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Bite -memory-

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「… サクヤ、」








その大きな背中を摩って

宥めるように名前を呼べば


私から身体を離した彼と、また視線が絡む








光を閉じ込め沈んでいく、その二つの闇


まるでそれらに、吸い込まれるように








私の服の裾を未だ掴んだままの、

冷たい彼の頬に手を添えて





少しだけ背伸びをして、その唇にキスを落とす





触れるだけの熱を残して唇を離せば

彼は私の瞳を真っ直ぐ捉えたまま、
その熱を追いかけるかのように

すぐに私の首元に手をかけて、自分の方に引き寄せる





そのまま、私に抵抗する隙さえ与えず、

赤い唇が、私の口を塞いだ







その黒い鏡に、私を映したまま

視線を絡めた状態で続く、苦しいキス







唇に触れて
舌でなぞって
柔く歯を立てて
また、唇を押し当てる








何度も、何度も

彼の赤い唇が、私の口紅で汚れるほど

何回も、口付けを繰り返した








玄関先に響くリップ音


家を出る時刻は、きっととっくに過ぎていた








… けれど、

私がそんな彼を、止められるはずもなくて









息苦しい呼吸と絶えず与えられる熱の中で

彼の欲が満たされるまで

ただ、その感覚に
溺れていくことしか、出来なかった








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