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Bite -change-









彼と待ち合わせたのは

この間と同じ、駅の改札の前だった





「お、来た」





私がその場に着けば

当たり前のように、彼は既にそこに居て


この間と同じセリフを呟いて、穏やかに微笑んだ





「よし行こ」





そう言って、また
ごく自然に、私の隣を歩き出す




… この前と、違うこと、と言えば





彼が身に纏うのが、
仕事用のスーツではないこと



そして、今が



空気が澄むほど晴れ渡った、
休日の昼間だということ







.






『日曜、とかでもいい?』





彼に電話をかけた、あの日


縋るように手を伸ばした私を、拒むことなく


彼はそう言って
また、私を包み込んでくれた






… もしかしたら、

私は始めから、それを期待していたのかもしれないけれど






それでも、
その真綿のような優しさに

少し、気が楽になったのだった









「行きたいところある?」

「んー… 、いや、特にないかな」

「そう?じゃあ、俺の買い物してい?」

「うん、いいよ」






… 休日に外に出るのは、久々だった




元々、外出が好きなわけではないけれど

"彼"と暮らすようになってからは、尚更

必要最低限以外、
家を空けることは、ほとんどなかった






あの空間を抜け出した、外の世界は

なんだか… 妙に、眩しくて






同じひとつの世界なのに

まるで、違う次元にいるような






… そんな、妙な気分になった








「… どこ行くの?」

「あー、んー、どこだろ。ドアノブってどこに売ってるかな」

「ドアノブ?」

「そー、この前触ったら折れてさ、そんな力入れてないのに。おかしくない?」

「… ふふ。リクっぽい」

「それ悪口だから」






そう言って、こつん、と軽く私の肩を叩いて、微笑む彼





右耳に流れ込む、その落ち着いた低い声と

時折触れるだけの、そのわずかな熱







たった、それだけで

あの空間で感じていた息苦しさが、わずかに和らぐ







その穏やかな時間は

しばらく私の心に空いたままだった隙間を、少しだけ埋めてくれたのだった








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