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Bite -prologue-









一体彼が何故そんなことをするのか

その理由を、私は知らない









「…… ねえ、」







灯りの消えた真っ暗な部屋

その闇に轟く、そのか細い声






その呼びかけと共に、
私に背中を向けていた彼が寝返りを打てば

あまり大きくないベッドが軋んで、音を立てる





視界の遮られた暗闇の中





感じるのは、

ふと首元に触れる、その冷たい手の感触





ギシ、とまたベッドを軋ませて、私に身体を寄せれば

露出した私の皮膚に、唇を寄せて

熱い吐息交じりに、彼は、呟く









「…………………… 噛ませて、」









その言葉のすぐ後に、

私の返事を待つこともなく、
私の肩に当てられる無機質な刃







いつもそう







寂しさを紛らわすために

彼は私の皮膚に、歯を立てる






彼は孤独を至極嫌う







まるで幼い子供のように
取り残されることを殊に恐れる







そんな彼の孤独を取り除く、たったひとつの方法

彼の不安を癒す、唯一の麻酔薬








私に噛み付くことで

彼は孤独から解放される









何度も何度も、柔く

噛み付いては離して、

また噛み付いては、口付ける








それを繰り返すことで

彼の中の孤独は消えていく









… そんな彼に

私は、蝕まれている









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