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Bite -3years later-









重い扉を開き、廊下に出て

辺りを見回しながら、当てもなく歩き出す






先ほどと同じ焦燥感からか、

自然と足取りは速くなり

久々に履く踵の高いヒールの鳴らす音が、徐々に間隔を狭めていく






階段を登って

角を曲がって

出口まで見るけれど






その姿は、見つからない









… 一体、どこ?

どこにいるの、









「サクヤ… 、」









ふと、小さな声で

彼の名前を呟いた、その瞬間









ぱっと私の手を掴んだ、少し冷たい掌









突然の感覚に、驚いて振り返ろうとすれば

私がそちらに視線を向ける間もなく、

そのままその腕をぐいっと後ろに引かれる







「わっ… 、」







その強い引力のせいで

高いヒールが縺れ、バランスを崩して








重力に抵抗し切れず、よろける私の身体は




その次の瞬間には




仄かに熱を帯びた、
大きな身体に包まれていた








.








顔を押し当てた黒いスーツからする、

あまり嗅ぎ慣れない、香水の匂い








抱きしめられているせいで

顔を確かめることは出来ない









… なのに、









その胸から伝わる、少し速まった鼓動


髪を梳く、わずかな指の感覚


私の服をきつく握りしめる、その掌の力









ただ、それだけで

身体はその熱を憶えていたかのように、その存在を受け入れていく









首元にかかる、吐き出された熱い吐息





耳の掠めたその息と共に、

あの赤い唇から零れた声に






またぎゅっと、
胸が苦しくなった








.









「望叶………… 、」









.
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