恋人の観察日記Part2
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─サリスの場合
人間の命は、とても短い。
それは、かつての私には眩しくて、そして少しだけ怖かった。
燃え上がるように一瞬で咲いて、儚く消えてしまう――
まるで、夏の夜に浜辺で見た、あの花火のよう。
音も、色も、余韻も、全部が美しくて
でも、気がつけばもう、夜空には何も残っていない。
そのあとに広がる、静かで、どこか寂しい暗闇だけが、そこにある。
*
昔――まだ海の中で暮らしていた頃、私はとある人間の女の子と仲良くなったことがある。
その子は毎日、岬の岩場までやってきて、私に会いに来た。
名前は……今となってはもう、思い出せない。
けれど、あの声や笑い方、揺れる金色の髪は、今でも心に残っている。
「人魚姫になりたいの」と、彼女はよく言っていた。
「お魚とお話して、海の中を泳ぎたいの。いつか、あなたみたいになりたいの」
その願いが、本気だったのか、幼い夢だったのか――今となってはわからない。
けれどその子は、やがて大人になり、結婚して、子どもを産み、
やがて老いて、静かに眠るように亡くなった。
その命の流れは、とても穏やかで美しかった。
でも私には――あまりに早すぎたの。
海の底でその知らせを聞いたとき、私はずっと、深い眠りに落ちたように動けなかった。
波の音さえ遠くに感じた。
あの時からだった。
私は年齢を数えるのをやめた。
何年生きてきたのか、自分でももう、はっきりしない。
記憶の水面は揺れていて、
どこまでが夢で、どこまでが現実だったのか――ときどき、わからなくなるの。
私はアトランティスで、儀式を受けて人間になった。
姿かたちは地上の者と変わらない。
肌は太陽に焼けるようになり、
冬には凍える手をレオが包んでくれる。
夏の夜には、風の熱さで寝苦しさを知るようになった。
加護は失った。
でも代わりに得たのは、“この世界に触れる実感”だった。
痛みも、寒さも、喉の渇きも、
そして……彼の手の温かさも。
全部、本当のものとして感じられるようになった。
お父様も、儀式のあとにこう言った。
「人魚であったお前の魂と、いまの身体が、どこまで融合したのか――それは誰にもわからぬ」
「だが、選んだのならば、前を向いて生きるがよい」
……だから私は、考えるのをやめた。
どこまでが人間で、どこまでがかつての自分なのか。
それはもう、大した問題ではないと思えたから。
けれど――
*
レオと旅をして、嬉しいことがたくさんあった。
小さな街で食べた甘い果実。
夜に見上げた星空。
風に揺れる麦畑を駆け抜けた午後。
そして、何度も笑い合って、じゃれ合って、キスをして、抱きしめ合って。
本当に、毎日が幸せだった。
……でもその一方で、命を失いかけた場面も、何度もあった。
彼が戦ったあの夜。
彼が倒れて、動かなくなった時。
あの時私は、自分の心臓が張り裂けそうになるのを感じた。
「明日には、彼の命が消えてしまうかもしれない」
その可能性が、現実としてそこにあった。
人間は、儚い。
命は、あまりにあっけなく消えてしまう。
だからこそ、こんなにも愛おしいのかもしれない。
*
ねぇ、レオ。
私、また生まれ変わる時があったら――
その時も、もう一度、あなたに会いたいの。
たとえあなたが記憶を失っていても、
たとえ私が違う姿をしていても、
あなたに会ったら、きっと気づく。
「この人だ」と。
「この手だ」と。
「この温もりだ」と。
昔、乳母が言っていた。
「魂の結びつきがとても深い者たちは、姿が変わっても、種族が違っていても、必ず惹かれ合うのよ」
「記憶がなくても、心の奥底が覚えているの。だから、大丈夫。愛は、姿に宿るものじゃないから」
私はその言葉を、ずっと信じていた。
きっとレオとは、前世でもどこかで出会っていたのだと思う。
言葉にできない懐かしさ。
初めて会ったのに、ずっと昔から知っていたようなあの感覚。
彼と目が合ったとき、
彼の手を握ったとき、
彼に歌を聴かせたとき――
そのたびに、私の心は確かに震えていた。
ねぇ、レオ。
もし、どんなに遠く離れても。
もし、時代が変わっても。
もし、姿が違っていても。
私はきっと、あなたを見つけるわ。
何度でも、何度でも。
