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蛍と蛍

マンションから程なく、繁華街があり
蛍が案内したのは地味な店構えの焼鳥屋だった

個室がちょうど空いたと座敷に通された
とりあえずビールと串盛りに、だし巻き卵、
揚げ出し豆腐、唐揚げと他にも
居酒屋の王道を頼んだ
酒でも入れば少し話す気にもなるだろうと
思った

「さて、けい…」
早速来たビールを持てと手渡し
「…2年間ささえてもらった。感謝してるよ
こんな形だが…出会いに乾杯だ」

少しはにかんだ顔で蛍は軽くジョッキを上げた

「ありがとう、雪…けいじゃなくてほたるがいい
俺も雪ってこれからも呼びたいから」
向かいに正座し顔を見せないように、横を向いて小声で言った

「なんでそのまま、ネカマで終わらせなかったんだ?不思議でしょうがない」
1番に来たイカの一夜干しを摘み一味マヨに
付けて口に入れた

「おかしいと思うだろ…でもどうしようもないくらい…雪が好きなんだ。今、この瞬間も
…初めてパーティ組んだ時から」
「男なのに、俺どうしたんだって何度も諦めようとしたんだ。でも、無理だった」
堰を切ったように話し始めた蛍は
涙をながしながら、時折声を詰まらせた

可愛い事を言うが疑問だらけだ

「俺の質問に先ずは答えろ」
こくりと頷くのを確認して聞いた

「引き篭もりのJKは、本当は幾つで仕事は?」

グッとビールを流し込んで意を決したように
顔を上げ
「歳は今年で26…学生の時は期待されて個展までやったが、売れない画家ってヤツだ。」
「俺より4つ上か…敬語使うか?」
今のままでいたいとそのままで居てくれと
懇願された

なるほど、だからあれだけ時間を作れたのか
納得して次の質問に移る
「で…なんで俺なんだ」
串揚げやら、だし巻き卵やら色々届き
蛍に取り分ける

「ありがとう…そんな所だよ、雪」

小皿に分けた焼き鳥を涙を浮かべながら
勢い良く食べだした

「いつもさり気ない優しさが、すごい素敵だと思ってた。
雪の気の使う程度が心地いいんだ
覚えてるか?
2人で初めてデートした時。俺守る事に必死で…。そこにも魅かれた
ほたるって呼ぶ声が何より好きだから…」

三本目の焼き鳥を平らげて
潤んだ目でこちらを見据えた

「実際、会ってみたら、ゲームの自キャラとそっくりだとか…
その上、あの部屋…素敵だし。医者になれるとか、もうチート級だ」

「…い、いや、俺が凄いんじゃない。
親の金だ。まだ、稼ぐことも出来てない。
ある意味蛍は自分で稼いでるんだ。尊敬する」

蛍の目から涙が溢れて
「雪…罵倒されても当然なのに、なんでそんな優しい言葉をくれるんだ」
俺は慌てて拭くものを探したが
見当たらずおしぼりを渡した

ありがとうと泣きながら受け取り
顔に当てた

こりゃ全部聞くには相当時間がかかりそうだ
先が思いやられる
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