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Bite -start-








「うわ、また雨降ってんじゃん」




定刻で仕事を終え、社屋を出ると

私の隣の悠太くんは、
空を見上げながら、少し顔をしかめた




その言葉につられて私も上に視線を向けると、

陽の落ちた空から、確かに雨粒がポタポタと落ちてきていた





「なんか最近雨ばっかじゃない?俺また傘持ってないんだけど」

「あー…ごめん、私も今日は持ってないや」




以前悠太くんに貸した折り畳み傘は

返してもらった後、車の中に置いたままになっていて

貸してあげようにも、
結局駐車場まではついてきてもらうことになる




「悠太くん、電車だよね?」

「おー。まー、タクシーでもいいけどな~」

「おお、リッチですね」

「冗談だよ、今手持ちほほゼロだし」




それもそれでどうかと思うけれど、

という言葉は、ぐっと飲み込む


… どうしようか、


少しずつ強くなる雨脚に、
ふとひとつ、考えが浮かんだ




「… 私、駅まで送って行こうか?」

「え、まじ?」




そう聞いてきた悠太くんの言葉に頷けば、



「うわー、さんきゅ。望叶ちゃん女神に見えるー」



なんて、胸に手を当てて感動した素振りを見せる




… これくらいなら、大丈夫だよね、




目の裏にふと浮かぶ、あの漆黒の瞳




… 少しだけ、待ってて、




心の中でそう呟いて、
悠太くんと駐車場まで走った








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車の中でラジオを付けると、
どうやら台風が近づいてきているようで

私の車が駅に着く頃には、

目の前が白くなるほど、強い雨が降り注いでいた





「渋滞とかはまったらまじでごめん。でも助かった、ありがとな」

「いえいえ。お礼は明日のお昼代だけでいいよ」

「おー、なんでもおごってやるよ」

「え、ほんと?うわー、悠太くんいい男」

「まあね。んじゃ、また明日、」





駅の改札まで悠太くんを見送って、

その背中がホームに消えたのを確認してから、車に戻ろうと振り返る




ぱっと映り込む世界は、

大粒の雨とそれを弾く水音で溢れていた





… 帰ろう、





手にした折り畳み傘をまた開いた瞬間、








「……………… 望叶?」









私の名前を呼ぶ、

聞き慣れた低い声が、私の鼓膜を揺らした








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