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Bite -memory-

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「さ、く、… っ?」







いまだ私に噛みつく、彼の名前を呼んで

しがみつくように、その湿った肩に手を置けば




その刃は、ふと私を放し

彼は少しだけ、私から身体を離した





そして、








「………… あれ、だれ?」








そう、小さく呟いた









「……… え?」









反射的に、その言葉を聴き返せば

彼はまた、あの虚ろな漆黒の瞳に、私を映して









「…… だれと、いたの?」









静かに、そう尋ねた






「……… なんで?」







… 何が正解なのか、わからなかった


与えられた、その一瞬だけでは

どう答えるのが彼の欲を満たすのか
一体、何が彼が求める答えなのか

私には、わからなくて





咄嗟にそんな問いかけを返せば







私を反射する、その闇のような瞳に

一瞬だけ、

"怒り"のような色が滲む








初めて見る、その瞳に映った感情的な色に

指の先から、血の気が引く気がした








「… 嫌だ、」

「え、」








そう言った時にはもう、手遅れだった







そう呟いた瞬間には、

私の口は、
その色を失った冷たい唇に塞がれて







その拍子に、

彼の髪から零れた雨粒が、私の頬を伝った









「ん、っ…… は、ぁ、」









私に呼吸さえ許さないほど

荒く、深く、口付けて





口の端に指を入れて

無理矢理口を開かせれば、すぐに絡まる舌





そんな苦しい口付けに、

彼の胸をぐっと押し返せば









「いたっ…… !」









ギリ、

その刃が、鋭く
私の唇を捉えた







いつもとは違って、きつく、強く


ギリギリと歯を立てられれば、

私の唇は、その刃に切り裂かれ
血の味が口内に滲み出す







瞬間的に流れた、電流のような痛みに

思わず、彼の服をきつく握りしめた









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