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青藍と天鵞絨

【冷たい両手】

「先生の手って冷たいんですね」
不意に互いの手が触れた瞬間、リンハルトが呟いた。
ベレトは一瞬不思議そうな顔をしてみせてから、「ああ」と、思い出したように自分の手の平を見つめる。
「よく言われる。特に不便はないんだが……」
「へえ」
リンハルトは興味深げな表情をしてから、突然ベレトの手を両手で捉えた。
突拍子のない行動に、ベレトは思わず緊張する。
ベレトがこっそりと、密かに思いを寄せているこの少年は、こうやって予測のつかない行動をしてみせることが多い。
それが嫌ではないとは言え、驚かされることはしばしばだ。
リンハルトの手はほっこりと温かく、ベレトの冷えた指先にも、じんわりと熱が伝わってきた。
「……もしかして、眠いのか?」
「僕はいつでも眠いですよ」
何言ってるんですか、と言いたげなリンハルトに、それもそうだとベレトは頷いてみせた。
人は眠くなると手の平が温かくなるらしい。それを思い出して口にした言葉だったが、リンハルトにとっては至極当然のことだったろう。
「よく、手が冷たい人は優しいって言いますけど」
なおもベレトの手を握りながら、リンハルトが言った。
「医学的な根拠はあるんですかね。今ひとつ耳にしないっていうか、みんな適当に言ってる感じがしません?」
「うーん……」
確かに、よく耳にする話ではある。
だが、ベレトも理由らしい理由は聞いたことがなかった。
考えを巡らせているうちに、一つ思いついたことがあり、ベレトはそれを言ってみることにした。
「俺の場合は、心臓の音が聞こえにくいらしい。もしかしたら、それが関係しているかもしれないな」
「へえ」
リンハルトが面白そうと言いたげな顔をしてから、ベレトを見る。
「聞いてみてもいいですか?」
「構わないが……」
ベレトがそう言うなり、リンハルトはベレトにもたれ掛かり、胸に顔を押し付ける。

どくん、と。
動いていないはずの心臓が、高鳴ったような気がした。
リンハルトの深緑色をした髪から、好ましい香りがする。

例えば、自分たちが恋人だったなら。
今抱き締めても、許されるのだろうか。

「…………」
「……リンハルト?」
「先生、服、脱いでくれません?」
リンハルトは顔を上げて不満を漏らす。
「全然聞こえないじゃないですか……あとついでに、色々調べさせてくれたら嬉しいんですけど」
ちゃっかりと研究をねだる教え子に、ベレトは小さく肩を竦めた。
「まだ早い」
そのうちな、と、ベレトは温まった指先で、リンハルトの髪を撫でた。
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