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Bite -memory-

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乱れた呼吸と、いまだ震える身体





それらを抑えたい気持ちとは裏腹に

自分の腕を掴んでも、
一向に震えは収まらなかった






そんな私に、

彼は一瞬、私の足元に目を落としてから

またふと、顔を上げる







そして、

すっと、
私の方に、手を伸ばした









「…… 望叶、」









その、微かな呼びかけと共に

彼の指先が、私の髪に触れた途端


反射的に、身体がびくっと反応する








それはまるで

彼の存在を、拒絶するかのように









「………………… 、」









そんな私の行動に

彼は何も言わず、俯いて

ゆっくり、その手を下げた





それから、一度だけ
きゅっと下唇を噛むと


私から目を逸らしたまま、背を向けて


乱雑にスニーカーに足を入れて

そのまま、扉の向こうに消えて行った









バタン、



玄関の扉が閉まって、彼の姿が見えなくなった瞬間、身体中から力が抜けて、その場に座り込む








冷えたフローリングに、肌が擦れるのも

割れた陶器の破片が、皮膚に刺さるのも



何もかも、どうでもよかった








ただ、今は







彼に噛みつかれて、熱を持った肩と

傷付いた唇が、焦げるように痛む感覚








そして


初めて感じた、

彼に対する、"恐怖"









それらに、五感すべてを、支配されていて









身体の震えが止まるまで

その場から動くことが、出来なかった









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