恋人の観察日記Part2
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─レオの場合
ふと、考えてしまう時がある。
サリスは、いったい何歳なのだろう、と。
彼女と出会って、もう二年近くになる。
人間の感覚で言えば、子どもが一つ年を重ね、背丈が少し伸びて、
旅の荷物の重さに慣れていく程度の、そんな時間。
でも――彼女にとっては、どうなのだろう。
サリスはかつて人魚で、王の意思を受け継ぐ姫であった。
彼女は言っていた。「私たちは何百年も生きるの。中には千年を越える者もいる」と。
それはもう、人間とは別の尺度で生きているということだ。
命の重さも、時間の流れも、感じ方も、きっとまったく違う。
俺の年齢は……正直、よくわからない。
たぶん、二十歳前後だと思う。
誕生日も、親の名前も、故郷の匂いも、全部曖昧なまま、ただ風のように生きてきた。
唯一あるのは、かつて俺を拾ってくれた兵士がくれた名――“レオ”。
ベルトホルト。
無骨で、ぶっきらぼうで、でも……あの人がいなければ、俺は今ここにいなかった。
「お前に似合う名前だ」と言って、剣を握らせてくれた。
あの名が、今でも俺の全ての始まりだ。
*
旅の夜、焚き火を囲んでいたとき、サリスに年齢のことを聞いたことがある。
「私は……ある時から、数えるのをやめたわ」
火の明かりが彼女の横顔を照らし、長い髪の先が揺れていた。
そのときのサリスの瞳は、まるで遠い過去を覗くように、かすかに揺れていた。
「昔、とても仲良くなった女の子がいたの。人間の子。まだ小さくて、よく歌を教えてってせがまれたわ」
「その子は“人魚姫になりたいの”って言って、海に向かって毎晩お祈りしていたの」
その子が少しずつ大人になっていく姿を、サリスは海の中から見ていたという。
春が来て、夏が過ぎ、秋には家族を持ち、やがて冬が訪れ……
それでも、彼女はサリスを忘れずにいてくれたらしい。
「でも、人間の寿命は、とても短いの」
「その子が老いていくのを見ているうちに、私は……時間を数えるのをやめたわ」
「いつかまた、誰かと出会って、別れることがあるのなら――それなら、数えても仕方ないと思ったの」
静かだった。
風の音が草原を撫でる音と、焚き火のぱちぱちという小さな音だけが、やけに響いていた。
俺は、そのとき返す言葉を見つけられなかった。
「そうなんだ」としか言えなかった。
でもその夜、彼女が肩を寄せてきて、そっと俺の手に自分の手を重ねてくれた。
そのぬくもりに、俺はただ黙って寄り添った。
きっとサリスは、数えきれないほどの「別れ」を見てきたんだ。
深い深い海の底で、静かに。
それでも微笑んでいるのは、その全てを背負って生きてきたからだろう。
*
思えば、人魚という種族は――とても儚い。
長命である反面、魂は脆く、恋をするときには命ごと捧げるという。
愛が叶わなければ、泡となって消えてしまうとも聞く。
人間に恋をするということが、彼女たちにとってどれほど大きな意味を持つのか……
俺には、想像しきれない。
サリスも、俺にそれを話したとき、「もう怖くはない」と言った。
「あなたを選んだ時点で、全部を受け入れると決めたの」と。
そんなことを、あんなに真っすぐに言える彼女が、
俺には、眩しくて、そして切なかった。
だって、俺はただの人間だから。
魔法も使えなければ、特別な血も流れていない。
この命は、せいぜい、あと数十年の寿命しかない。
サリスが、もし本当に百年、二百年と生きるなら。
俺がいなくなった後、彼女はまた、孤独になるのだろうか。
彼女の隣に生きるには、俺はあまりにも脆い。
そう思うと、胸が締めつけられる。
……でも。
それでも俺は、彼女の隣にいたい。
何十年だろうと、数十年だろうと――
その全てを、彼女のために使いたいと思う。
彼女の笑顔のために、
彼女の涙をぬぐうために、
彼女の手を、最後まで離さないために。
もしかすると、俺の命は、
彼女の長い人生の中の、ほんの一瞬の光かもしれない。
でも、だからこそ燃やし尽くす意味があるんだ。
炎はいつか消える。
でも、その灯火で誰かを温められたのなら――それで十分じゃないか。
サリスの精霊の加護はもう失われた。
でも、彼女は自然に愛されている。
風がその髪を撫で、鳥たちは彼女に寄ってくる。
花は彼女の歌に応えるように咲き誇る。
もしかすると、彼女は“人ならざる何か”に、
選ばれているのかもしれない。
……でも、それでもいい。
俺は、彼女の隣で、ただの“人間”として生きていく。
名前をくれた人がいる。
手を伸ばしてくれた人がいる。
そして今は、愛する人が隣にいる。
それ以上に、何を望むというのか。
明日の朝になったら、サリスにまた笑顔で「おはよう」って言おう。
俺が今、生きているこの時間のすべてを、
彼女と分け合えることに、胸を張って感謝しよう。
彼女の年齢は、もう聞かない。
けれど、代わりにこう言おう。
