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青藍と天鵞絨

【彼らの幸せは甘く】


「わぁ、」
白い箱に詰まった色とりどりのカップケーキに、リンハルトは驚嘆の声をあげた。
「凄いですねえ、これ」
「日頃のお礼にと貰ってしまった」
ベレトもしげしげと中身を見つめ、「合いそうなお茶を入れよう」と呟く。
「貰ったって、街の人からですか?」
「ああ」
ベレトはお茶の用意をしながら頷いてみせた。
「買い物ついでに雑用やら頼み事やらを手伝っていたら、顔を覚えられたらしい」
「先生、すぐ引き受けますもんね」
大修道院にいた頃から、ベレトはやたらと面倒見が良い。
二人が住む丘の下にある街でも、小さな雑用を頼まれてはあっさりと引き受け、こまめにこなしているせいで、すっかり顔馴染みになっているようだった。
「何もしないことがあるよりはいいからな」
「僕との昼寝は……」
「安心しろ、最重要事項だ」
リンハルトの頭をぽふぽふと撫でるベレトに、リンハルトは満足そうな顔をしてみせる。
「なら良いんですよ。先生抜きで昼寝しろなんて言われたら、僕は何をするかわかりませんからね」
「何をするつもりなんだ……」
「冗談に決まってるじゃないですか」
からかうように笑うリンハルトだったが、いまいち信用し切れない。
ベレトはなんとも言えない顔のまま、茶葉の瓶の蓋を閉めた。
「何のお茶を入れるんですか?」
「アッサムにしようかと」
「良いですねえ」
どことなくうきうきした様子のリンハルトに、ベレトは小さく微笑む。
甘いもの好きな伴侶とのお茶会は、準備している時から楽しい。ベレトもまた甘いもの好きなお陰で、大量のカップケーキの消費も、何の苦にもならなそうだった。
「先生とのお茶会って、準備してる時から楽しいんですよね」
皿や食器を用意するリンハルトにそう言われ、ベレトは思わずまばたきしてしまう。
「甘いものと美味しいお茶があって、貴方がいて。これ以上ない至福ってやつです」
「…………」
「先生?」
ベレトの視線に気付き、リンハルトはきょとんとする。
「どうかしました?」
「……いや」
ベレトは小さく首を振り、穏やかに笑う。
「なんでもない。……今日は天気が良さそうだから、昼寝は外でするか」
「ええ、のんびりしましょう」
嬉しそうに笑うリンハルトの表情を見て、

―――自分たちは今、確かに幸せだ、と。

ベレトは、噛み締めるようにそう思った。
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