このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

Bite -the past-








世界が変わるのは、一瞬の出来事だった









「… わ、雨、」

「お、まじだ」




久々に2時間ほど残業をした帰り

真っ暗に染まった空から落ちてくる白い雫を見上げながら、私は溜息をついた、気がする




「結構降ってんなー
ま、でも望叶ちゃん車だからよくね?」

「まあ、そうだけど… 、」




一緒に残業をしていた悠太くんにはそう言われたけれど、正直、あまり気分は良くなかった



というのも、

今日は1日晴れ、という予報を信じて

新調したばかりのヒールを履いてきたからなのだけれど




「なー、傘持ってる?」

「あ、うん。折り畳みなら」

「悪いけど貸してくんない?俺駅まで歩きだからさ」

「誰かに迎えに来てもらえばいいのに」

「あいにくそういったお相手はいません」

「この間までいたのに」

「中本悠太は時と共に常に変化するからね」

「はいはい~。ちゃんと返してね」

「お、さんきゅ。
さすが望叶ちゃん、女子力の塊だねぇ」

「棒読みやめてよ。じゃ、また明日」





悠太くんに唯一の傘を渡して、

駅に向かって歩いていくその背中を見送って、またひとつ溜息を吐いてから、雨空の下を小走りで駐車場まで向かった




その短い移動で水溜りを踏んでしまって
新品のヒールには泥がついてしまったし

いくら帰り道とはいえ髪も服も濡れて

気分は悪いし、身体も重かった





今日は帰ってすぐ眠ってしまおう、

そう決めて

着いたアパートの駐車場から、濡れる覚悟でゆっくりとエントランスに向かう





つむじを濡らす雨粒を煩わしく思いながらも

近づいてきた暖色の灯りに息を吐いた瞬間






私の視界に、明らかに不自然な光景が映り込んだ









「… え、」









その奇妙な状況に

つむじに感じていた冷たさも
濡れた服が張り付く煩わしさも忘れて


私は思わず、足を止めた








エントランスのすぐ隣のごみ捨て場









無造作に置かれた黒いごみ袋の山

その中に紛れるように

ひとりの少年が、そこに座り込んでいた









.
1/5ページ