護衛任務と、離れて初めて気付くもの
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──レオ視点
夜が明け、ぼんやりとした淡い光がカーテンの隙間から差し込んでくる頃。
俺は目を覚ました。いや、正確に言えば「眠った実感がないのに、やけに目覚めがいい」というべきか。
隣ではサリスが、くったりとした体勢でベッドに沈んでいた。
いつもなら小鳥の囀りで目を覚ますような彼女が、今朝ばかりは身じろぎ一つしない。
「……サリス?」
そっと肩に手を添えると、うっすら瞼が動いて、寝ぼけた声が返ってくる。
「んぅ……レオ、動けないの……腰、痛くて……足も、重くて……」
そのか細い声と、腕に伝わってくる熱に、俺は即座に悟った。
──これは、ひどい筋肉痛だ。
(…というかこれデジャヴ?前にも似たような光景見たような…いや、とりあえず今は置いておこう)
昨日の夜……いや、正確には「今朝まで」か。
俺たちは久々の再会を喜び合い、まるで時を取り戻すかのように、貪るように愛を交わした。
最初は、優しく触れるだけのつもりだったんだ。
けど、気づけば歯止めが効かなくなっていた。
「好きだ」「愛してる」──囁いて、抱きしめて、キスをして。
サリスの肌に触れるたび、もう離したくないという想いが溢れて、止まらなかった。
何度「もう一回」って言ったっけ?
途中で「もう…だめ…むり」って、小さな声で言われた気がする。
ごめんな、サリス……。
けど俺は、こんなに彼女を求めていたんだな。
たった数日離れていただけで、心も体も飢えていた。
今の俺の顔、たぶんやたら艶っぽいと思う。
寝不足のはずなのに、妙に生き生きしてる自覚がある。肌の調子までいい気がする。
……我ながら、どんだけ溜まってたんだ俺。
「レオ……温湿布と薬草……お願いしてもいい?」
横たわったまま、サリスがか細くそう言った。
「喜んでさせていただきます!」
食い気味に即答していた。
自分でも驚くくらいに間髪入れず返してしまった。
サリスは、くすくすと笑う。
筋肉痛で動けなくても、その笑顔は変わらず可愛くて。
やっぱり、彼女が隣にいてくれるだけで、俺の世界は満ちている。
俺は湿布を温めながら、ふと思い出していた。
護衛任務の最中、ハルトに言われた言葉。
「お前、冒険者にならねぇのか?」
ハルトなりの好意だったのは分かっている。
一緒に戦って、剣の腕も見てくれて、信頼してくれたからこその誘いだった。
でも――俺の中には、答えが決まっていた。
それを、サリスに話すつもりはなかった。
……夕べまでは、そう思っていたはずなのに。
「ねぇ、レオ」
寝返りも打てないはずの彼女が、枕元から顔だけこちらに向けて、静かに笑う。
「“冒険者にならないか”って、誘われたんでしょ?」
ぎくりとした。
何故だ。俺はその話題に一切触れていない。
夕食のときも、旅の仲間の話や出来事の描写はしても、その肝心な言葉には触れなかったのに。
「サリスさんはね、あなたのことは何でもお見通しなのよ」
その声音はやわらかくて、優しくて、少しだけ誇らしげだった。
*
──サリスさんはね、あなたのことは何でもお見通しなのよ。
そう笑った彼女の言葉が、やけに心に残った。
温湿布をそっと彼女の腰に貼りながら、俺はそらすように視線を落とす。
この数日、戦ってきた仲間たちの顔が、脳裏に浮かんでいた。
――ハルトの気さくな笑い声。
――アッシュの正確な観察眼。
――メルキオの老練な魔術。
そして、何よりも“チーム”として背中を預け合えたこと。
確かに、悪くないと思った。
護衛の旅は過酷だったが、どこか懐かしくもあった。
俺はかつて、あの空気の中で生きていたのだ。
だからこそ、ハルトに言われた時――「冒険者にならねぇのか?」と、
一瞬だけ、心が揺れたのも事実だった。
冒険者。
それは、孤児だった頃の俺が憧れた生き方だった。
名もなき子どもが剣を持ち、魔物を倒し、人々を救い、やがて伝説の勇者となる。
絵本の中の話だと思っていたその夢が、兵士として戦場に立つうちに現実のように見えてきたこともある。
現に、英雄譚は実在する。
どこかの国では、冒険者から王になった者もいるという。
魔物を退け、村を守り、剣を讃えられる日々。
その道を選んでいたら、あるいは――と、過去に一度でも考えなかったと言えば、嘘になる。
けど。
現実の“戦”を知ってしまった俺は、もう夢のままではいられなかった。
兵士時代、どれだけ多くの仲間を失っただろう。
昨日まで飯を分け合い、寝床を並べていた奴が、翌朝には土に還る。
「この戦が終わったら結婚するんだ」と笑っていた部下の顔が、真っ赤に染まっていくのを、何度見た?
