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青藍と天鵞絨

【貴方の傍で夢を見ればいい】

ああ、血の匂いがする。
肉が焦げた匂いがする。人の死の、匂いがする。
殺さなければ生きられない。
生きたいなら殺さねばならない。
明日眠るためにも、今は 殺さ なけれ ば

「―――リンハルト」

目を開くと、そこには。
誰よりも愛しい人の顔と、木々の間から零れる陽の光が見えた。
うららかな日差しと青々しい草木が、先程まで見ていた戦場は"夢"なのだと、リンハルトの理性に訴えかける。
リンハルトが起き上がると、ベレトは彼の顔を覗き込んだ。
「魘されていたようだったから、起こしたんだが」
そう言うベレトの表情は、酷く心配そうだった。
「大丈夫ですよ」
彼を安心させるように、リンハルトは微笑んでみせる。
(……まさか夢に見るとはな)
しかもよりによって、ベレトと昼寝をしている時に、だ。
自分が何より大切にしている時間を、自分自身の夢に邪魔されたのが、何となく腹立たしい。
「ちょっと夢見が悪かったんです。大したことじゃないですから」
そう言ってみせるも、ベレトの表情は晴れない。
おや、とリンハルトが不思議に思っていると、ベレトがおずおずと言った。
「……昔、戦場でよく言っていただろう。『明日眠るためにも、今日殺さなきゃ』、と」
エーデルガルトの覇道を支えるため、数々の敵を蹴散らした『黒鷲遊撃軍』。
その一員として戦っていたリンハルトは、確かに口癖のようにそう言っていた。
口癖というよりは、言い訳、だったのかもしれない。
命を奪うことに対して、自分自身を納得させるための。
「……さっき魘されていた時も、そう言っていたから……昔の夢でも、見たのかと思ったんだが」
「……そうなんですけどね」
リンハルトは仕方なく認めた。こういう時は、誤魔化す方がベレトを心配させてしまう。
「心配いりませんよ。先生がいてくれましたから」
その言葉に、ベレトも少しだけ安心したらしい。
「なら、いいんだが……無理はするんじゃないぞ」
「先生もね」
リンハルトはそう言って笑ってみせてから、大きく背伸びする。
「あーあ、せっかくの昼寝の時間が台無しになっちゃいましたね……家に戻って、紅茶でも飲みませんか?」
「そうしよう」
ベレトは頷いて立ち上がると、リンハルトに手を差し出す。
リンハルトも、その手を掴んで立ち上がった。
「あ、そうだ」
「ん?」
「僕が寝る時は、先生が必ず傍にいてくれたらいいのでは?」
名案とばかりにリンハルトが提案する。
「それなら、悪夢を見ても心配要りませんよね」
それを聞いて、ベレトは小さく微笑んだ。
「安心しろ。寝ていようといまいと、お前の傍から離れるつもりはないよ」
「……それもそうですね」
リンハルトは、嬉しそうにベレトに寄り添った。
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