Bite -start-
*
「うわ、また雨降ってんじゃん」
定刻で仕事を終え、社屋を出ると
私の隣の悠太くんは、
空を見上げながら、少し顔をしかめた
その言葉につられて私も上に視線を向けると、
陽の落ちた空から、確かに雨粒がポタポタと落ちてきていた
「なんか最近雨ばっかじゃない?俺また傘持ってないんだけど」
「あー…ごめん、私も今日は持ってないや」
以前悠太くんに貸した折り畳み傘は
返してもらった後、車の中に置いたままになっていて
貸してあげようにも、
結局駐車場まではついてきてもらうことになる
「悠太くん、電車だよね?」
「おー。まー、タクシーでもいいけどな~」
「おお、リッチですね」
「冗談だよ、今手持ちほほゼロだし」
それもそれでどうかと思うけれど、
という言葉は、ぐっと飲み込む
… どうしようか、
少しずつ強くなる雨脚に、
ふとひとつ、考えが浮かんだ
「… 私、駅まで送って行こうか?」
「え、まじ?」
そう聞いてきた悠太くんの言葉に頷けば、
「うわー、さんきゅ。望叶ちゃん女神に見えるー」
なんて、胸に手を当てて感動した素振りを見せる
… これくらいなら、大丈夫だよね、
目の裏にふと浮かぶ、あの漆黒の瞳
… 少しだけ、待ってて、
心の中でそう呟いて、
悠太くんと駐車場まで走った
------------
車の中でラジオを付けると、
どうやら台風が近づいてきているようで
私の車が駅に着く頃には、
目の前が白くなるほど、強い雨が降り注いでいた
「渋滞とかはまったらまじでごめん。でも助かった、ありがとな」
「いえいえ。お礼は明日のお昼代だけでいいよ」
「おー、なんでもおごってやるよ」
「え、ほんと?うわー、悠太くんいい男」
「まあね。んじゃ、また明日、」
駅の改札まで悠太くんを見送って、
その背中がホームに消えたのを確認してから、車に戻ろうと振り返る
ぱっと映り込む世界は、
大粒の雨とそれを弾く水音で溢れていた
… 帰ろう、
手にした折り畳み傘をまた開いた瞬間、
「……………… 望叶?」
私の名前を呼ぶ、
聞き慣れた低い声が、私の鼓膜を揺らした
.
「うわ、また雨降ってんじゃん」
定刻で仕事を終え、社屋を出ると
私の隣の悠太くんは、
空を見上げながら、少し顔をしかめた
その言葉につられて私も上に視線を向けると、
陽の落ちた空から、確かに雨粒がポタポタと落ちてきていた
「なんか最近雨ばっかじゃない?俺また傘持ってないんだけど」
「あー…ごめん、私も今日は持ってないや」
以前悠太くんに貸した折り畳み傘は
返してもらった後、車の中に置いたままになっていて
貸してあげようにも、
結局駐車場まではついてきてもらうことになる
「悠太くん、電車だよね?」
「おー。まー、タクシーでもいいけどな~」
「おお、リッチですね」
「冗談だよ、今手持ちほほゼロだし」
それもそれでどうかと思うけれど、
という言葉は、ぐっと飲み込む
… どうしようか、
少しずつ強くなる雨脚に、
ふとひとつ、考えが浮かんだ
「… 私、駅まで送って行こうか?」
「え、まじ?」
そう聞いてきた悠太くんの言葉に頷けば、
「うわー、さんきゅ。望叶ちゃん女神に見えるー」
なんて、胸に手を当てて感動した素振りを見せる
… これくらいなら、大丈夫だよね、
目の裏にふと浮かぶ、あの漆黒の瞳
… 少しだけ、待ってて、
心の中でそう呟いて、
悠太くんと駐車場まで走った
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車の中でラジオを付けると、
どうやら台風が近づいてきているようで
私の車が駅に着く頃には、
目の前が白くなるほど、強い雨が降り注いでいた
「渋滞とかはまったらまじでごめん。でも助かった、ありがとな」
「いえいえ。お礼は明日のお昼代だけでいいよ」
「おー、なんでもおごってやるよ」
「え、ほんと?うわー、悠太くんいい男」
「まあね。んじゃ、また明日、」
駅の改札まで悠太くんを見送って、
その背中がホームに消えたのを確認してから、車に戻ろうと振り返る
ぱっと映り込む世界は、
大粒の雨とそれを弾く水音で溢れていた
… 帰ろう、
手にした折り畳み傘をまた開いた瞬間、
「……………… 望叶?」
私の名前を呼ぶ、
聞き慣れた低い声が、私の鼓膜を揺らした
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