Bite -prologue-
*
迎えた朝、目覚めれば
私に背中を向けて眠る彼を起こさないように
ベッドから抜け出して、洗面台に向かう
鏡に向き合って髪を避け、
昨日彼に噛まれたところを確認すれば
わずかに赤くなっているだけで、跡は残っていなかった
… いつも、そう
彼の欲を満たすのは
噛み付くことで出来る傷じゃない
あくまでも
"噛み付く"という行為そのもの
… その理由までは、知らないけどね
顔を洗って寝室に戻ると
目を覚ましたのか、
彼はベッドに腰掛けて、ぼんやりと薄暗い空気に視線を漂わせていた
「…… サクヤ、」
彼の名前を呼べば
漂っていた視線は、私に向けられて
その虚ろな黒い瞳に、私が反射する
「おはよう」
そう声をかければ、
その赤い唇が、ふっと開く
「… きょうは?」
「今日も仕事だよ」
「…… そう、」
私の返事にそう呟けば
少し哀しげに目を伏せて
ゴシゴシと片手でその目を擦る
そんな彼に近付いて、
彼の頭を軽く抱き寄せる
「…… すぐ帰ってくるから」
そう言って、その黒髪を何度か撫でれば
私の胸元に顔を押し当てて、服の裾をきゅっと掴む
「…… うん、」
…… こんな私たちは、どう見える?
姉弟?
恋人?
友人?
… 残念ながら、
私たちはそのどれにも当てはまらない
私と彼は、よくわからない関係
もちろん血は繋がっていない、赤の他人だけど
こうやって同じ部屋に住んでいて
今みたいに抱き合うこともあるし、
キスもするし、体を交わすこともある
… でもきっと、
恋人同士、ではない
おそらく彼は
"孤独"以外の感情を、知らないから
… そう、きっと、
"愛情"も、何もかも
彼の心の中には、存在しないから
.
迎えた朝、目覚めれば
私に背中を向けて眠る彼を起こさないように
ベッドから抜け出して、洗面台に向かう
鏡に向き合って髪を避け、
昨日彼に噛まれたところを確認すれば
わずかに赤くなっているだけで、跡は残っていなかった
… いつも、そう
彼の欲を満たすのは
噛み付くことで出来る傷じゃない
あくまでも
"噛み付く"という行為そのもの
… その理由までは、知らないけどね
顔を洗って寝室に戻ると
目を覚ましたのか、
彼はベッドに腰掛けて、ぼんやりと薄暗い空気に視線を漂わせていた
「…… サクヤ、」
彼の名前を呼べば
漂っていた視線は、私に向けられて
その虚ろな黒い瞳に、私が反射する
「おはよう」
そう声をかければ、
その赤い唇が、ふっと開く
「… きょうは?」
「今日も仕事だよ」
「…… そう、」
私の返事にそう呟けば
少し哀しげに目を伏せて
ゴシゴシと片手でその目を擦る
そんな彼に近付いて、
彼の頭を軽く抱き寄せる
「…… すぐ帰ってくるから」
そう言って、その黒髪を何度か撫でれば
私の胸元に顔を押し当てて、服の裾をきゅっと掴む
「…… うん、」
…… こんな私たちは、どう見える?
姉弟?
恋人?
友人?
… 残念ながら、
私たちはそのどれにも当てはまらない
私と彼は、よくわからない関係
もちろん血は繋がっていない、赤の他人だけど
こうやって同じ部屋に住んでいて
今みたいに抱き合うこともあるし、
キスもするし、体を交わすこともある
… でもきっと、
恋人同士、ではない
おそらく彼は
"孤独"以外の感情を、知らないから
… そう、きっと、
"愛情"も、何もかも
彼の心の中には、存在しないから
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