.







徐々に広がる苦味と熱に

ぐっと顔を歪めれば

彼は唇を離して、私の顔を覗き込む









「………… いたい？」









いつもと同じ

感情を排除した、漆黒の瞳で

彼は私をじっと見つめる





「痛いよ… っ」






じわり、

切り裂かれた唇に広がる痛みと熱に耐えながら答えれば








「…………………… 、」









彼はその瞳を私の唇に移して、
少し首を傾げた








それからまた、ゆっくりと顔を近付けて







まるで溢れ出た血を掬うように

ねっとりと、私の唇に舌を這わせる







ゆっくりと、そして何度も

その切り傷の上を往復させて




自らの口の端についた血も、その舌先で絡め取る





そしてまた、ふと私から顔を離せば

私の服の袖を、ぎゅっと握りしめて


彼は、呟いた









「望叶

… 噛みたい」









… 空気を揺らした、その声は




今すぐにでも、崩れてしまいそうなほど

何かの拍子で、壊れてしまいそうなほど




あまりにも、脆い声だった









そんな彼の言葉に何も返せずにいると

その瞳とまた、視線が絡んで








暗闇と情熱の入り混じったような

そんな複雑な黒い鏡に、私が反射する









そのじっとりとした瞳で、私を捉えたまま

また、深紅の唇が、薄く開いた









.









「…… 噛ませて、」









.