Bite -the past-
*
世界が変わるのは、一瞬の出来事だった
「… わ、雨、」
「お、まじだ」
久々に2時間ほど残業をした帰り
真っ暗に染まった空から落ちてくる白い雫を見上げながら、私は溜息をついた、気がする
「結構降ってんなー
ま、でも望叶ちゃん車だからよくね?」
「まあ、そうだけど… 、」
一緒に残業をしていた悠太くんにはそう言われたけれど、正直、あまり気分は良くなかった
というのも、
今日は1日晴れ、という予報を信じて
新調したばかりのヒールを履いてきたからなのだけれど
「なー、傘持ってる?」
「あ、うん。折り畳みなら」
「悪いけど貸してくんない?俺駅まで歩きだからさ」
「誰かに迎えに来てもらえばいいのに」
「あいにくそういったお相手はいません」
「この間までいたのに」
「中本悠太は時と共に常に変化するからね」
「はいはい~。ちゃんと返してね」
「お、さんきゅ。
さすが望叶ちゃん、女子力の塊だねぇ」
「棒読みやめてよ。じゃ、また明日」
悠太くんに唯一の傘を渡して、
駅に向かって歩いていくその背中を見送って、またひとつ溜息を吐いてから、雨空の下を小走りで駐車場まで向かった
その短い移動で水溜りを踏んでしまって
新品のヒールには泥がついてしまったし
いくら帰り道とはいえ髪も服も濡れて
気分は悪いし、身体も重かった
今日は帰ってすぐ眠ってしまおう、
そう決めて
着いたアパートの駐車場から、濡れる覚悟でゆっくりとエントランスに向かう
つむじを濡らす雨粒を煩わしく思いながらも
近づいてきた暖色の灯りに息を吐いた瞬間
私の視界に、明らかに不自然な光景が映り込んだ
「… え、」
その奇妙な状況に
つむじに感じていた冷たさも
濡れた服が張り付く煩わしさも忘れて
私は思わず、足を止めた
エントランスのすぐ隣のごみ捨て場
無造作に置かれた黒いごみ袋の山
その中に紛れるように
ひとりの少年が、そこに座り込んでいた
.
世界が変わるのは、一瞬の出来事だった
「… わ、雨、」
「お、まじだ」
久々に2時間ほど残業をした帰り
真っ暗に染まった空から落ちてくる白い雫を見上げながら、私は溜息をついた、気がする
「結構降ってんなー
ま、でも望叶ちゃん車だからよくね?」
「まあ、そうだけど… 、」
一緒に残業をしていた悠太くんにはそう言われたけれど、正直、あまり気分は良くなかった
というのも、
今日は1日晴れ、という予報を信じて
新調したばかりのヒールを履いてきたからなのだけれど
「なー、傘持ってる?」
「あ、うん。折り畳みなら」
「悪いけど貸してくんない?俺駅まで歩きだからさ」
「誰かに迎えに来てもらえばいいのに」
「あいにくそういったお相手はいません」
「この間までいたのに」
「中本悠太は時と共に常に変化するからね」
「はいはい~。ちゃんと返してね」
「お、さんきゅ。
さすが望叶ちゃん、女子力の塊だねぇ」
「棒読みやめてよ。じゃ、また明日」
悠太くんに唯一の傘を渡して、
駅に向かって歩いていくその背中を見送って、またひとつ溜息を吐いてから、雨空の下を小走りで駐車場まで向かった
その短い移動で水溜りを踏んでしまって
新品のヒールには泥がついてしまったし
いくら帰り道とはいえ髪も服も濡れて
気分は悪いし、身体も重かった
今日は帰ってすぐ眠ってしまおう、
そう決めて
着いたアパートの駐車場から、濡れる覚悟でゆっくりとエントランスに向かう
つむじを濡らす雨粒を煩わしく思いながらも
近づいてきた暖色の灯りに息を吐いた瞬間
私の視界に、明らかに不自然な光景が映り込んだ
「… え、」
その奇妙な状況に
つむじに感じていた冷たさも
濡れた服が張り付く煩わしさも忘れて
私は思わず、足を止めた
エントランスのすぐ隣のごみ捨て場
無造作に置かれた黒いごみ袋の山
その中に紛れるように
ひとりの少年が、そこに座り込んでいた
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