「今この瞬間、俺はお前の隣にいる。
それが、俺のすべてだ」って。
ふと、考えてしまう時がある。
サリスは、いったい何歳なのだろう、と。
彼女と出会って、もう二年近くになる。
人間の感覚で言えば、子どもが一つ年を重ね、背丈が少し伸びて、
旅の荷物の重さに慣れていく程度の、そんな時間。
でも――彼女にとっては、どうなのだろう。
サリスはかつて人魚で、王の意思を受け継ぐ姫であった。
彼女は言っていた。「私たちは何百年も生きるの。中には千年を越える者もいる」と。
それはもう、人間とは別の尺度で生きているということだ。
命の重さも、時間の流れも、感じ方も、きっとまったく違う。
俺の年齢は……正直、よくわからない。
たぶん、二十歳前後だと思う。
誕生日も、親の名前も、故郷の匂いも、全部曖昧なまま、ただ風のように生きてきた。
唯一あるのは、かつて俺を拾ってくれた兵士がくれた名――“レオ”。
ベルトホルト。
無骨で、ぶっきらぼうで、でも……あの人がいなければ、俺は今ここにいなかった。
「お前に似合う名前だ」と言って、剣を握らせてくれた。
あの名が、今でも俺の全ての始まりだ。
*
旅の夜、焚き火を囲んでいたとき、サリスに年齢のことを聞いたことがある。
「私は……ある時から、数えるのをやめたわ」
火の明かりが彼女の横顔を照らし、長い髪の先が揺れていた。
そのときのサリスの瞳は、まるで遠い過去を覗くように、かすかに揺れていた。
「昔、とても仲良くなった女の子がいたの。人間の子。まだ小さくて、よく歌を教えてってせがまれたわ」
「その子は“人魚姫になりたいの”って言って、海に向かって毎晩お祈りしていたの」
その子が少しずつ大人になっていく姿を、サリスは海の中から見ていたという。
春が来て、夏が過ぎ、秋には家族を持ち、やがて冬が訪れ……
それでも、彼女はサリスを忘れずにいてくれたらしい。
「でも、人間の寿命は、とても短いの」
「その子が老いていくのを見ているうちに、私は……時間を数えるのをやめたわ」
「いつかまた、誰かと出会って、別れることがあるのなら――それなら、数えても仕方ないと思ったの」
静かだった。
風の音が草原を撫でる音と、焚き火のぱちぱちという小さな音だけが、やけに響いていた。
俺は、そのとき返す言葉を見つけられなかった。
「そうなんだ」としか言えなかった。
でもその夜、彼女が肩を寄せてきて、そっと俺の手に自分の手を重ねてくれた。
そのぬくもりに、俺はただ黙って寄り添った。
きっとサリスは、数えきれないほどの「別れ」を見てきたんだ。
深い深い海の底で、静かに。
それでも微笑んでいるのは、その全てを背負って生きてきたからだろう。
*
思えば、人魚という種族は――とても儚い。
長命である反面、魂は脆く、恋をするときには命ごと捧げるという。
愛が叶わなければ、泡となって消えてしまうとも聞く。
人間に恋をするということが、彼女たちにとってどれほど大きな意味を持つのか……
俺には、想像しきれない。
サリスも、俺にそれを話したとき、「もう怖くはない」と言った。
「あなたを選んだ時点で、全部を受け入れると決めたの」と。
そんなことを、あんなに真っすぐに言える彼女が、
俺には、眩しくて、そして切なかった。
だって、俺はただの人間だから。
魔法も使えなければ、特別な血も流れていない。
この命は、せいぜい、あと数十年の寿命しかない。
サリスが、もし本当に百年、二百年と生きるなら。
俺がいなくなった後、彼女はまた、孤独になるのだろうか。
彼女の隣に生きるには、俺はあまりにも脆い。
そう思うと、胸が締めつけられる。
……でも。
それでも俺は、彼女の隣にいたい。
何十年だろうと、数十年だろうと――
その全てを、彼女のために使いたいと思う。
彼女の笑顔のために、
彼女の涙をぬぐうために、
彼女の手を、最後まで離さないために。
もしかすると、俺の命は、
彼女の長い人生の中の、ほんの一瞬の光かもしれない。
でも、だからこそ燃やし尽くす意味があるんだ。
炎はいつか消える。
でも、その灯火で誰かを温められたのなら――それで十分じゃないか。
サリスの精霊の加護はもう失われた。
でも、彼女は自然に愛されている。
風がその髪を撫で、鳥たちは彼女に寄ってくる。
花は彼女の歌に応えるように咲き誇る。
もしかすると、彼女は“人ならざる何か”に、
選ばれているのかもしれない。
……でも、それでもいい。
俺は、彼女の隣で、ただの“人間”として生きていく。
名前をくれた人がいる。
手を伸ばしてくれた人がいる。
そして今は、愛する人が隣にいる。
それ以上に、何を望むというのか。
明日の朝になったら、サリスにまた笑顔で「おはよう」って言おう。
俺が今、生きているこの時間のすべてを、
彼女と分け合えることに、胸を張って感謝しよう。
彼女の年齢は、もう聞かない。
けれど、代わりにこう言おう。
「今この瞬間、俺はお前の隣にいる。
それが、俺のすべてだ」って。
