Bite -the past-
*
誰かを家に上げるのは、ひどく久々だった
それが異性ともなれば、
近況でいえば、弟のリョウくらいで
私以外の空気を含む空間は
なんだか妙な感じがした
「ここがお風呂で、こっちが洗面台。
バスタオルと着替え置いておくから、入って」
リョウの服とバスタオルと共に、
半ば強制的に少年を脱衣所に押し込めば
しばらくして
石鹸の香りを引き連れて
少年は、リビングに戻ってきた
… どうやら、
素直にシャワーを浴びてくれたらしい
弟の服に身を包んだ少年は
何も言わず、
ただリビングの中央に立っていた
その虚ろな視線をどこかに向け
空気に漂うように、ぼんやりと
… その姿も、自然と目を引く何かがあって
また浮き彫りになる存在感と、不安定さ
…… 不思議な少年だ、と思った
-------
正直、
聞きたいことは山ほどあった
"君、名前は?"
"年はいくつ?"
"どこから来たの?"
"どうしてあんなところにいたの?"
… けれど、
そのどれひとつとして私が口にしなかったのは
やはり、彼が身に纏う妙な威圧感と
何か含みを持った、哀愁さえ感じる横顔
それらに全て、抑圧されてしまったからだろう
「… ご飯、食べる?」
未だその場に立ち尽くす少年にそう声をかけると
どこかに漂っていた視線が、ふと私に向いて
私を見つめながら、少年は小さく頷いた
… あ、食べるんだ
その答えは、少し意外だった
それくらい、
その少年には、人間味というものがなかったから
冷蔵庫にあるもので簡単に夕飯を作って出せば
彼は箸をつける前にちゃんと手を合わせてから、黙々と食べ始めた
… また、不思議な感じがした
たった数時間前に出逢った少年と
こうして向かい合って食事を採っている、なんて
そんな非現実的な状況のはずなのに
なぜか、身体はその空気に馴染み始めていて
「… あ、ご飯、もう一杯よそう?」
その言葉にまた小さく頷く少年を
"可愛らしい"とさえ思った
初対面の異性と同じ部屋で過ごす、
普通に考えれば、異様な時間
けれど私は
その後もその空間に彼がいることに、特に違和感は覚えなくて
不思議な少年だ、と
また心の中で呟きながら、その夜を過ごしていた
.
誰かを家に上げるのは、ひどく久々だった
それが異性ともなれば、
近況でいえば、弟のリョウくらいで
私以外の空気を含む空間は
なんだか妙な感じがした
「ここがお風呂で、こっちが洗面台。
バスタオルと着替え置いておくから、入って」
リョウの服とバスタオルと共に、
半ば強制的に少年を脱衣所に押し込めば
しばらくして
石鹸の香りを引き連れて
少年は、リビングに戻ってきた
… どうやら、
素直にシャワーを浴びてくれたらしい
弟の服に身を包んだ少年は
何も言わず、
ただリビングの中央に立っていた
その虚ろな視線をどこかに向け
空気に漂うように、ぼんやりと
… その姿も、自然と目を引く何かがあって
また浮き彫りになる存在感と、不安定さ
…… 不思議な少年だ、と思った
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正直、
聞きたいことは山ほどあった
"君、名前は?"
"年はいくつ?"
"どこから来たの?"
"どうしてあんなところにいたの?"
… けれど、
そのどれひとつとして私が口にしなかったのは
やはり、彼が身に纏う妙な威圧感と
何か含みを持った、哀愁さえ感じる横顔
それらに全て、抑圧されてしまったからだろう
「… ご飯、食べる?」
未だその場に立ち尽くす少年にそう声をかけると
どこかに漂っていた視線が、ふと私に向いて
私を見つめながら、少年は小さく頷いた
… あ、食べるんだ
その答えは、少し意外だった
それくらい、
その少年には、人間味というものがなかったから
冷蔵庫にあるもので簡単に夕飯を作って出せば
彼は箸をつける前にちゃんと手を合わせてから、黙々と食べ始めた
… また、不思議な感じがした
たった数時間前に出逢った少年と
こうして向かい合って食事を採っている、なんて
そんな非現実的な状況のはずなのに
なぜか、身体はその空気に馴染み始めていて
「… あ、ご飯、もう一杯よそう?」
その言葉にまた小さく頷く少年を
"可愛らしい"とさえ思った
初対面の異性と同じ部屋で過ごす、
普通に考えれば、異様な時間
けれど私は
その後もその空間に彼がいることに、特に違和感は覚えなくて
不思議な少年だ、と
また心の中で呟きながら、その夜を過ごしていた
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