそうだけど。その後、これ」
白銀と憎まれ口を叩き合いながら総合雑貨店のショッパーから小さな包みを取り出す。その包みに印字されていたのは、その後入った服飾店のものだ。
包みを開封する。コロリと小さなクローバー型のピアスが出てきた。
「買っちゃったからさ。可愛くって、つい」
「分かる。見た瞬間、運命感じちゃうものってあるよね」
「本当にね。このピアス穴、両親からのプレゼントをつけるためだけに開けたものなのになぁ」
つんつん、と最原が自分の耳を指し示す。
そこには小さなブルートパーズのピアスが収まっていた。
両親からの入学祝いのプレゼント。本当は高校卒業まで大事にしまっておこうかと思っていたけど、校則で禁止されていなかったことを良いことに自分の殻を破る意味を込めて思い切って開けた穴。
このプレゼント以外をここに飾ることなんてないと思っていたのに。
「お洒落に夢中になってる皆の熱に、ちょっと当てられちゃった」
軽く笑って言うと、私も、私もだと赤松が、茶柱が競うように声を上げたのだった。
お腹いっぱいにご飯を食べた後は、途中で白銀の要望によりガチャガチャが目一杯に設置されているコーナーに立ち寄り。
キャラクターものはもちろんのこと、ゆるめの動物や食品・身の回りにあるもののミニチュアなんかを扱っているものもかなるの数あるのを見て意外に思ったりして。
それからいよいよ向かった水族館では、大きな水槽を悠々と泳ぐ色とりどりの熱帯魚を、統率だった動きで水槽内をくるくると移動する回遊魚たちを、ふわふわと水中を漂う淡く発光しているかのようなたくさんのクラゲたちをゆったりと眺めて癒しの時間を過ごした。
2階のカエルや爬虫類が集中しているゾーンは他の女子には大変不評だったが、その先に待っていたアザラシやペンギンたちは特に夢野や赤松たちに大変人気だった。最原もまた陸と水中両方からペンギンが生き生きと動き回る様に、思わず胸をときめかせたものだった。
「楽しかったねー」
「うん…すごく楽しかった。水族館もかなりしっかりした造りでビックリしたよ」
「ペンギンが可愛かったのじゃ」
「ペンギンを見る夢野さんもお可愛らしかったですよ」
「んあー…そういうのはいちいち言わんで良いわい。きしょいわ」
「あのビル、プラネタリウムもあるんでしょ?百田くんとかに教えてあげたら喜びそうだよね」
「そうだね。僕も、次はもっと他の展示なんかも見てみたいな」
長めに時間を取っていたはずの一日はあっという間に終わり、夕方。
赤松や夢野の熱烈な要望によりスタバで飲み物をテイクアウトし、喉を潤しながら口々に良かった、楽しかったと思いの丈を言い合いながら来た道を遡る。
そして池袋駅。改札を潜った直後、最原は赤松に声をかけた。
「赤松さん、今日はありがとう」
「えっ?」
何で突然礼を言われたのか分からず、キョトンとしている赤松。
「赤松さんが買い物に行こうって誘ってくれなかったら、今日皆とこうして遊ぶなんてきっと出来なかった。
今日は本当に楽しかったよ。赤松さんのことも、皆のことも、たくさん知ることが出来てよかった。
その…また。赤松さんさえよければ。また今度、こうして遊びに来れたら嬉しい」
「もちろんだよ!今度は他の皆も誘って来よ!」
口下手な最原なりの誠意を込めた言葉。
それに対して彼女はこんな風に、軽く言葉を返すのだ。
何でもないことのように、普通に。
それがたまらなく眩しく、嬉しい。
「うん。また」
電車がホームに到着する。赤松と最原は別々の電車だ。だから今日は、ここでお別れ。
車両に乗り込む寸前、赤松が大きく手を振って溌剌と言い放った。
「じゃあ、また来週!」
「うん。また…来週」
最原も控えめに手を振って、彼女の言葉を鸚鵡返しする。
その顔には目を潤ませた切なげな笑顔が浮かんでいた。
あっちを見てもこっちを見ても色とりどりに魅力的な商品がこれでもかというほど飾り立てられている。
更に今日は土曜日。休日で目が回るほど人通りが多いこともあり、
「ふあぁ…何だか立っているだけで、転子、目が回ってしまいそうです…」
茶柱が早々に目を回すのも仕方のない話。
