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Bite -memory-







サー…




狭い浴室に響く水音と

皮膚を伝う熱い雫




雨に濡れて冷えた身体に
その熱がわずかな痛みと共に滲む




… 外は、まだ雨が降っているのだろうか




そんなことを思いながら、

まつ毛に滴る水滴をぼんやりと見つめる





… 雨の日は、色んなことがある






目を閉じれば、

あの日、雨の中でずぶ濡れで座り込んでいた少年と
ついさっき、改札で見送った懐かしい背中が浮かぶ






… 何もかも、偶然のようで

もしかしたら、必然なんだろうか







額から顎に伝わる雫の感覚に

そんな思考を巡らせていた








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髪を乾かして脱衣所を出ると

戻ったリビングには、やはり彼の姿はなかった




… もう、寝てしまったんだろうか





明かりの消えた寝室はまるで、

彼の息の音までも溶かしているようだ





せめて、中の様子だけでも伺おうと
その入り口に近付いた瞬間、





「わ、」






ほぼ同じタイミングで寝室から出てきた彼にぶつかりそうになり、思わず後ずさる




そんな私の腕を、とっさに彼の大きな手が掴めば

そのまま、
その漆黒の瞳と、また視線が絡んで





次の瞬間、

ぐいっと、彼の方に引き寄せられる






その引力に抗うことなく従えば、

すぐに、その大きな身体に包まれた







私の背中に手を回し、
しがみつくように、きつく服を握りしめて


私の肩に顔を押し当てて、

きつく抱き締める








そんな彼の仕草に、

少し安心して、直感する









"ああ、

噛みたいんだな"… って









何度か、私の皮膚に自分の鼻を擦り付けてから

ふと、彼が顔を上げれば、

その少し翳った瞳と、また目が合った







"孤独"に怯えた、

その真っ暗な闇






まるでそれに吸い込まれるように

そのまま詰まっていく距離に、
反射的に目を閉じれば




降ってきたのは、

いつもの無機質な感触ではなくて




まるで壊物に触れるかのような、柔らかな口付けだった






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