護衛任務と、離れて初めて気付くもの
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朝靄が街の屋根にかかっていた。
陽が昇ると同時に、レオは目を覚ました。
宿の窓を開ければ、遠くの市場からパンを焼く香りと、店を開く準備をする人々の気配が届く。
――帰る日だ。
昨日までの護衛任務。魔物との戦い。
賑やかで、少し騒がしい夜。
それらすべてが、まるでずっと昔のことのように思えた。
リュックの紐をきゅっと締め、背負い直す。
彼女が包んでくれた昼食の布も、丁寧に畳んで脇にしまった。
もう一度、返すつもりだった。
「サリス……」
呟くだけで胸が熱くなる。
あと三日。
この道を引き返せば、またあの街に、あの宿に、そしてあの微笑みに辿り着ける。
宿の階下に降りると、すでにハルトとアッシュが荷をまとめていた。
ハルトは持ち前の明るさで、誰彼構わず声をかけ、アッシュはその後ろで苦笑しながら荷物を整えていた。
「よぉ、レオ! ちゃんと起きたな」
「当然だ。……寝坊なんてしてる場合じゃない」
「そりゃそうだよな。待ってる女がいるんだからよ!」
「……茶化すなって言ったはずだろ」
そう言いながらも、レオの表情はどこか柔らかかった。
この数日の旅の中で、生まれた信頼。
剣を交え、魔物と戦い、夜を越えた“戦友”という繋がりは、何にも代えがたい。
「またどっかで会ったら、一緒に剣振ろうぜ」
ハルトが手を差し出してくる。
力強く、それでいてまっすぐな手だった。
レオも無言でその手を握り返す。
「……ああ。またな」
アッシュも穏やかに頷いた。
「お前がいなかったら、今ごろ俺たち、ブラッディ・ベアの腹の中だったろうな。礼を言うよ、レオ」
「お前らがいたから、俺も剣を抜けた。感謝してる」
短く、けれどしっかりと交わされた言葉たち。
男たちは多くを語らない。だが、それで十分だった。
最後に、傷の癒えかけたメルキオが、玄関口で杖をついて立っていた。
風に揺れる灰色の髪、年老いた瞳が細く笑う。
「……君のような者が、戦場ではなく旅路にいるのは、ある意味で世界の救いだよ」
レオは小さく首を振った。
「戦うためじゃなく、守るために強くなっただけだよ。……俺には、守りたいものがあるから」
メルキオは何も言わず、深く一礼した。
それぞれが、別の道へと旅立っていく。
この世界では、再会より別れのほうが多いのかもしれない。
けれど、それでも。
“またどこかで”という思いが、レオの背を押した。
*
三日後の夕方。
馴染みある城下町が見えたとき、レオは無意識に足を速めていた。
宿の木扉が見える。
いつもと変わらない、ちょっと古びた扉板。
それなのに、心臓が妙に高鳴っていた。
コン、コン――
扉を軽く叩く。
中から小さな足音が近づき、鍵の外れる音がした。
そして、開いた扉の向こう。
栗色の髪が、ぱっと風に揺れた。
「……レオ」
「……ただいま」
それだけの言葉で、ふたりの距離はゼロになる。
サリスは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにふわりと微笑んだ。
その笑顔が、泣きたくなるほど恋しかった。
言葉もないまま、レオは彼女を抱き寄せた。
彼女もまた、黙ってその胸に顔を埋める。
互いの温もりを確かめるように、ただ強く、そっと抱き合った。
「手紙、届いたわ。……嬉しかった」
「遅くなって悪かった。……もう、離れたくない」
「ふふ……そう言うと思ってた」
彼女の手は、少し冷えていた。
でも、心は誰よりもあたたかかった。
やがて、部屋の中に招かれると、テーブルの上には――
あの言葉通り、あたたかなスープが用意されていた。
湯気が、やさしくレオの頬を撫でる。
「焦がさずにできたか?」
「ちょっと味見してみる?」
彼女の差し出すスプーンをひと口。
……やさしい味だった。
何よりも、帰ってきたという実感がそこにあった。