それが、私の祈り。
魂に刻まれた、歌よりも深い約束。
──Fin
人間の命は、とても短い。
それは、かつての私には眩しくて、そして少しだけ怖かった。
燃え上がるように一瞬で咲いて、儚く消えてしまう――
まるで、夏の夜に浜辺で見た、あの花火のよう。
音も、色も、余韻も、全部が美しくて
でも、気がつけばもう、夜空には何も残っていない。
そのあとに広がる、静かで、どこか寂しい暗闇だけが、そこにある。
*
昔――まだ海の中で暮らしていた頃、私はとある人間の女の子と仲良くなったことがある。
その子は毎日、岬の岩場までやってきて、私に会いに来た。
名前は……今となってはもう、思い出せない。
けれど、あの声や笑い方、揺れる金色の髪は、今でも心に残っている。
「人魚姫になりたいの」と、彼女はよく言っていた。
「お魚とお話して、海の中を泳ぎたいの。いつか、あなたみたいになりたいの」
その願いが、本気だったのか、幼い夢だったのか――今となってはわからない。
けれどその子は、やがて大人になり、結婚して、子どもを産み、
やがて老いて、静かに眠るように亡くなった。
その命の流れは、とても穏やかで美しかった。
でも私には――あまりに早すぎたの。
海の底でその知らせを聞いたとき、私はずっと、深い眠りに落ちたように動けなかった。
波の音さえ遠くに感じた。
あの時からだった。
私は年齢を数えるのをやめた。
何年生きてきたのか、自分でももう、はっきりしない。
記憶の水面は揺れていて、
どこまでが夢で、どこまでが現実だったのか――ときどき、わからなくなるの。
私はアトランティスで、儀式を受けて人間になった。
姿かたちは地上の者と変わらない。
肌は太陽に焼けるようになり、
冬には凍える手をレオが包んでくれる。
夏の夜には、風の熱さで寝苦しさを知るようになった。
加護は失った。
でも代わりに得たのは、“この世界に触れる実感”だった。
痛みも、寒さも、喉の渇きも、
そして……彼の手の温かさも。
全部、本当のものとして感じられるようになった。
お父様も、儀式のあとにこう言った。
「人魚であったお前の魂と、いまの身体が、どこまで融合したのか――それは誰にもわからぬ」
「だが、選んだのならば、前を向いて生きるがよい」
……だから私は、考えるのをやめた。
どこまでが人間で、どこまでがかつての自分なのか。
それはもう、大した問題ではないと思えたから。
けれど――
*
レオと旅をして、嬉しいことがたくさんあった。
小さな街で食べた甘い果実。
夜に見上げた星空。
風に揺れる麦畑を駆け抜けた午後。
そして、何度も笑い合って、じゃれ合って、キスをして、抱きしめ合って。
本当に、毎日が幸せだった。
……でもその一方で、命を失いかけた場面も、何度もあった。
彼が戦ったあの夜。
彼が倒れて、動かなくなった時。
あの時私は、自分の心臓が張り裂けそうになるのを感じた。
「明日には、彼の命が消えてしまうかもしれない」
その可能性が、現実としてそこにあった。
人間は、儚い。
命は、あまりにあっけなく消えてしまう。
だからこそ、こんなにも愛おしいのかもしれない。
*
ねぇ、レオ。
私、また生まれ変わる時があったら――
その時も、もう一度、あなたに会いたいの。
たとえあなたが記憶を失っていても、
たとえ私が違う姿をしていても、
あなたに会ったら、きっと気づく。
「この人だ」と。
「この手だ」と。
「この温もりだ」と。
昔、乳母が言っていた。
「魂の結びつきがとても深い者たちは、姿が変わっても、種族が違っていても、必ず惹かれ合うのよ」
「記憶がなくても、心の奥底が覚えているの。だから、大丈夫。愛は、姿に宿るものじゃないから」
私はその言葉を、ずっと信じていた。
きっとレオとは、前世でもどこかで出会っていたのだと思う。
言葉にできない懐かしさ。
初めて会ったのに、ずっと昔から知っていたようなあの感覚。
彼と目が合ったとき、
彼の手を握ったとき、
彼に歌を聴かせたとき――
そのたびに、私の心は確かに震えていた。
ねぇ、レオ。
もし、どんなに遠く離れても。
もし、時代が変わっても。
もし、姿が違っていても。
私はきっと、あなたを見つけるわ。
何度でも、何度でも。
それが、私の祈り。
魂に刻まれた、歌よりも深い約束。
──Fin