「すごい人だもんね。私も迷子になっちゃいそうで、ちょっと怖いかな」
「なら二人とも、ウチと手を繋いでおれば良い。手を繋いでおれば迷子の心配はあるまい」
「ゆ、夢野さん…っ!嬉しいですっ!喜んで!!手を!!!繋がせていただきますね!!!!」
「んあ…そこまで過剰に喜ぶでない。きしょいわ」
「あはは。でも私も嬉しいよ。三人で固まっていれば迷子になっても怖くなさそうだよね!」
「いや、地味に迷子になる前提で話をしないで欲しいかな」
赤松も夢野もこういった場に慣れていないこともあり、池袋には詳しい白銀(何と言っても現在秋葉原に並ぶオタクの聖地である)と、本日この場所を指定した最原の先導でショッピングに興じることになったのだった。
最初に入ったのは入り口近くにある総合雑貨店。ここには文房具などの日用雑貨からオタク心をくすぐるちょっとした玩具、そしてコスメと様々なジャンルの品物がズラリと取り揃えられている場所である。
コスメ選びを手伝ってほしいという赤松のために入った店であったが…
「あぁ~~このフィギュアイイ、可愛い、素敵!最近はこういう中華フィギュアが地味にキてるんだよね。中国イコール海賊版しか作れないって時代はもう終わってるんだよ。オリジナリティのあるこのデザインは唯一無二だよ。でもブラインドかぁ。箱買い…いやいや今日はまだ始まったばかりなのにいきなり箱買いは…あ、でも地味にポップアップ。う~~~~~~~ん」
といった具合に相談相手の第一有力候補・白銀が早々に脱落。
最原が赤松、茶柱、夢野と共にコスメコーナーに向かうことになったのだった。
「あ、この色、赤松さんに似合いそう」
コスメコーナーをゆったり眺めながら歩いていた最原が、ひとつのアイシャドウパレットを手に取った。4色1セットのアイシャドウパレットだ。色数が少なく初心者でも使いやすそうな商品。明るいオレンジ系中心で、明るくキュートな赤松にきっと似合うだろうと誰もが思うような色味だ。
「本当ですね!まさに赤松さんって感じの色合いです!」
しかし赤松は困ったように苦笑。
「うーん…可愛い色だなって思うけど私に使いこなせるかなぁ。それにこういうのってベースメイク?も必要なんだよね。私、そこから分かんなくてさ」
「あ!ごめん。じゃあまずベースメイク系のコスメを一緒に見ようか」
「うん、お願いできるかな。私も雑誌とか見て勉強してはみたんだけど、いまいちピンと来なくて。それにこういうのってお値段も、ね。だから独学で手を出すのは怖くってさ」
「そうだよね。でも赤松さんは肌がきれいだから…今は日焼け止めとスキンケアパウダーだけに留めた方がいいんじゃないかな」
「それってファンデーションとどう違うの?」
「スキンケアパウダーは主に肌荒れやニキビを防止するためのパウダーだよ。最近のものは肌の質感もキレイに補正してくれるから、学生がファンデーション代わりに使うのにピッタリなんだ」
僕も今日は日焼け止めにスキンケアパウダーだけだよ。
照れたように言う最原に、赤松はもちろん、傍でそれを聞いていた茶柱、夢野の視線までもが集中する。
「えっと…あんまり見ないでもらえるかな。恥ずかしいから」
「あっ、ごめんね。でも、そっか。確かに今日の最原くん、塗ってる!って感じじゃないもんね」
「しかし白銀は何やら塗っているような感じじゃったぞ?」
「そうだね。でも白銀さんもそこまでしっかりベースを作ってるわけじゃないと思うよ。あの感じだと…カラー下地で肌色調整してフェイスパウダーで押さえてるくらいじゃないかな。アイシャドウにラメ入りのヌーディベージュを使って普段より大人っぽくまとめてるから、普段と印象が違うせいで”塗ってる”ように感じるだけだよ」
今日の白銀の姿を思い起こしながら、最原が分析する。
と、背後からおどろおどろしい空気を纏って白銀が躍り出た。
「こ~~~ら~~~~~」
「うわっ!?」
「全く。何、人のメイクについて分析してくれちゃってるのかな。まぁ地味に当たりだけど!」
「あはは…ごめん」
「っていうかせっかくコスメ見に来たんだからさ。ベースメイク講座なんて地味なことばっかやってないで、もっと可愛いの見ない?」
