Bite -memory-
.
「も、やだ… っ」
「… まだ」
私を後ろから抱きしめたまま、
その手は私の感帯を揺さぶり
その刃は右肩に柔く突き刺さる
何度目か分からない快感にきつく目を閉じ、下唇を噛み締めれば
自らの歯で傷付いた皮膚から流れる血の味が、口内にじわりと滲んだ
「っ… あ、… んっ」
右肩をその舌がゆっくりと濡らし
湿りを携えた彼の指先が、私の身体から離れれば
息を整える間もなく、
すぐに唇が塞がれる
まるで私に呼吸を許さないかのごとく
押し付けるような口付けと
絡んだ舌先に感じる鉄の味に
閉じた目の裏から徐々に色が消えて行く
明らかにいつもとは違う、
その荒々しい手つきと
息の詰まる、苦しいキス
… やはり、
何かが、確実に違うのだ
* * *
彼の変化は、それだけではなかった
「… ん、…… っは…… 」
… それから、おそらく数時間
隣から聞こえた息遣いに目を覚ませば
いつも背中を向けている彼は、私の方を向いていた
薄く開いた唇からは、
また荒く息が吐き出される
「… サクヤ?」
… そう呼び掛けても、返事はなくて
暗闇に目が慣れれば、
彼はぎゅっと目を閉じたまま
苦しそうに顔を顰めていて
その額には、わずかに光る汗が見えた
… ああ、
"今日も"、か
ひとりで理解して、
彼の髪をゆっくりと撫でて、その頭を引き寄せる
額の汗を拭って、その背中を規則的に優しく叩けば
しばらくすると乱れていた呼吸は落ち着いて
彼は私の服の袖をきつく握りしめながら、
また、安らかに目を閉じる
… 3日前の、あの日から
彼は毎晩、
こうやって魘されるようになった
それが、なぜなのか
どんな夢を見ているのか
そんなことは、私には分からないけれど
でも、
その黒髪をまた撫でながら、ふと思う
『一体彼は、
何をそんなに恐れているんだろう』、と
.
「も、やだ… っ」
「… まだ」
私を後ろから抱きしめたまま、
その手は私の感帯を揺さぶり
その刃は右肩に柔く突き刺さる
何度目か分からない快感にきつく目を閉じ、下唇を噛み締めれば
自らの歯で傷付いた皮膚から流れる血の味が、口内にじわりと滲んだ
「っ… あ、… んっ」
右肩をその舌がゆっくりと濡らし
湿りを携えた彼の指先が、私の身体から離れれば
息を整える間もなく、
すぐに唇が塞がれる
まるで私に呼吸を許さないかのごとく
押し付けるような口付けと
絡んだ舌先に感じる鉄の味に
閉じた目の裏から徐々に色が消えて行く
明らかにいつもとは違う、
その荒々しい手つきと
息の詰まる、苦しいキス
… やはり、
何かが、確実に違うのだ
* * *
彼の変化は、それだけではなかった
「… ん、…… っは…… 」
… それから、おそらく数時間
隣から聞こえた息遣いに目を覚ませば
いつも背中を向けている彼は、私の方を向いていた
薄く開いた唇からは、
また荒く息が吐き出される
「… サクヤ?」
… そう呼び掛けても、返事はなくて
暗闇に目が慣れれば、
彼はぎゅっと目を閉じたまま
苦しそうに顔を顰めていて
その額には、わずかに光る汗が見えた
… ああ、
"今日も"、か
ひとりで理解して、
彼の髪をゆっくりと撫でて、その頭を引き寄せる
額の汗を拭って、その背中を規則的に優しく叩けば
しばらくすると乱れていた呼吸は落ち着いて
彼は私の服の袖をきつく握りしめながら、
また、安らかに目を閉じる
… 3日前の、あの日から
彼は毎晩、
こうやって魘されるようになった
それが、なぜなのか
どんな夢を見ているのか
そんなことは、私には分からないけれど
でも、
その黒髪をまた撫でながら、ふと思う
『一体彼は、
何をそんなに恐れているんだろう』、と
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