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Bite -start-









この時に許してしまって以降

サクヤは私の身体に噛みつくようになった






それは大抵、

私が長時間家にいなかった時だとか
真夜中にふと目が覚めた時だとか






物理的、

あるいは精神的に

彼が"ひとりきり"になった後








…どうやら彼は

"寂しさ"を感じると、
何かを噛まずにはいられないらしい





それが普通に口にするものならまだいいのだけれど


彼の場合、そうはいかなくて






『人間の皮膚』






… 噛みつけば色が変わるような、

口に含めば温いような、

そういう、血の通ったものがいいらしい





彼の腕に残る傷痕は、きっとその証拠





私と出会う前まではおそらく、

自分の指や腕を噛み続けていたんだろう






… そう、

今私に、噛みついているように









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時折彼の髪を撫でながら、
その寝顔に視線を向けていると



わずかに開いていた唇が、きゅっと閉じて

長い睫毛を携えた瞼が、ゆっくりと上がって行く





… あ、起きた





少しだけ目を開いて、また閉じて

小さな瞬きを繰り返す彼を、また見つめる





眩しいのか、少し顔をしかめて
ゴシゴシ、と目を擦った後

ふと上を向いたその黒い瞳が、私を捉えた






「… おはよ、」






そう声をかければ

私を映すその瞳が、わずかに細まる







「…… おかえり」








彼がそう呟けば、

彼の手が、すっと私の方に伸びて

私の首の後ろに掛かったその手に、
きゅっと引き寄せられる





引かれるままに、彼に顔を近付ければ、

そのまま、唇に噛みつかれた






「ん…… 、」







顔にかかる私の髪を、
その大きな手で耳にかけて

私の唇を、何度も、柔く噛む






その湿った舌が、

私の唇の輪郭をなぞるように這って





それにつられて口を開けば

今度は私の舌に、またゆるく歯を立てる








… いつも、そう








『噛まれる』と言っても



彼の場合、

血が滲むような、そんな強い噛み方じゃなくて






子犬のような甘噛みを、何度も、何度も

軽く噛んでは離して、また同じところに噛み付く






歯型が残ることはあるけれど、特に痛みは感じない






それこそ、"噛まれている"

… ただ、それだけなのだ








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