「そうですね!その。白銀さんも無事合流したことですし、転子も…ちょっとお洒落してみたいです。ご迷惑じゃなければお化粧品を見繕っていただいていいでしょうか?」
「もちろんだよ!茶柱さんはどんな感じになりたい?可愛い系?カッコイイ系?普段のイメージならナチュラルにまとめちゃうのが良いのかなって思うけど、思い切って濃い目のポイントメイクで存在感を出すのも全然アリだよね!」
「えっえっ、えっと、えーと。さ、最原さん~…」
前のめりになった白銀の突然の早口マシンガントーク。たじたじになりながらこちらに助けを求める茶柱に最原は思わず苦笑する。
「白銀さん、茶柱さんが困ってるよ」
「えっ、あ!ご、ごめんね。私、熱くなると地味に周りが見えなくなっちゃって…」
「い、いえ、大丈夫です!それだけ白銀さんが本気で転子のことを思ってくださってるということですよね。えっと、転子はか、可愛い…感じのメ、メイク…がしてみたいです。でも持ち合わせが…その、心もとないので。色々買うことは出来なくて」
「うんうん大丈夫。私に任せて!コスプレイヤーの真髄を見せてあげるよ!」
モジモジと胸の前で指を弄ぶ茶柱に、ドンと頼もしく胸を叩く白銀。
そのコミカルなやり取りに思わずクスリと笑みをこぼしながら、最原は赤松と夢野に振り返った。
「二人はどうする?」
「あ、私はさっき最原くんがオススメしてくれたスキンケアパウダーとアイシャドウを買ってくるよ!」
「えっ…その。自分で勧めておいてなんだけど、もっと色んな商品があるんだからもうちょっと吟味してからでも遅くないんじゃ」
「ううん、これがいいの。最原くんが『似合う』って見せてくれた時に、こう…ビビッと来たんだよね。だから私はこれにするよ」
次遊ぶときはこれでメイクしてみるね!
あっけらかんとそんなことを言いながらレジに向かっていく赤松。
茫然とその背中を見送りながら、最原は赤松が残した言葉を脳内で反芻し……頬が急激に熱くなるのを感じた。
「最原よ…顔が真っ赤じゃぞ。やはりおぬしは男子じゃな」
「言わないでよ…ますます意識しちゃうじゃないか」
「カッカッカ。ならば気を紛らわせるのを手伝ってやろう。おぬしは今からウチに似合いの品を探すのじゃ!」
「はいはい。ちなみにリクエストはある?」
「む…ウチもこういったことには疎いからの。めんどいわ、おぬしのオススメで良い」
「分かったよ。じゃあ一緒に商品見て回ろうか」
そんなささやかだが気の置けないやり取りの後、最原は夢野と並んでゆっくりと歩き出す。
今まで縁のなかったコスメに目を白黒させながらも興味深げに眺める夢野を見守る最原の目は優しく、その姿はさながら仲の良い姉妹のようだった。
その後も楽しい時間は続いた。
総合雑貨店から出た後は服屋を見て回り、気になるものがあれば試着室で試してみる。
時には茶柱を、夢野を、赤松をモデルにフルコーデしてはきゃあきゃあはしゃぎ、小遣いの範囲内で気になるものがあれば購入し。
あっという間に時間はすぎ、時刻は午後13時半。この時間であれば飲食店も多少空いてきた頃だろうと、4人は遅い昼食を摂ることにしたのだった。
アルパ3F、本日最後の目玉である水族館が入っているビルを目前にエスカレータで上ったそのすぐ先にあるカジュアルな雰囲気の洋食店。ゆっくりと座れる席でいつもより少々贅沢な昼食を楽しめるその店は最原たちの買い物で溜まった疲労を癒してくれた。あれが美味しそう、これも美味しそうだとそれぞれに口にしながら全員分のメニューを注文する。
一息ついたところではぁ、と冗談交じりにため息をつきながら白銀が零した。
「あー…買っちゃった買っちゃった」
「買っちゃったね」
最原も笑いながらそれに続く。
「え、最原くんも白銀さんも、そんなに買ってたっけ?」
赤松が首を傾げる。
ちなみにこの中で最も買っていたのは最初にコスメを買い、昼食前に家族にとフレーバーティの茶葉を購入していた赤松である。
購入した数こそ少ないものの今日のファッションに合う帽子を購入した夢野、
白銀の勧めでリップバームとワンピースを買った茶柱もすでにそこそこの出費をしている。
