【人魚伝説に溺れる男】Part2
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──「……生きててよかったって、つくづく思うよ」
そう口にした瞬間、自分でも驚いた。
こんなにも自然に、本音がこぼれるなんて思ってもいなかった。
作ろうとした言葉じゃない。
照れ隠しでも、誰かのためでもない。
ただ、本心として、心の底からそう思えた。
目の前で、サリスがじっと俺を見つめていた。
何も言わずに。
けれど、その瞳には──言葉よりも多くのものが宿っていた。
あたたかくて、優しくて、どこまでも深くて──
まるで、包み込まれるような……いや、“赦される”ような眼差しだった。
目を逸らしたくなるような深さがあった。
だけど、決して責める色ではなかった。
俺の全部を、過去も痛みも弱さも──
知っていて、それでもなお、「ここにいていい」と肯定してくれるような視線。
そして、彼女はふわりと微笑んだ。
「……生きてて良かったって、思えたのね。
良かったわ……レオが急にいなくなってしまったら、悲しいもの」
その声はとても穏やかだった。
けれど、俺にはわかった。
その中に滲んでいた“本音”が、どれだけ重いか。
(……ああ、彼女は本当に、俺の命を想ってくれてるんだ)
旅の最中、戦っている時も。
知らない街で、どこか物思いに沈んでいるときも。
サリスはいつも、黙って俺の背中を見つめていた。
心配していたはずなのに、
無理に声をかけたり、気持ちを探ろうとしたりはしなかった。
──信じて、待ってくれていたんだ。
その強さが、俺にはたまらなく尊く思えた。
優しいだけじゃない。
痛みを知っていて、それでも人を想える強さ。
折れずに誰かのために祈れる心。
(……強いな、こいつ)
改めて、そう思った。
「……ありがとうな」
ぽつりと、ようやく出てきたのは、それだけだった。
もっと何か言うべきなのに、
言葉が出てこなかった。
サリスは静かに笑って、首をふる。
「私は、ただ素直な気持ちを言っただけよ。
……ねぇ、レオ」
「ん?」
「生きててよかったって、思える旅を、これからもいっぱいしましょう?」
「……ああ」
その言葉に、迷いはなかった。
もう、迷う理由がない。
過去に縛られることも、死を願うことも──
それはもう、俺の中に必要ない。
彼女がいてくれるなら、
これからの時間を、“生きるため”に使いたいと思えた。
話題は、いつの間にか未来へと移っていた。
まだ見ぬ景色。まだ知らぬ文化。まだ出会っていない誰か。
そして、サリスが語ってくれた、遥か東方の地。
それはまるで、童話のような国で──
でもきっと、本当にどこかにあると信じられる場所だった。
「そういえば、東方って魔法も独特なんだよな」
コーヒーを飲み干してから、ふと思い出したように口を開いた。
「そうなの?」
サリスはまた興味津々な顔になる。
「聞いた話だと──こっちの“火の魔法”や“雷撃”みたいなのとは違ってさ。“陰陽道”とか、“神楽”って呼ばれる術があるらしい。
呪符を使ったり、歌や舞で神様の力を借りるんだと」
「神楽……舞……」
サリスは目を輝かせて呟いた。
「なんだか素敵ね。巫女のような存在かしら?」
「それに近いかもな。
“霊術”って呼ばれてるらしい。戦うためじゃなく、祈るための術……
神様と人をつなぐ儀式に近いんだろうな」
サリスは、膝の上に手を乗せて考え込む。
「……じゃあ、私が東方の歌や舞を学んだら、
また違う祈りの形になるかしら?
精霊じゃなくて、神様に届くような歌──そんなのも、素敵ね」
その横顔が、ほんとうに楽しそうで。
俺は少しだけ、からかうように言ってみた。
「お前なら、すぐ身につけられそうだな。なんか、巫女服似合いそうだし」
サリスはくすりと笑った。
「ふふ、それって褒めてるの?」
「ああ。褒めてる」
正直、想像してみたら──
思いのほか、破壊力があった。
髪を結い、白と赤の衣装を身にまとって、
舞うサリスの姿なんて……
いや、想像だけで心臓が跳ねるのはどうかと思う。それぐらい俺は彼女にベタ惚れなんだ。
「……世界って、広いな」
呟いたその言葉は、ただの感想ではなかった。
東方に限らず、まだ見ぬ地がこの世界にはたくさんある。
知らない文化、異なる神々、思いもよらない祈りの形──
「……でも、どこだって連れていける。
お前が望むなら、海の底でも、雲の上でも」
「ほんとに? じゃあ、約束よ?」
「……ああ、絶対に」
こんなにも自然に、“未来”を語れるようになったことが──
俺にとっては、小さな奇跡だった。
あの夜、剣を持って立ちすくんでいた自分が、
今こうして、隣の彼女と笑って、旅の続きを話している。
世界の果てまで、どこまでも一緒に。
サリスとなら、きっとそれができる。
“生きていてよかった”──
それは、過去の悔いではなく、これからの誓いに変わっていた。
静かに射し込む朝の光の中で、
ふたりの旅は、まだ始まったばかりだった。
──Fin
