Bite -change-
*
『… もしもし?』
耳に押し当てた携帯から響く、その声に
それまで張り詰めていた糸が、
一瞬、ふっと、緩むような気がした
… "彼"に電話を掛けるのは、ひどく久々だった
きっと、あの時から考えても
私から連絡を取るのは、珍しいことで
それを読み取ってか、
電話越しの彼はすぐ、どうした?と静かに尋ねた
「… 今、大丈夫?」
『うん、俺は平気だけど、
… なんかあった?』
「や… 、べつに、何もないんだけど」
そう言っても、
彼の吐き出す息の中にはまだ、
"心配"の色が滲んでいるように感じた
.
… 彼がこの部屋を出てから
一体、どれくらい経ったのだろう
正確にはわからないけれど
確かに、その日から
この部屋の空気と共に
私の半分の時間は、
色を失って、その動きを止めた
一人で漂う、この部屋は
未だ、彼の体温のような、生温さが残っていて
その妙な熱は、私の喉を締め付け
瞼の裏に、否応なしに彼の姿を浮かび上がらせる
その息苦しさと、痛みに
私は思わず
助けを求めるように
『外の世界』へ、手を伸ばしたのだった
.
「なんとなく、
… リクと、話したくなって」
簡潔に、そう言えば
『そっか、』
とだけ呟いて、
リクはわずかに微笑んだ
.
"…… 望叶、"
… あの日、
彼が最後に呼んだ、私の名前
その縋るような声を思い出す度に
少し、胸が苦しくなる
… その理由は、分からないけれど
けれど
ひとつ、分かるのは
私の脳は、この数ヶ月間で
何気ない思考までも、すべて
彼に、染色されてしまっていて
その、深く皮膚に突き刺さり、
私に浸透した、彼の影に
私が出来るのは
「………… リク」
『ん?』
ただ、それを掻き消すように
「……… 今度、会えない?」
"新たな色"を、
その上から、重ねることだけだった
·
『… もしもし?』
耳に押し当てた携帯から響く、その声に
それまで張り詰めていた糸が、
一瞬、ふっと、緩むような気がした
… "彼"に電話を掛けるのは、ひどく久々だった
きっと、あの時から考えても
私から連絡を取るのは、珍しいことで
それを読み取ってか、
電話越しの彼はすぐ、どうした?と静かに尋ねた
「… 今、大丈夫?」
『うん、俺は平気だけど、
… なんかあった?』
「や… 、べつに、何もないんだけど」
そう言っても、
彼の吐き出す息の中にはまだ、
"心配"の色が滲んでいるように感じた
.
… 彼がこの部屋を出てから
一体、どれくらい経ったのだろう
正確にはわからないけれど
確かに、その日から
この部屋の空気と共に
私の半分の時間は、
色を失って、その動きを止めた
一人で漂う、この部屋は
未だ、彼の体温のような、生温さが残っていて
その妙な熱は、私の喉を締め付け
瞼の裏に、否応なしに彼の姿を浮かび上がらせる
その息苦しさと、痛みに
私は思わず
助けを求めるように
『外の世界』へ、手を伸ばしたのだった
.
「なんとなく、
… リクと、話したくなって」
簡潔に、そう言えば
『そっか、』
とだけ呟いて、
リクはわずかに微笑んだ
.
"…… 望叶、"
… あの日、
彼が最後に呼んだ、私の名前
その縋るような声を思い出す度に
少し、胸が苦しくなる
… その理由は、分からないけれど
けれど
ひとつ、分かるのは
私の脳は、この数ヶ月間で
何気ない思考までも、すべて
彼に、染色されてしまっていて
その、深く皮膚に突き刺さり、
私に浸透した、彼の影に
私が出来るのは
「………… リク」
『ん?』
ただ、それを掻き消すように
「……… 今度、会えない?」
"新たな色"を、
その上から、重ねることだけだった
·