「私はねー、最初の雑貨屋で地味にフィギュアを2個買っちゃってるのだよ。その後最原くんにおだてられてガーリー系のトップスも買っちゃったから、結構な買い物しちゃってるんだよね」
「おだてられてって…嫌な言い方するなぁ。僕だって君におだてられて新色のティント買っちゃったんだからお相子だよ」
「プチプラブランドじゃない。そんなに大きな買い物じゃないでしょ」
「それはそうだけど。その後、これ」
白銀と憎まれ口を叩き合いながら総合雑貨店のショッパーから小さな包みを取り出す。その包みに印字されていたのは、その後入った服飾店のものだ。
包みを開封する。コロリと小さなクローバー型のピアスが出てきた。
「買っちゃったからさ。可愛くって、つい」
「分かる。見た瞬間、運命感じちゃうものってあるよね」
「本当にね。このピアス穴、両親からのプレゼントをつけるためだけに開けたものなのになぁ」
つんつん、と最原が自分の耳を指し示す。
そこには小さなブルートパーズのピアスが収まっていた。
両親からの入学祝いのプレゼント。本当は高校卒業まで大事にしまっておこうかと思っていたけど、校則で禁止されていなかったことを良いことに自分の殻を破る意味を込めて思い切って開けた穴。
このプレゼント以外をここに飾ることなんてないと思っていたのに。
「お洒落に夢中になってる皆の熱に、ちょっと当てられちゃった」
軽く笑って言うと、私も、私もだと赤松が、茶柱が競うように声を上げたのだった。
お腹いっぱいにご飯を食べた後は、途中で白銀の要望によりガチャガチャが目一杯に設置されているコーナーに立ち寄り。
キャラクターものはもちろんのこと、ゆるめの動物や食品・身の回りにあるもののミニチュアなんかを扱っているものもかなるの数あるのを見て意外に思ったりして。
それからいよいよ向かった水族館では、大きな水槽を悠々と泳ぐ色とりどりの熱帯魚を、統率だった動きで水槽内をくるくると移動する回遊魚たちを、ふわふわと水中を漂う淡く発光しているかのようなたくさんのクラゲたちをゆったりと眺めて癒しの時間を過ごした。
2階のカエルや爬虫類が集中しているゾーンは他の女子には大変不評だったが、その先に待っていたアザラシやペンギンたちは特に夢野や赤松たちに大変人気だった。最原もまた陸と水中両方からペンギンが生き生きと動き回る様に、思わず胸をときめかせたものだった。
「楽しかったねー」
「うん…すごく楽しかった。水族館もかなりしっかりした造りでビックリしたよ」
「ペンギンが可愛かったのじゃ」
「ペンギンを見る夢野さんもお可愛らしかったですよ」
「んあー…そういうのはいちいち言わんで良いわい。きしょいわ」
「あのビル、プラネタリウムもあるんでしょ?百田くんとかに教えてあげたら喜びそうだよね」
「そうだね。僕も、次はもっと他の展示なんかも見てみたいな」
長めに時間を取っていたはずの一日はあっという間に終わり、夕方。
赤松や夢野の熱烈な要望によりスタバで飲み物をテイクアウトし、喉を潤しながら口々に良かった、楽しかったと思いの丈を言い合いながら来た道を遡る。
そして池袋駅。改札を潜った直後、最原は赤松に声をかけた。
「赤松さん、今日はありがとう」
「えっ?」
何で突然礼を言われたのか分からず、キョトンとしている赤松。
「赤松さんが買い物に行こうって誘ってくれなかったら、今日皆とこうして遊ぶなんてきっと出来なかった。
今日は本当に楽しかったよ。赤松さんのことも、皆のことも、たくさん知ることが出来てよかった。
その…また。赤松さんさえよければ。また今度、こうして遊びに来れたら嬉しい」
「もちろんだよ!今度は他の皆も誘って来よ!」
口下手な最原なりの誠意を込めた言葉。
それに対して彼女はこんな風に、軽く言葉を返すのだ。
何でもないことのように、普通に。
それがたまらなく眩しく、嬉しい。
「うん。また」
電車がホームに到着する。赤松と最原は別々の電車だ。だから今日は、ここでお別れ。
車両に乗り込む寸前、赤松が大きく手を振って溌剌と言い放った。
「じゃあ、また来週!」
「うん。また…来週」
最原も控えめに手を振って、彼女の言葉を鸚鵡返しする。
その顔には目を潤ませた切なげな笑顔が浮かんでいた。