Bite -prologue-
*
手を伸ばせば、
もしかしたら知ることも出来るのかもしれない
… ただ私が、
手を伸ばす、ということをしないだけで
----------
翌朝、目を覚ますと
私の隣で眠っていたはずの彼の姿は、もうそこにはなかった
抜け殻のように
ぽっかりと空白だけを残す白いシーツ
… これも、
別に、今に始まったことではない
私の目がないところで
彼が何をしているかまでは分からないけれど
彼は、ずっとこの家に引きこもっているわけではない
その証拠に、今日のように
時折ひとりでどこかに出かけて
夜にまた帰って来たりもする
『どこに行ってたの?』なんて
そんな質問はしない
… 尋ねたところで、
どうせ答えてくれないだろうし
そもそも
彼を束縛するつもりも
そんな権利も義理も
私には、ないから
… それでも
『気にならない』と言えば
それは嘘になると思う
わずか数ヶ月とは言え、
同じ空間で呼吸をして
愛が介在していないとは言え、
幾度か肌を重ねて
何も知らないながらに、
彼を近くで見つめてきたのだから
……… けれど
これからも私は
彼の過去や心の内に踏み込もうとは思わない
… いや、むしろ
"踏み込めない"と言った方が、正しいかもしれない
初めて出逢ったその瞬間から
彼は儚く朧げでありながら、
同時に何も寄せ付けない、顕著な威圧感を放っていて
その排他的な雰囲気に飲み込まれた私には
彼に手を伸ばすことなんて、出来なかった
…… そして、今も
.
寝室を出てリビングに入り、
昨日閉ざしたカーテンを開けば
窓に反射する世界では、また雨が降っていた
昨日彼がしていたように
その窓につく水滴を掬うように、指を這わせる
指先に触れる冷たさに
麻痺していく感覚
そのままふと目を閉じれば
自然と、"あの日"のことを思い出した
私の世界の半分が色を変えた、
数ヶ月前の、あの雨の日のことを
.
手を伸ばせば、
もしかしたら知ることも出来るのかもしれない
… ただ私が、
手を伸ばす、ということをしないだけで
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翌朝、目を覚ますと
私の隣で眠っていたはずの彼の姿は、もうそこにはなかった
抜け殻のように
ぽっかりと空白だけを残す白いシーツ
… これも、
別に、今に始まったことではない
私の目がないところで
彼が何をしているかまでは分からないけれど
彼は、ずっとこの家に引きこもっているわけではない
その証拠に、今日のように
時折ひとりでどこかに出かけて
夜にまた帰って来たりもする
『どこに行ってたの?』なんて
そんな質問はしない
… 尋ねたところで、
どうせ答えてくれないだろうし
そもそも
彼を束縛するつもりも
そんな権利も義理も
私には、ないから
… それでも
『気にならない』と言えば
それは嘘になると思う
わずか数ヶ月とは言え、
同じ空間で呼吸をして
愛が介在していないとは言え、
幾度か肌を重ねて
何も知らないながらに、
彼を近くで見つめてきたのだから
……… けれど
これからも私は
彼の過去や心の内に踏み込もうとは思わない
… いや、むしろ
"踏み込めない"と言った方が、正しいかもしれない
初めて出逢ったその瞬間から
彼は儚く朧げでありながら、
同時に何も寄せ付けない、顕著な威圧感を放っていて
その排他的な雰囲気に飲み込まれた私には
彼に手を伸ばすことなんて、出来なかった
…… そして、今も
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寝室を出てリビングに入り、
昨日閉ざしたカーテンを開けば
窓に反射する世界では、また雨が降っていた
昨日彼がしていたように
その窓につく水滴を掬うように、指を這わせる
指先に触れる冷たさに
麻痺していく感覚
そのままふと目を閉じれば
自然と、"あの日"のことを思い出した
私の世界の半分が色を変えた、
数ヶ月前の、あの雨の日のことを
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