魔法の時代だ。治癒術もある。
けど、それでも人は――死んだら、もう戻らない。
蘇生の奇跡なんて、童話の中だけだ。
仮にどこかの術者が死者を蘇らせたとして、それは本当に“その人”なのか?
記憶を持った人形ではなく、魂まで同じ存在なのか?
……俺には、答えが出せない。
「サリス」
思わず名前を呼ぶと、彼女は「うん?」と穏やかに返した。
シーツの上、まだ起き上がれないまま、それでも笑ってくれる。
「冒険者っていう生き方は、立派だと思ってる。
だけど、俺は……英雄になりたいわけじゃないんだ」
「……うん」
「国のためでも、民のためでもない。
俺が守りたいのは、もっと小さくて、手の届く場所にある」
その目に浮かぶのは、今まさにここにいる彼女の姿だった。
栗色の髪。瑠璃色の瞳。
海の底から、俺の人生を引き上げてくれた存在。
一緒に旅をして、笑って、泣いて、怒って。
朝食を並べ、夜は歌を聞きながら眠る。
……それだけで、もう十分だと思える日々が、確かにここにある。
「……俺はこれでいいと思ってる。
毎日、お前と生きる。それが、俺にとっての幸せなんだ」
一瞬の静寂の後、サリスがそっと目を伏せた。
それから、まるで泉の水が溢れるように、言葉がこぼれてくる。
「……でも、ひとりのお姫様を救ってくれたのは、紛れもなくあなたよ?忘れちゃった?」
レオは、言葉を飲んだ。
「悪者に攫われて、泣いていたお姫様を、
誰にも頼まれたわけでもなく、命懸けで助け出してくれた。
檻の中に閉じ込められていた私を、連れ出してくれた。
……それはね、誰にでもできることじゃないのよ」
「……サリス」
彼女は続ける。
「もし、あのとき出会わなかったら。
私は海に帰れず、檻の中で命を落としていたかもしれない。
あるいは、持っていた力が暴走して、誰かを傷つけていたかもしれない。
──そうならなかったのは、レオ、あなたがいてくれたから」
その目に浮かぶのは、憧れではない。崇拝でもない。
ただ、深い感謝と愛が混ざった、ひとりの女性の、まっすぐな気持ち。
「伝説にならなくてもいい。
あなたは私にとっての“勇者様”よ。
獅子の名を持った、誇り高き勇者様」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……サリス、ありが──」
「まぁ、ちょっとスケベだけど」
「は?」
あまりに唐突な追い打ちに、レオは固まる。
「おい!最初は感動してたのになんでそうオチをつけたがる!?スケベは余計だろ!」
「だって昨日は本当にすごかったんだから。ある意味……”伝説級”よ?」
「そんなことで伝説になりたくねぇ!!」
「あらあら…そんなに怒らないでちょうだいな、勇者様?」
サリスはくすくすと笑う。
まるで、俺の照れ隠しも、突っぱねる言葉も、すべてお見通しだと言わんばかりに。
「……もう、サリスさんには一生敵わないな」
シーツの上で動けないまま、彼女は頷いた。
「ええ。最初から、そのつもりでお付き合いしてますもの」
俺は、そんな彼女の髪を撫でた。
愛しくて、守りたくてたまらない、この命。
どこまでも、ただのひとりの男で構わない。
でも、この手で、彼女を守ることだけは、何があっても譲れないと思った。
今日という日を、彼女と共に生きる。
明日も、その先も。
……ずっと。
そして、心のどこかでそっと呟いた。
「……ああ。俺の人生は、間違ってなかった」
──Fin
夜が明け、ぼんやりとした淡い光がカーテンの隙間から差し込んでくる頃。
俺は目を覚ました。いや、正確に言えば「眠った実感がないのに、やけに目覚めがいい」というべきか。
隣ではサリスが、くったりとした体勢でベッドに沈んでいた。
いつもなら小鳥の囀りで目を覚ますような彼女が、今朝ばかりは身じろぎ一つしない。
「……サリス?」
そっと肩に手を添えると、うっすら瞼が動いて、寝ぼけた声が返ってくる。
「んぅ……レオ、動けないの……腰、痛くて……足も、重くて……」
