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Bite -memory-









"彼"から連絡があったのは、

その数日後のことだった






『今週の金曜とか、どう?』






仕事終わりの帰り道

懐かしい番号からかかってきた電話に出れば、彼はいつも通りの落ち着いた声で、私にそう問いかけた





… そういえば、

昔も、こんな誘い方だったな、






相変わらず曖昧な誘い文句を口にする彼に

過去のことを不意に思い出して、
思わず気持ちが緩んだりもした








… けれど








そのリクの言葉に返事をする前に






ふと、瞼の裏に浮かんだのは

あの、漆黒の瞳だった







孤独と憂いと恐怖を混ぜたような

曖昧に濁った大きな瞳






それと同時に蘇る、

歯を突き立てられたピアスホールの痛み







悪夢に苦しむ横顔に、

ふと心の中に迷いが生じる








… 彼は、平気だろうか、









『…………………… 望叶?』




そんな迷いのせいで口籠る私に

優しく呼びかける、低い声




その声ではっとして、
ああ、ごめん、と曖昧に返事を返す






『ごめん都合悪い?』

「あ、いや… 、」






少し申し訳なさそうなその声に

また、心の中に新たな波が浮かぶ







… リクには、会いたいと思う







もちろん、

彼を想う気持ちがまだ私の中に存在するのかと聞かれれば、それは完全なYESではないのだけれど




それでも






あの日、

彼が織り成す穏やかな空気に、
もう一度包まれたいとは思ったのは、事実で






その欲が、

心の奥底に、徐々に広がっていく







……… きっと、大丈夫、だろう



1日だけなら、きっと、









「… うん。金曜、空いてるよ」





自分自身にそう言い聞かせながら答えれば

電話越しの彼の声が、わずかに微笑みを携えるのがわかった







『良かった。

じゃあ、7時にこの前の駅で』







そう最後に約束をして

彼はプツリ、と電話を切った







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