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Bite -start-







しばらく、そんな口付けにも似た行為を続ければ

彼は満足したのか、最後に私の唇に触れるだけのキスを落として、少し身体を離した





「… もう、大丈夫?」





その黒髪をふわりと撫でながら尋ねれば

彼は小さく一度頷いて、

私の首に掛けていた手をそっと下ろした





… 今日は、これだけで十分らしい





「… じゃあ、私、着替えてくるね」





また頷いた彼に背を向けて、リビングを出る





… 何度も言うようだけれど

この行為は、決して愛情表現ではない





彼が私に噛みつくのは、

彼の心に刻まれた"傷"



孤独を感じることで彼に滲む、

その傷の痛みを和らげるため






だから、彼が満足すれば、それで終わり

彼の寂しさを取り除くことだけが目的の行為






悪い言い方をすれば

それに私は、"利用"されているだけなのだ









部屋着に着替えてからリビングに戻れば、

ソファに身体を預けた彼は、またぼんやりどこかを見つめていた







… 時折、思う







なんで私は、

こんなにも、彼を受け入れているんだろう






何も知らない、彼のことを

どうして、拒絶出来ないんだろう







あの日、

どうして噛みつくことを許してしまったのか






どうして、今も家にとどめているのか






これが、
彼に対する感情が、

愛情なのか、同情なのか






… わからない





わからない、けれど






「… サクヤ、」






呼びかければ、
ゆっくり振り向く、その虚ろな瞳




私を捉えたその瞳に近付いて、

彼をそっと抱き締める






… 彼のその独特な雰囲気に、飲み込まれてしまったからなのだろうか





私はこの生活から、

抜け出そうとは、思わないのだ







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