そのか細い声と、腕に伝わってくる熱に、俺は即座に悟った。
──これは、ひどい筋肉痛だ。
(…というかこれデジャヴ?前にも似たような光景見たような…いや、とりあえず今は置いておこう)
昨日の夜……いや、正確には「今朝まで」か。
俺たちは久々の再会を喜び合い、まるで時を取り戻すかのように、貪るように愛を交わした。
最初は、優しく触れるだけのつもりだったんだ。
けど、気づけば歯止めが効かなくなっていた。
「好きだ」「愛してる」──囁いて、抱きしめて、キスをして。
サリスの肌に触れるたび、もう離したくないという想いが溢れて、止まらなかった。
何度「もう一回」って言ったっけ?
途中で「もう…だめ…むり」って、小さな声で言われた気がする。
ごめんな、サリス……。
けど俺は、こんなに彼女を求めていたんだな。
たった数日離れていただけで、心も体も飢えていた。
今の俺の顔、たぶんやたら艶っぽいと思う。
寝不足のはずなのに、妙に生き生きしてる自覚がある。肌の調子までいい気がする。
……我ながら、どんだけ溜まってたんだ俺。
「レオ……温湿布と薬草……お願いしてもいい?」
横たわったまま、サリスがか細くそう言った。
「喜んでさせていただきます!」
食い気味に即答していた。
自分でも驚くくらいに間髪入れず返してしまった。
サリスは、くすくすと笑う。
筋肉痛で動けなくても、その笑顔は変わらず可愛くて。
やっぱり、彼女が隣にいてくれるだけで、俺の世界は満ちている。
俺は湿布を温めながら、ふと思い出していた。
護衛任務の最中、ハルトに言われた言葉。
「お前、冒険者にならねぇのか?」
ハルトなりの好意だったのは分かっている。
一緒に戦って、剣の腕も見てくれて、信頼してくれたからこその誘いだった。
でも――俺の中には、答えが決まっていた。
それを、サリスに話すつもりはなかった。
……夕べまでは、そう思っていたはずなのに。
「ねぇ、レオ」
寝返りも打てないはずの彼女が、枕元から顔だけこちらに向けて、静かに笑う。
「“冒険者にならないか”って、誘われたんでしょ?」
ぎくりとした。
何故だ。俺はその話題に一切触れていない。
夕食のときも、旅の仲間の話や出来事の描写はしても、その肝心な言葉には触れなかったのに。
「サリスさんはね、あなたのことは何でもお見通しなのよ」
その声音はやわらかくて、優しくて、少しだけ誇らしげだった。
*
──サリスさんはね、あなたのことは何でもお見通しなのよ。
そう笑った彼女の言葉が、やけに心に残った。
温湿布をそっと彼女の腰に貼りながら、俺はそらすように視線を落とす。
この数日、戦ってきた仲間たちの顔が、脳裏に浮かんでいた。
――ハルトの気さくな笑い声。
――アッシュの正確な観察眼。
――メルキオの老練な魔術。
そして、何よりも“チーム”として背中を預け合えたこと。
確かに、悪くないと思った。
護衛の旅は過酷だったが、どこか懐かしくもあった。
俺はかつて、あの空気の中で生きていたのだ。
だからこそ、ハルトに言われた時――「冒険者にならねぇのか?」と、
一瞬だけ、心が揺れたのも事実だった。
冒険者。
それは、孤児だった頃の俺が憧れた生き方だった。
名もなき子どもが剣を持ち、魔物を倒し、人々を救い、やがて伝説の勇者となる。
絵本の中の話だと思っていたその夢が、兵士として戦場に立つうちに現実のように見えてきたこともある。
現に、英雄譚は実在する。
どこかの国では、冒険者から王になった者もいるという。
魔物を退け、村を守り、剣を讃えられる日々。
その道を選んでいたら、あるいは――と、過去に一度でも考えなかったと言えば、嘘になる。
けど。
現実の“戦”を知ってしまった俺は、もう夢のままではいられなかった。
兵士時代、どれだけ多くの仲間を失っただろう。
昨日まで飯を分け合い、寝床を並べていた奴が、翌朝には土に還る。
「この戦が終わったら結婚するんだ」と笑っていた部下の顔が、真っ赤に染まっていくのを、何度見た?
