エメラルドの檻 ─番外編─【オリジナル夢】
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森を抜けたあの若い旅人と人魚の娘が去ってからというもの、森の聖域には久しぶりに静寂が戻っていた。
エルフ族の長・カルヴァスは、苔むした古木の根元に寝転びながら、まどろみの中にいた。
日差しは穏やかに木々の隙間から降り注ぎ、風は枝葉を優しく揺らす。鳥のさえずりも心地よく、まさに完璧な昼寝日和だった。
「……ん……ふぁ……風の流れも穏やか……よし、今日はこのまま……もう少し……」
横たわったまま、彼は天を仰ぐ。
白銀の髪がふわりと風に揺れ、長衣の裾が木の根に絡まっているが、そんなことは一切気にしていない。
歳にして一千を越えるハイエルフの長でありながら、その姿はどう見ても20代後半。精悍な顔立ちと長身、知恵と気品の象徴──……のはずだった。
「──カルヴァス様っ!!」
突如、森の奥から若いエルフたちの声が飛んだ。
「また昼寝ですか!? 薬草の整理も会議の記録も、ぜんぶ放りっぱなしですよ!」
「それに明日は、森の長老たちとの月会議ですっ!」
カルヴァスは微動だにせず、木陰に溶け込んだままぽつりとつぶやいた。
「……人は休むと書いて“休”と読む。エルフも然り、な」
「詩的な逃げ口上やめてください!」
「サリス様たちがいたときは、もう少しちゃんとしてたのに……」
「そりゃあな……若いふたりの前でカッコ悪い姿は見せられんだろう……」
ぶつぶつ言いながら、カルヴァスはゆっくりと体を起こす。
背伸びをしながら、大あくび。
「いやー、よく寝た。よく育った。何が? わからん。だがとにかく、陽の気がいい」
「いいから働いてください!!」
若いエルフたちは、カルヴァスの腕を片方ずつ引っ張り、ずるずると森の管理棟へ引っ張っていく。
「……カルヴァス様、ちゃんと長老会の資料まとめてくださいね……!」
「…面倒すぎる。私より長いこと生きとるくせに、なんであの長老どもは字が読めんのだ」
「愚痴言ってないで、今日こそは仕事してくださいね!」
しぶしぶ立ち上がりつつ、カルヴァスはぽつりと呟いた。
「……レオとサリスか。もうどこまで行ったんだろうな……」
ふっと、森の奥に向けて笑みを浮かべる。
「まったく、ああいう若い芽を見ると……働く気が、なくなるな」
「意味わかりませんからっ!!!」
今日もまた、静かなる聖域にはのんびりとした怒号(?)が響いていた。
──それが、森の長の、ひとときの「平穏なる混沌」。
エルフたちの永き日々の中で起こる、ほんの一片の微笑ましい日常である。
─Fin
