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Bite -memory-









「うわ、どーしたのそれ」




自分のデスクでパソコンのキーボードを叩いていると、出社してきた悠太くんは、私の方を見てそう言い、顔を歪めた



その言葉に一瞬何かと思ってから、

無意識に片耳に髪をかけていたことを思い出す




ああ… 、これか、




「… ちょっとこの前つけるの失敗しちゃって」

「はぁ?いや、何してんの。
うっわ… 、痛そ」

「んー、もうそんなにだよ。大丈夫」




そう言って少し微笑みながら髪を下せば、

悠太くんは何とも言えない痛そうな顔をしながら、自分の耳たぶを少し引っ張って、私の隣に腰を下ろした




「ちゃんと消毒したりしろよ」

「お母さんみたいなこと言うんだね」

「心配してあげてんの」

「… うん、ありがと」





そう返事をしてから、
髪の中に隠れた耳にそっと触れる









… 3日前、

いつもとは違い
鋭く、私の皮膚に噛みついた彼









その翌日、いつものように鏡に向き合えば

彼が噛んだピアスホールには血が滲み、赤く腫れ上がってしまっていた









… こんなことは、

彼と一緒に生活した数ヶ月間で、初めてで







初めて彼に残された傷に、

また少し、違和感を覚えたのだった








そして、その日から

何もわからない私でも知覚できるほどに

彼は、変わり始めているような気がする








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「ん、っ… 」




その日の夜

定刻で仕事を終え、いつもと同じ時間にその部屋の扉を開いた





… 彼がこの部屋で息をするようになった当初は

仕事が終わって、なるべく早く帰ってきたとしても、彼は私に噛みつくことがあった






それが一緒に暮らし始めてからは
彼も少しその生活に順応し始めたのか、

その時刻を大幅に超えたりしない限り

彼が私にその"麻酔"を求めることは、ほとんどなくなった





… だけど






「あっ… さく、… っ」







… 3日前

きっかけが何かは分からないけれど



どれだけ早く帰ってきたとしても、

私がこの部屋にいないという空白が少しでもある限り

彼は私に噛みつくようになった





あの日のように、傷は残さない





噛み方はいつも通り

柔く、何度も、温かく






… けれどやはり

何かが、違う






まるで、

"孤独"以外の何かを埋めるように

彼は私に、歯を立てるのだ








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