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Bite -start-

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その声に、

背を向けた改札の方にまた顔を向けると




私の瞳は、

その懐かしいシルエットを、はっきりと捉えた





… え、








「… リク、?」







少し驚きながらもその名前を口にすれば、

私を映したその瞳が、くっと弧を描いた






「やっぱり望叶だ。

… 久しぶり」






変わらないその声と、穏やかな微笑みに

反射的に、

心臓の奥が、わずかに音を立てた





「久しぶり。… 元気だった?」





そんなありきたりな言葉をかければ、




「あー、うん、まあ。… それなりに?」




どこか歯切れの悪い返事を返しながら、

彼は少し雨粒のついたスーツの肩を払う




… 仕事帰り、だろうか




彼の身を包むグレーのスーツ

その首元を飾る群青色のネクタイ

3年前とは少し違う、ゆるくセットされた髪





同じ表情をしていても

彼が纏う雰囲気は、当時の何倍も洗練されたものになっていて




… 思わず、
少し見惚れてしまった






「望叶、電車だっけ?」

「あ、いや… 、私は車だよ。
今日は、同期の子送ってきたから」

「ああ、そうなんだ」






… どうして、ここにいるんだろう、




雨に濡れた右肩と、

雫を携えた黒い大きな傘




… そういえば、

どこに就職したのかも、知らない




3年前で止まったままの、
私の記憶の中の彼は、まだ大学生で




見慣れないスーツ姿に、

流れた月日の長さを改めて感じる





けれど






「こんなところで会うなんて思ってなかったから、ちょっと驚いた」






そう言って見せるのは、

あの頃と同じ、見慣れた笑顔で






「私も… 、びっくりした、」







… どう接すればいいのか、少し戸惑ってしまう







過去と同じ彼と

過去とは違う彼







空から落ちてくる大きな雨粒

まるでそれらが錯誤させるように

記憶と現実が入り混じる







… なんだか、

不思議な感じがした








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