Bite -start-
*
この時に許してしまって以降
サクヤは私の身体に噛みつくようになった
それは大抵、
私が長時間家にいなかった時だとか
真夜中にふと目が覚めた時だとか
物理的、
あるいは精神的に
彼が"ひとりきり"になった後
…どうやら彼は
"寂しさ"を感じると、
何かを噛まずにはいられないらしい
それが普通に口にするものならまだいいのだけれど
彼の場合、そうはいかなくて
『人間の皮膚』
… 噛みつけば色が変わるような、
口に含めば温いような、
そういう、血の通ったものがいいらしい
彼の腕に残る傷痕は、きっとその証拠
私と出会う前まではおそらく、
自分の指や腕を噛み続けていたんだろう
… そう、
今私に、噛みついているように
------------------
時折彼の髪を撫でながら、
その寝顔に視線を向けていると
わずかに開いていた唇が、きゅっと閉じて
長い睫毛を携えた瞼が、ゆっくりと上がって行く
… あ、起きた
少しだけ目を開いて、また閉じて
小さな瞬きを繰り返す彼を、また見つめる
眩しいのか、少し顔をしかめて
ゴシゴシ、と目を擦った後
ふと上を向いたその黒い瞳が、私を捉えた
「… おはよ、」
そう声をかければ
私を映すその瞳が、わずかに細まる
「…… おかえり」
彼がそう呟けば、
彼の手が、すっと私の方に伸びて
私の首の後ろに掛かったその手に、
きゅっと引き寄せられる
引かれるままに、彼に顔を近付ければ、
そのまま、唇に噛みつかれた
「ん…… 、」
顔にかかる私の髪を、
その大きな手で耳にかけて
私の唇を、何度も、柔く噛む
その湿った舌が、
私の唇の輪郭をなぞるように這って
それにつられて口を開けば
今度は私の舌に、またゆるく歯を立てる
… いつも、そう
『噛まれる』と言っても
彼の場合、
血が滲むような、そんな強い噛み方じゃなくて
子犬のような甘噛みを、何度も、何度も
軽く噛んでは離して、また同じところに噛み付く
歯型が残ることはあるけれど、特に痛みは感じない
それこそ、"噛まれている"
… ただ、それだけなのだ
.
この時に許してしまって以降
サクヤは私の身体に噛みつくようになった
それは大抵、
私が長時間家にいなかった時だとか
真夜中にふと目が覚めた時だとか
物理的、
あるいは精神的に
彼が"ひとりきり"になった後
…どうやら彼は
"寂しさ"を感じると、
何かを噛まずにはいられないらしい
それが普通に口にするものならまだいいのだけれど
彼の場合、そうはいかなくて
『人間の皮膚』
… 噛みつけば色が変わるような、
口に含めば温いような、
そういう、血の通ったものがいいらしい
彼の腕に残る傷痕は、きっとその証拠
私と出会う前まではおそらく、
自分の指や腕を噛み続けていたんだろう
… そう、
今私に、噛みついているように
------------------
時折彼の髪を撫でながら、
その寝顔に視線を向けていると
わずかに開いていた唇が、きゅっと閉じて
長い睫毛を携えた瞼が、ゆっくりと上がって行く
… あ、起きた
少しだけ目を開いて、また閉じて
小さな瞬きを繰り返す彼を、また見つめる
眩しいのか、少し顔をしかめて
ゴシゴシ、と目を擦った後
ふと上を向いたその黒い瞳が、私を捉えた
「… おはよ、」
そう声をかければ
私を映すその瞳が、わずかに細まる
「…… おかえり」
彼がそう呟けば、
彼の手が、すっと私の方に伸びて
私の首の後ろに掛かったその手に、
きゅっと引き寄せられる
引かれるままに、彼に顔を近付ければ、
そのまま、唇に噛みつかれた
「ん…… 、」
顔にかかる私の髪を、
その大きな手で耳にかけて
私の唇を、何度も、柔く噛む
その湿った舌が、
私の唇の輪郭をなぞるように這って
それにつられて口を開けば
今度は私の舌に、またゆるく歯を立てる
… いつも、そう
『噛まれる』と言っても
彼の場合、
血が滲むような、そんな強い噛み方じゃなくて
子犬のような甘噛みを、何度も、何度も
軽く噛んでは離して、また同じところに噛み付く
歯型が残ることはあるけれど、特に痛みは感じない
それこそ、"噛まれている"
… ただ、それだけなのだ
.