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Bite -memory-








リクと知り合ったのは、

私がまだ大学生の頃だった




同じ学部で、ひとつ年下の彼




… 出会いのきっかけは、何だっただろう




そんなことも思い出せないほど、
私たちの出会いは何気ないものだったけれど




『… 望叶さん、
隣いいですか?』




昼下がりの図書館で、

一緒に本を読んで過ごしたり




『俺、家まで送りますよ』




寄り道もせずただ、

並んで夕暮れの道を歩いたり




『あー、俺もその監督の映画好きです』




たまには
趣味の話で盛り上がったり





彼と過ごす穏やかな時間は

ごく自然に、私たちを引き合わせて行って







『…俺と、付き合ってくれませんか?』








大学3年生の冬

そう言った彼の手を取って、

穏やかに、私たちの恋は始まった





彼の隣は、心地よくて

それまでの恋愛の無駄な詮索も嫉妬も何もかも、

私たちの間には、存在しなかった





そのせいか、周りからは淡白な2人だと言われていたらしいけれど、別に良かった





ただ、彼がいて

その温もりに時折触れる



それだけで安心出来たし、

特に何も望まなかった







… 彼と恋人でいたのは、2年間







別れを告げたのは、私だった






大学を卒業して、
就職した、1年目




変わってしまった環境と慣れない仕事に疲れて

彼とはすっかり疎遠になってしまっていた




そんな曖昧な関係をはっきりさせるため

電話口で、簡潔に別れを告げれば、





『… そっか。

うん、わかった』





彼独特の静かな声で、そう言って

私たちの恋は、終わりを迎えたのだった





… 彼のことが、嫌いになったわけではなかった





むしろ、会わなければ会わずにいるほど

その温もりと優しさを求めてすらいた





… 別れを告げたのは、
そんな自分に、嫌気がさしたからだろうか





今思えば、自分勝手な決断だったと思う





だけど彼は私を責めることも、

逆に慰めることもしなかった





… きっと、
私の考えを尊重してくれる、彼だから

私の出した答えに、
抗うつもりなんて、初めからなかったんだろう







その証拠に


別れを告げたその瞬間

彼はすっぱり、私の恋人であることを辞めた








それ以降、

会うことはおろか、
連絡を取ることすらしなかった








… それから、3年








久々の彼との再会は、

私の胸の奥に、わずかな違和感を残したのだった








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