Bite -change-
*
彼と待ち合わせたのは
この間と同じ、駅の改札の前だった
「お、来た」
私がその場に着けば
当たり前のように、彼は既にそこに居て
この間と同じセリフを呟いて、穏やかに微笑んだ
「よし行こ」
そう言って、また
ごく自然に、私の隣を歩き出す
… この前と、違うこと、と言えば
彼が身に纏うのが、
仕事用のスーツではないこと
そして、今が
空気が澄むほど晴れ渡った、
休日の昼間だということ
.
『日曜、とかでもいい?』
彼に電話をかけた、あの日
縋るように手を伸ばした私を、拒むことなく
彼はそう言って
また、私を包み込んでくれた
… もしかしたら、
私は始めから、それを期待していたのかもしれないけれど
それでも、
その真綿のような優しさに
少し、気が楽になったのだった
「行きたいところある?」
「んー… 、いや、特にないかな」
「そう?じゃあ、俺の買い物してい?」
「うん、いいよ」
… 休日に外に出るのは、久々だった
元々、外出が好きなわけではないけれど
"彼"と暮らすようになってからは、尚更
必要最低限以外、
家を空けることは、ほとんどなかった
あの空間を抜け出した、外の世界は
なんだか… 妙に、眩しくて
同じひとつの世界なのに
まるで、違う次元にいるような
… そんな、妙な気分になった
「… どこ行くの?」
「あー、んー、どこだろ。ドアノブってどこに売ってるかな」
「ドアノブ?」
「そー、この前触ったら折れてさ、そんな力入れてないのに。おかしくない?」
「… ふふ。リクっぽい」
「それ悪口だから」
そう言って、こつん、と軽く私の肩を叩いて、微笑む彼
右耳に流れ込む、その落ち着いた低い声と
時折触れるだけの、そのわずかな熱
たった、それだけで
あの空間で感じていた息苦しさが、わずかに和らぐ
その穏やかな時間は
しばらく私の心に空いたままだった隙間を、少しだけ埋めてくれたのだった
.
彼と待ち合わせたのは
この間と同じ、駅の改札の前だった
「お、来た」
私がその場に着けば
当たり前のように、彼は既にそこに居て
この間と同じセリフを呟いて、穏やかに微笑んだ
「よし行こ」
そう言って、また
ごく自然に、私の隣を歩き出す
… この前と、違うこと、と言えば
彼が身に纏うのが、
仕事用のスーツではないこと
そして、今が
空気が澄むほど晴れ渡った、
休日の昼間だということ
.
『日曜、とかでもいい?』
彼に電話をかけた、あの日
縋るように手を伸ばした私を、拒むことなく
彼はそう言って
また、私を包み込んでくれた
… もしかしたら、
私は始めから、それを期待していたのかもしれないけれど
それでも、
その真綿のような優しさに
少し、気が楽になったのだった
「行きたいところある?」
「んー… 、いや、特にないかな」
「そう?じゃあ、俺の買い物してい?」
「うん、いいよ」
… 休日に外に出るのは、久々だった
元々、外出が好きなわけではないけれど
"彼"と暮らすようになってからは、尚更
必要最低限以外、
家を空けることは、ほとんどなかった
あの空間を抜け出した、外の世界は
なんだか… 妙に、眩しくて
同じひとつの世界なのに
まるで、違う次元にいるような
… そんな、妙な気分になった
「… どこ行くの?」
「あー、んー、どこだろ。ドアノブってどこに売ってるかな」
「ドアノブ?」
「そー、この前触ったら折れてさ、そんな力入れてないのに。おかしくない?」
「… ふふ。リクっぽい」
「それ悪口だから」
そう言って、こつん、と軽く私の肩を叩いて、微笑む彼
右耳に流れ込む、その落ち着いた低い声と
時折触れるだけの、そのわずかな熱
たった、それだけで
あの空間で感じていた息苦しさが、わずかに和らぐ
その穏やかな時間は
しばらく私の心に空いたままだった隙間を、少しだけ埋めてくれたのだった
.