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Bite -the past-








誰かを家に上げるのは、ひどく久々だった




それが異性ともなれば、
近況でいえば、弟のリョウくらいで




私以外の空気を含む空間は

なんだか妙な感じがした





「ここがお風呂で、こっちが洗面台。

バスタオルと着替え置いておくから、入って」





リョウの服とバスタオルと共に、

半ば強制的に少年を脱衣所に押し込めば




しばらくして

石鹸の香りを引き連れて
少年は、リビングに戻ってきた





… どうやら、

素直にシャワーを浴びてくれたらしい






弟の服に身を包んだ少年は

何も言わず、
ただリビングの中央に立っていた




その虚ろな視線をどこかに向け

空気に漂うように、ぼんやりと




… その姿も、自然と目を引く何かがあって

また浮き彫りになる存在感と、不安定さ




…… 不思議な少年だ、と思った






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正直、

聞きたいことは山ほどあった




"君、名前は?"

"年はいくつ?"

"どこから来たの?"


"どうしてあんなところにいたの?"





… けれど、
そのどれひとつとして私が口にしなかったのは


やはり、彼が身に纏う妙な威圧感と

何か含みを持った、哀愁さえ感じる横顔


それらに全て、抑圧されてしまったからだろう






「… ご飯、食べる?」






未だその場に立ち尽くす少年にそう声をかけると

どこかに漂っていた視線が、ふと私に向いて

私を見つめながら、少年は小さく頷いた




… あ、食べるんだ




その答えは、少し意外だった




それくらい、

その少年には、人間味というものがなかったから





冷蔵庫にあるもので簡単に夕飯を作って出せば

彼は箸をつける前にちゃんと手を合わせてから、黙々と食べ始めた





… また、不思議な感じがした





たった数時間前に出逢った少年と

こうして向かい合って食事を採っている、なんて





そんな非現実的な状況のはずなのに

なぜか、身体はその空気に馴染み始めていて






「… あ、ご飯、もう一杯よそう?」






その言葉にまた小さく頷く少年を

"可愛らしい"とさえ思った








初対面の異性と同じ部屋で過ごす、
普通に考えれば、異様な時間



けれど私は

その後もその空間に彼がいることに、特に違和感は覚えなくて





不思議な少年だ、と

また心の中で呟きながら、その夜を過ごしていた







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