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Bite -memory-

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その声を聞いてしまった私には

彼を拒むことは、出来なくて




微かに揺れる、その真っ暗な闇




光を排斥したそこに存在する、

"孤独に対する恐怖"







孤独に怯える彼を

ただ、その恐怖から抜け出したい彼を






押し返すことなんて

私には、出来なかった







私が何か言葉を発するよりも先に

彼は私の服を引っ張り、
露出した肩に、顔を寄せる







その髪からいまだ滴る雨粒が、私の皮膚を濡らすのとほぼ同時に

彼の唇が触れ、柔く歯を立てられる







… そこまでは、いつも通り







その行為は、これまでと同じ
心の傷を癒す"麻酔"だった








… けれど









「っ… いっ……… 」






何度も噛みつくうちに、

徐々に深く、
私の皮膚に刺さっていくその刃






痛み自体は、さほど強くはなかった







けれど


明らかに、いつもとは違う行為に

心の中で
彼への『疑念』と、『恐怖』が渦巻く









それは

"孤独"以外の何かを埋めるように









… まるで

何か対する、"怒り"を表現しているかのように









「さくっ…… 痛い…!」









彼の肩を押して、そう呟いても

彼はまた、そこに口付けてから
ぎゅっと、きつく歯を突き立てる






「…… や… っ!」







痛みを増す噛み跡と、

段々と力のこもる彼の掌に

自然と、身体が小刻みに震える









… その時、

初めて、感じた









彼が、







サクヤが、


『 怖い 』と









「やだ…… も、やめて…… っ」









震える手には、うまく力が入らず

弱々しく、彼の肩を叩けば

彼は何かを察してか、私から身体を離す








でも

彼が離れても
私の身体の震えは、止まらなくて







思わず、彼から距離を取るように後ずされば

床に散らばっていた陶器の破片が、私の素足をかすめた









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