Bite -prologue-
*
そんな彼のことを
私はまだ、何も知らない
「はい、出来たよ。
熱いから気を付けてね」
カタン、
彼の前にお皿を置いて、向かい合って座る
じっと皿の中を見つめていた彼は
おもむろに手を合わせてから、
私の忠告通り、ふぅ、と息を吐きかけて
熱を逃がしながら、ゆっくり食べ始めた
黙々と箸を進めるその様子を見ながら
私も夕食に手を付ける
… こうして一緒に食事をとったり
ソファで並んでテレビを見たり
そういう何気ない瞬間には、
彼は至って普通の男の子だ
私が出した料理は、『おいしい』とは言ってくれないにしても、ちゃんと残さず全て食べてくれるし
携帯は持っていないようだけれど、
テレビも見るし、私の家にある雑誌やマンガを勝手に読んでいることもある
そういうところだけを見れば
彼は"ただの無口な少年"なのだけれど
… 私が違和感を覚えるのはきっと
彼が決して
自分のことを語ろうとしないからだろう
.
「… サクヤ、」
呼びかければ、
ソファに座っていた彼が、私の方を向く
「先にお風呂入って。私片付けするから」
「… うん、」
そう返事をして立ち上がり、
とぼとぼと脱衣所に入っていく
…… 彼と出逢って、数ヶ月
この期間で私が得た彼の情報は、
"サクヤ"という名前
ただ、それだけ
彼の年齢も、
学生なのか、社会人なのか
家がどこにあるのか
もしくはないのか
どうして自分のことを話そうとしないのか
… どうしてあの日、
あんなところにいたのか
そんなことまで、何も
私は、何も、知らない
…… そう、何も
私は彼の過去も
今のことでさえ
全て知っているようで、
何もかも、知らないのだ
.
そんな彼のことを
私はまだ、何も知らない
「はい、出来たよ。
熱いから気を付けてね」
カタン、
彼の前にお皿を置いて、向かい合って座る
じっと皿の中を見つめていた彼は
おもむろに手を合わせてから、
私の忠告通り、ふぅ、と息を吐きかけて
熱を逃がしながら、ゆっくり食べ始めた
黙々と箸を進めるその様子を見ながら
私も夕食に手を付ける
… こうして一緒に食事をとったり
ソファで並んでテレビを見たり
そういう何気ない瞬間には、
彼は至って普通の男の子だ
私が出した料理は、『おいしい』とは言ってくれないにしても、ちゃんと残さず全て食べてくれるし
携帯は持っていないようだけれど、
テレビも見るし、私の家にある雑誌やマンガを勝手に読んでいることもある
そういうところだけを見れば
彼は"ただの無口な少年"なのだけれど
… 私が違和感を覚えるのはきっと
彼が決して
自分のことを語ろうとしないからだろう
.
「… サクヤ、」
呼びかければ、
ソファに座っていた彼が、私の方を向く
「先にお風呂入って。私片付けするから」
「… うん、」
そう返事をして立ち上がり、
とぼとぼと脱衣所に入っていく
…… 彼と出逢って、数ヶ月
この期間で私が得た彼の情報は、
"サクヤ"という名前
ただ、それだけ
彼の年齢も、
学生なのか、社会人なのか
家がどこにあるのか
もしくはないのか
どうして自分のことを話そうとしないのか
… どうしてあの日、
あんなところにいたのか
そんなことまで、何も
私は、何も、知らない
…… そう、何も
私は彼の過去も
今のことでさえ
全て知っているようで、
何もかも、知らないのだ
.