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Bite -change-









「ねーちゃん、
おれの服ってまだある?」




スーツの上着をハンガーにかけつつ、

私の背中に、リョウが声をかける




「あ、うん。奥のクローゼットに入ってるから、勝手に出して」

「はーい」




パタパタ、寝室に消えていくその足音を背中で聞きながら、ぼんやりソファに体を預けていると







「… ねえ、これ」

「ん?」






もう着替えを取ってきたのだろうか、

ソファの背もたれに手をついた弟が、ひょいと私の顔を後ろから覗き込んだ






少し体をひねると、

彼の手に、

何かが握られていることに気付く







… 何?








「なんかクローゼットの隅に落ちてたんだけど… 、これ、ねーちゃんの?」







ぱっと差し出されたその手の中にあるのは

薄汚れた、四つ折りになった紙






かなり古いもののようにも見えるのに

折り目がやけにしっかりしていて、破れてもいない







… 何だろう、







全くと言っていいほど
見覚えも、心当たりもないけれど

ひとまず、リョウの手からそれを受け取る








小さく折られたその紙に触れると

一度水に濡れて乾いたのか、

所々にシミが出来、異様に水分が抜けていることが分かった







壊さないように、ゆっくりと

そっと、その紙を開くと







そこには、

万年筆のようなもので書かれた文字と、

走り書きの数字の羅列があった









「… 何これ、暗号?」









いつの間にか私の手元を覗き込んでいたリョウが、怪訝そうに呟く







水で滲んでしまっている、そのインク

そのせいで、上の言葉は読み取れないけれど

下に書いてある11個の数字は、何とか読むことが出来た








…… 11桁、

…………… 電話番号?









「… ねーちゃんの?」

「…… や、違う、けど… 」









… リョウにそう返事をしながら、

頭にふと浮かんだのは、あの日









ずぶ濡れでごみ捨て場に座り込んでいた、少年の影









そのインクを滲ませる水滴の跡と

あの艶めく黒髪を滴る雨粒が、瞼の裏で交錯する









… これは、

一体、何?







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