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Bite -start-








私が彼のその"傷"に気付いたのは

彼がこの部屋で息をし始めて、
1週間が経った頃のことだった






何の偶然か、

その日も、雨が降る夜だった







定時に仕事を切り上げたはずなのに、

雨だからなのか、渋滞に捕まって
いつもより帰りが遅くなってしまった







「ただいまー… 、」







そう呟きながら、

部屋の扉を開いた瞬間






「え、」






いつもとは違う視界に、

思わず声が漏れた




扉を開いてすぐの廊下




その壁に凭れて、

少年は、薄暗い玄関に座り込んでいた





バタン、

私の背後で閉まった扉の音で
彼のその黒い瞳が、私の方を向く






… いつもなら、

大抵は、リビングにいるのに、








「… どうしたの?」








ひとまず靴を脱ぎ、

彼の前に立って、そう尋ねれば





冷たいはずの廊下に座り込んだ少年は

何も言わず、じっと私を見つめたまま、

徐に、私の方に手を伸ばした






そして、その冷たい掌が
私の手首を掴んだ途端




「わっ… !」




ぐいっと、自らの方に私を引き寄せる








その強い引力にバランスを崩し、彼の方に倒れ込むと

なぜかそのまま、きつく抱き締められた






その突然の出来事に、

一気に脳の回転が止まる







… それまで一度も、

彼は私に触れたりしなかった





同じベッドで眠りはするけれど

身体的な交わりは一切なくて





それが当たり前になりつつあったからなのか

その時の私を抱き締める腕の強さと、急に露わになった彼の熱い欲望のようなものは

私を圧倒し、混乱させた







私の肩に鼻を擦り付け、

しがみ付くように、強く服を握り締める彼








そんな少年からは

わずかに、雨の匂いがした






「え、ちょっ… 」






なんとか抵抗を示すために、
少年の胸を押し返すと

意外にもあっさり、私たちの間には空白が生まれた




少し離れたその熱に安心していると

目の前で俯く少年の黒髪が、わずかに揺れて





そして








「………… せて」

「え?」









微かに聞こえたその声に反応すれば

俯いていたその顔が、ぱっと上がって




闇を含む漆黒の瞳に、私が反射した瞬間

身体の奥が、ゾクっと震えた









.










「……………… 噛ませて、」









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