Bite -change-
*
「ねーちゃん、
おれの服ってまだある?」
スーツの上着をハンガーにかけつつ、
私の背中に、リョウが声をかける
「あ、うん。奥のクローゼットに入ってるから、勝手に出して」
「はーい」
パタパタ、寝室に消えていくその足音を背中で聞きながら、ぼんやりソファに体を預けていると
「… ねえ、これ」
「ん?」
もう着替えを取ってきたのだろうか、
ソファの背もたれに手をついた弟が、ひょいと私の顔を後ろから覗き込んだ
少し体をひねると、
彼の手に、
何かが握られていることに気付く
… 何?
「なんかクローゼットの隅に落ちてたんだけど… 、これ、ねーちゃんの?」
ぱっと差し出されたその手の中にあるのは
薄汚れた、四つ折りになった紙
かなり古いもののようにも見えるのに
折り目がやけにしっかりしていて、破れてもいない
… 何だろう、
全くと言っていいほど
見覚えも、心当たりもないけれど
ひとまず、リョウの手からそれを受け取る
小さく折られたその紙に触れると
一度水に濡れて乾いたのか、
所々にシミが出来、異様に水分が抜けていることが分かった
壊さないように、ゆっくりと
そっと、その紙を開くと
そこには、
万年筆のようなもので書かれた文字と、
走り書きの数字の羅列があった
「… 何これ、暗号?」
いつの間にか私の手元を覗き込んでいたリョウが、怪訝そうに呟く
水で滲んでしまっている、そのインク
そのせいで、上の言葉は読み取れないけれど
下に書いてある11個の数字は、何とか読むことが出来た
…… 11桁、
…………… 電話番号?
「… ねーちゃんの?」
「…… や、違う、けど… 」
… リョウにそう返事をしながら、
頭にふと浮かんだのは、あの日
ずぶ濡れでごみ捨て場に座り込んでいた、少年の影
そのインクを滲ませる水滴の跡と
あの艶めく黒髪を滴る雨粒が、瞼の裏で交錯する
… これは、
一体、何?
.
「ねーちゃん、
おれの服ってまだある?」
スーツの上着をハンガーにかけつつ、
私の背中に、リョウが声をかける
「あ、うん。奥のクローゼットに入ってるから、勝手に出して」
「はーい」
パタパタ、寝室に消えていくその足音を背中で聞きながら、ぼんやりソファに体を預けていると
「… ねえ、これ」
「ん?」
もう着替えを取ってきたのだろうか、
ソファの背もたれに手をついた弟が、ひょいと私の顔を後ろから覗き込んだ
少し体をひねると、
彼の手に、
何かが握られていることに気付く
… 何?
「なんかクローゼットの隅に落ちてたんだけど… 、これ、ねーちゃんの?」
ぱっと差し出されたその手の中にあるのは
薄汚れた、四つ折りになった紙
かなり古いもののようにも見えるのに
折り目がやけにしっかりしていて、破れてもいない
… 何だろう、
全くと言っていいほど
見覚えも、心当たりもないけれど
ひとまず、リョウの手からそれを受け取る
小さく折られたその紙に触れると
一度水に濡れて乾いたのか、
所々にシミが出来、異様に水分が抜けていることが分かった
壊さないように、ゆっくりと
そっと、その紙を開くと
そこには、
万年筆のようなもので書かれた文字と、
走り書きの数字の羅列があった
「… 何これ、暗号?」
いつの間にか私の手元を覗き込んでいたリョウが、怪訝そうに呟く
水で滲んでしまっている、そのインク
そのせいで、上の言葉は読み取れないけれど
下に書いてある11個の数字は、何とか読むことが出来た
…… 11桁、
…………… 電話番号?
「… ねーちゃんの?」
「…… や、違う、けど… 」
… リョウにそう返事をしながら、
頭にふと浮かんだのは、あの日
ずぶ濡れでごみ捨て場に座り込んでいた、少年の影
そのインクを滲ませる水滴の跡と
あの艶めく黒髪を滴る雨粒が、瞼の裏で交錯する
… これは、
一体、何?
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