Bite -start-
*
私が彼のその"傷"に気付いたのは
彼がこの部屋で息をし始めて、
1週間が経った頃のことだった
何の偶然か、
その日も、雨が降る夜だった
定時に仕事を切り上げたはずなのに、
雨だからなのか、渋滞に捕まって
いつもより帰りが遅くなってしまった
「ただいまー… 、」
そう呟きながら、
部屋の扉を開いた瞬間
「え、」
いつもとは違う視界に、
思わず声が漏れた
扉を開いてすぐの廊下
その壁に凭れて、
少年は、薄暗い玄関に座り込んでいた
バタン、
私の背後で閉まった扉の音で
彼のその黒い瞳が、私の方を向く
… いつもなら、
大抵は、リビングにいるのに、
「… どうしたの?」
ひとまず靴を脱ぎ、
彼の前に立って、そう尋ねれば
冷たいはずの廊下に座り込んだ少年は
何も言わず、じっと私を見つめたまま、
徐に、私の方に手を伸ばした
そして、その冷たい掌が
私の手首を掴んだ途端
「わっ… !」
ぐいっと、自らの方に私を引き寄せる
その強い引力にバランスを崩し、彼の方に倒れ込むと
なぜかそのまま、きつく抱き締められた
その突然の出来事に、
一気に脳の回転が止まる
… それまで一度も、
彼は私に触れたりしなかった
同じベッドで眠りはするけれど
身体的な交わりは一切なくて
それが当たり前になりつつあったからなのか
その時の私を抱き締める腕の強さと、急に露わになった彼の熱い欲望のようなものは
私を圧倒し、混乱させた
私の肩に鼻を擦り付け、
しがみ付くように、強く服を握り締める彼
そんな少年からは
わずかに、雨の匂いがした
「え、ちょっ… 」
なんとか抵抗を示すために、
少年の胸を押し返すと
意外にもあっさり、私たちの間には空白が生まれた
少し離れたその熱に安心していると
目の前で俯く少年の黒髪が、わずかに揺れて
そして
「………… せて」
「え?」
微かに聞こえたその声に反応すれば
俯いていたその顔が、ぱっと上がって
闇を含む漆黒の瞳に、私が反射した瞬間
身体の奥が、ゾクっと震えた
.
「……………… 噛ませて、」
.
私が彼のその"傷"に気付いたのは
彼がこの部屋で息をし始めて、
1週間が経った頃のことだった
何の偶然か、
その日も、雨が降る夜だった
定時に仕事を切り上げたはずなのに、
雨だからなのか、渋滞に捕まって
いつもより帰りが遅くなってしまった
「ただいまー… 、」
そう呟きながら、
部屋の扉を開いた瞬間
「え、」
いつもとは違う視界に、
思わず声が漏れた
扉を開いてすぐの廊下
その壁に凭れて、
少年は、薄暗い玄関に座り込んでいた
バタン、
私の背後で閉まった扉の音で
彼のその黒い瞳が、私の方を向く
… いつもなら、
大抵は、リビングにいるのに、
「… どうしたの?」
ひとまず靴を脱ぎ、
彼の前に立って、そう尋ねれば
冷たいはずの廊下に座り込んだ少年は
何も言わず、じっと私を見つめたまま、
徐に、私の方に手を伸ばした
そして、その冷たい掌が
私の手首を掴んだ途端
「わっ… !」
ぐいっと、自らの方に私を引き寄せる
その強い引力にバランスを崩し、彼の方に倒れ込むと
なぜかそのまま、きつく抱き締められた
その突然の出来事に、
一気に脳の回転が止まる
… それまで一度も、
彼は私に触れたりしなかった
同じベッドで眠りはするけれど
身体的な交わりは一切なくて
それが当たり前になりつつあったからなのか
その時の私を抱き締める腕の強さと、急に露わになった彼の熱い欲望のようなものは
私を圧倒し、混乱させた
私の肩に鼻を擦り付け、
しがみ付くように、強く服を握り締める彼
そんな少年からは
わずかに、雨の匂いがした
「え、ちょっ… 」
なんとか抵抗を示すために、
少年の胸を押し返すと
意外にもあっさり、私たちの間には空白が生まれた
少し離れたその熱に安心していると
目の前で俯く少年の黒髪が、わずかに揺れて
そして
「………… せて」
「え?」
微かに聞こえたその声に反応すれば
俯いていたその顔が、ぱっと上がって
闇を含む漆黒の瞳に、私が反射した瞬間
身体の奥が、ゾクっと震えた
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「……………… 噛ませて、」
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