このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

Bite -change-

.





はぁ、とまた息を吐きながらネクタイを緩める彼を、ぼんやり見つめていると




「… そういえば、ねーちゃんは?」

「え?」

「ねーちゃんは、最近、どう?」





リョウはそう言って、

少し、首を傾げた









… 何気ない、その言葉に


ふと蘇ったのは


あの懐かしい香水の匂いと

私の手首を掴んだ、わずかな熱









耳の奥で響くのは

聞き慣れた、低く落ち着いた声









『… もう一回、やり直さない?』









… あの時、
その言葉に固まってしまった私に


リクは私の手を放して、少し俯いた






『… ごめん、驚いたよな』

『あ、いや… 別に… 』

『いいよ。顔が驚いてるから、分かる』




そう言って、ふふ、と微笑んで

でも、と、また、真っ直ぐ私を見つめた




『冗談じゃないから。

俺は本気で望叶とやり直したいって思ってる』




『急かすつもりはないよ。返事はいつでもいい』




『… じゃあ、またね』









… 最後に、そう言って

私の頭を優しく撫でて、帰って行った彼





目の前の現実が、うまく消化できなくて

私はその後も、

その背中が見えなくなるまで、
その場に立ち尽くしていたのだった









.









「… ねーちゃん?」



… その呼びかけで、ふと思考が途切れる


顔を上げれば、

私の顔を覗き込みながら、
弟は少し心配そうな表情を浮かべていた



「ああ… 、

…… 別に、特に何もないよ」



誤魔化すように、そう言うと



「… そっか、」



何かを察したのだろうか、

リョウはそれ以上、私に何も聞かず
また、グラスの水に口をつけた







… リクと会ってから、1週間






それだけの時間が流れたはずなのに

私の心情は、何も変わっていなかった





… リクが好きかと聞かれれば、

きっと、迷うことなく頷くだろう







けれど







やはり、

何かが、私の行動を抑制して
その何かが、私の思考を引き止める









過去と現在を切り裂く、その存在に

私はまだ、

蝕まれたままなのだ








.
8/19ページ