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Bite -change-









『… もしもし?』




耳に押し当てた携帯から響く、その声に

それまで張り詰めていた糸が、
一瞬、ふっと、緩むような気がした







… "彼"に電話を掛けるのは、ひどく久々だった







きっと、あの時から考えても

私から連絡を取るのは、珍しいことで




それを読み取ってか、

電話越しの彼はすぐ、どうした?と静かに尋ねた





「… 今、大丈夫?」

『うん、俺は平気だけど、
… なんかあった?』

「や… 、べつに、何もないんだけど」






そう言っても、

彼の吐き出す息の中にはまだ、

"心配"の色が滲んでいるように感じた









.








… 彼がこの部屋を出てから

一体、どれくらい経ったのだろう






正確にはわからないけれど

確かに、その日から






この部屋の空気と共に

私の半分の時間は、

色を失って、その動きを止めた






一人で漂う、この部屋は

未だ、彼の体温のような、生温さが残っていて







その妙な熱は、私の喉を締め付け

瞼の裏に、否応なしに彼の姿を浮かび上がらせる







その息苦しさと、痛みに

私は思わず
助けを求めるように



『外の世界』へ、手を伸ばしたのだった








.








「なんとなく、

… リクと、話したくなって」



簡潔に、そう言えば



『そっか、』



とだけ呟いて、
リクはわずかに微笑んだ







.





"…… 望叶、"






… あの日、

彼が最後に呼んだ、私の名前






その縋るような声を思い出す度に

少し、胸が苦しくなる







… その理由は、分からないけれど







けれど
ひとつ、分かるのは







私の脳は、この数ヶ月間で

何気ない思考までも、すべて

彼に、染色されてしまっていて







その、深く皮膚に突き刺さり、
私に浸透した、彼の影に








私が出来るのは









「………… リク」

『ん?』









ただ、それを掻き消すように











「……… 今度、会えない?」










"新たな色"を、

その上から、重ねることだけだった








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