魔法の時代だ。治癒術もある。
けど、それでも人は――死んだら、もう戻らない。
蘇生の奇跡なんて、童話の中だけだ。
仮にどこかの術者が死者を蘇らせたとして、それは本当に“その人”なのか?
記憶を持った人形ではなく、魂まで同じ存在なのか?
……俺には、答えが出せない。
「サリス」
思わず名前を呼ぶと、彼女は「うん?」と穏やかに返した。
シーツの上、まだ起き上がれないまま、それでも笑ってくれる。
「冒険者っていう生き方は、立派だと思ってる。
だけど、俺は……英雄になりたいわけじゃないんだ」
「……うん」
「国のためでも、民のためでもない。
俺が守りたいのは、もっと小さくて、手の届く場所にある」
その目に浮かぶのは、今まさにここにいる彼女の姿だった。
栗色の髪。瑠璃色の瞳。
海の底から、俺の人生を引き上げてくれた存在。
一緒に旅をして、笑って、泣いて、怒って。
朝食を並べ、夜は歌を聞きながら眠る。
……それだけで、もう十分だと思える日々が、確かにここにある。
「……俺はこれでいいと思ってる。
毎日、お前と生きる。それが、俺にとっての幸せなんだ」
一瞬の静寂の後、サリスがそっと目を伏せた。
それから、まるで泉の水が溢れるように、言葉がこぼれてくる。
「……でも、ひとりのお姫様を救ってくれたのは、紛れもなくあなたよ?忘れちゃった?」
レオは、言葉を飲んだ。
「悪者に攫われて、泣いていたお姫様を、
誰にも頼まれたわけでもなく、命懸けで助け出してくれた。
檻の中に閉じ込められていた私を、連れ出してくれた。
……それはね、誰にでもできることじゃないのよ」
「……サリス」
彼女は続ける。
「もし、あのとき出会わなかったら。
私は海に帰れず、檻の中で命を落としていたかもしれない。
あるいは、持っていた力が暴走して、誰かを傷つけていたかもしれない。
──そうならなかったのは、レオ、あなたがいてくれたから」
その目に浮かぶのは、憧れではない。崇拝でもない。
ただ、深い感謝と愛が混ざった、ひとりの女性の、まっすぐな気持ち。
「伝説にならなくてもいい。
あなたは私にとっての“勇者様”よ。
獅子の名を持った、誇り高き勇者様」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……サリス、ありが──」
「まぁ、ちょっとスケベだけど」
「は?」
あまりに唐突な追い打ちに、レオは固まる。
「おい!最初は感動してたのになんでそうオチをつけたがる!?スケベは余計だろ!」
「だって昨日は本当にすごかったんだから。ある意味……”伝説級”よ?」
「そんなことで伝説になりたくねぇ!!」
「あらあら…そんなに怒らないでちょうだいな、勇者様?」
サリスはくすくすと笑う。
まるで、俺の照れ隠しも、突っぱねる言葉も、すべてお見通しだと言わんばかりに。
「……もう、サリスさんには一生敵わないな」
シーツの上で動けないまま、彼女は頷いた。
「ええ。最初から、そのつもりでお付き合いしてますもの」
俺は、そんな彼女の髪を撫でた。
愛しくて、守りたくてたまらない、この命。
どこまでも、ただのひとりの男で構わない。
でも、この手で、彼女を守ることだけは、何があっても譲れないと思った。
今日という日を、彼女と共に生きる。
明日も、その先も。
……ずっと。
そして、心のどこかでそっと呟いた。
「……ああ。俺の人生は、間違ってなかった」
──Fin
